13話 オブリガーダ

逃げるように、看護師さんから逃げるように、秋乃から逃げるように病院を出た。


ずっと一緒に居たいから、彼女から離れる。矛盾しているのはわかってる。


「見なかったことに………」


できない。ずっと秋乃の泣き声で三半規管をやられてぼうっとしてくる。

もう聞こえないはずなのに。病気でも耳をやられたわけでもないのに。


それなのに何故か。平衡感覚が掴めなくなっていた。


プルン。と自分のスマホの着信音がなった。


「莉奈から?」


スマホを立ち上げて通知欄を開いてタップすると、こんなメールが来ていた。


『なんで帰ってこないの?』??


あ、「はてな、はみ出てるはみ出てる」と突っ込みを入れてしまった。


今時、メッセージアプリ、通話アプリ、とかって色々あるけど総称してSNS?

それに、Twitterや、インスタグラム?LINEなど使っていて常識レベルで普及している。世の中変わったものだと思う。


でも、僕はどれもやってない。妹にもLINEやろうと何回か誘われてるけどそれでも入れなかった。そうすると絶対に秋乃が「登録しよ」なんて言ってくるからだ。

まぁ、これだけじゃないんやけどね。


それに伴い周りと、深く関わらなくて済むからと割り切っている。


秋乃とLINEなんて交換できない。でも交換できない理由もない。じゃあなんなんだろう。今までずっとこれも一生解けないブラック問題リストにはいってる。因みにこの問題リストの一個はこれ。


7+7÷7+7×7-7っていう問題。これの答えをaからdで選べとあるけど分からない。


ちなみにa=0 b=8 c=50 d=56。これのどれかが答えというね。

正解?正解は…分からない。分かったらブラック問題リストに入ってない。


とまぁ、交換できない理由はこれと同等レベルでわからない。

アインシュタインが出した問題よりは簡単かもだけど。


閑話休題。


だから。ラインなんてやらないと決めている。


『帰ってきて欲しいの?』


と手短に莉奈に返信した。


「結構離れたと思うけど、まだ新宿だよなー」


はぁ、と溜息を吐いて途方にくれることもなくどっかに歩いていく。

下を向いて歩いていたらいつしか大通りに出でいてたくさんの人が行き来していたから僕ははっと驚いて立ち止まってしまった。


「こんなとこに…ここ何処?ああ、セントラルロードか…」


東京医科大学からそんなに歩いてたのか…。

ここは歌舞伎町。だから人が多くて賑やか。だけどこの喧騒さが今は鬱陶しかった。


「今日はもう…帰ろうかな…」


終電までまだまだ。岐阜になんて今からいけばすぐに着く。


「あまりここには長居したくない…裏路地にでも…」


嫌な感覚がして、後ろを振り向く。勿論。だれもいなかった。

微かな風が頬を撫でるだけで、人が歩いている。その光景しか視界に入らない。


「警戒しとこう。悪寒がする…」


結局は、目的地は定まっておらず右往左往して歩いているだけ。

まだ、何か。心残りみたいなのがある。


今更、戻りに行ったところで面会時間関係なく行けるわけもなくもう帰るしかないと分かっていても変にウロウロしてしまう。


「…やっぱり、病院をでた辺りから変な感じがする」


背後と正面から明確に自分に対してかは分からないけど視線を感じていた。

最近は、あまり警戒もクソもない生活だったからこういった事には鈍っていた。


普通に視線を感じること自体可笑しいと客観的に理解はしている。

普通なら、ね。


新宿のセントラルロードを歩いているだけだけど尾行をされているというのには気づいた。イライラしてるから喧嘩なら直接来て欲しい。勝てるかわからんが。


夜じゃないけど、ネオン街だからか所々にピンク色の看板や蠱惑的なお店が並んでいて尾行されているのを気づいたから撒くために通っているけど居た堪れない。


ネオンの光の中を、金と欲をぶら下げた人が行き交う、暗い文化の坩堝に未成年である僕がいる事は場違いなのに…ここは大人のワンダーランドのはずなのに…。


だからしっかりと、尾行してきた奴を嵌めよう。そう決心して新宿ゴールデン街に足を早めた。


5分で歌舞伎町を抜けて、ゴールデン街に入ったのでここから尾行してくるを撒いて目的だけ聞くつもり。


一先ず、後ろを振り向かずに真っ直ぐに歩いて十字路に出たら左に曲がる。


左に曲がって少し進んだ先に路地に入る小道があったからそこで身を少し潜める。


7秒後にその路地から出て、曲がった十字路まで戻る。その過程で…


「うわ!す、すみません」


女の子二人とぶつかりそうになり、僕は意図的に謝った。相手は単純だな。


「え?あ、こちらこそすみません」


確信した。この二人が僕の後ろをほっつき歩いてきた方だと。

だから、少しのカマをかけてみようと思った。。


「今から、東京医科大学まで向かおうと思っていたんですが道を間違えてしまったので戻ったのですが東京医科大学はこちらの方面で大丈夫でしょうか?」


「えっと、何しに行かれるのですか?」


「入院している方に会いに…」


(これはカマをかける以前に答えを喋ってるような物なんだけど、まぁいいや)


「そうなんですね。あ、それと東京医科大学は反対ですよ?」


応答してくれている女の子は後ろでお団子で一纏めにしてある子で、もう一人がポニーテールの子。その二人は目線で確認?をしたぽかった。


「うーん…すみません。説明が足りませんでしたね。東京医科大学にはさっき行ったのですが忘れ物をしてしまい取りに行こうとしてたのですがここら辺の地理にはあまり詳しくありませんので。なので帰った道を引き返してきたんです」


チェックメイト。カマなんてかける必要もなかったな。


「なので、反対というのは可笑しいと思うのですが」


「えっと、それは」


お団子の子がたじろぎ、ポニーテールの子が口を開いた。


「この子も、ここの地理には詳しくないので間違ってしまったようです。東京医科大学は今貴方が来た道を真っ直ぐいって左に右折すればわかると思います」


「態々、ご丁寧にありがとうございます。ですがそちらの子はここらの地理に詳しくない割にははっきりと反対と申されていた気がしますが気のせいでしょう。これで漸く取りに行くついでに…あ、すいません。では自分はこれで」


と、去ろうとする姿勢を見せて、最後にと言う形で言い忘れていた事があると言う建前でこう尋ねた。


「そういえば律儀に教えてくれた方はさっき病院前で見かけましたね。今更なんですが思い出しました。病院からここまで距離はなくずっとここら辺でうろつく理由なんかも無く而も自分が通ってきた道から見かけた顔の方とぶつかりそうになる。これって少し不自然ですよね」


と、遠回しに後をつけて来てたろ。と言っているようなものだが噛み付くか…まぁ中3の女の子だし多分。


「ど、どう言う意味でしょうか?」


「自分病院を出てから結構時間が経っていて、その時間の内にあなたもどこかに歩いている筈なのは確かです。これは普通なんですが、自分が戻ってくるタイミングと貴方方がこちらに戻ってくるタイミングが少し噛み合いすぎてると思いまして。

今簡単に頭の中で樹形図を展開して軽くそろばんを弾いたんですがあり得ない確率なので」


「それは、そちらの思い込みでは?第1ここら辺で暇を潰す可能性も…」


「はぁ、やっぱり尾行してたんですね」!


「え?なんで、あっ!尾行なんてしてません」


「今口を滑らしたのを誤魔化すのには限界が」


思わず苦笑してしまう。同時に純粋な秋乃のクラスメイトなんだと理解した。


「うっ、因みになんで分かったんですか?」


視線を感じたのとお団子の女の子がまぁ…いや。まぁ謎でも推理でもなんでもないし話術なんか使うレベルでもない。そもそも話術なんて知らない。


「お団子の子が口を滑らしたからですね」


「はぁ、そうなんですね」


ポニーテールの子がお団子の子をじーと見てお団子の子はオロオロ視線が泳いだ。


「まぁ、それはそうとなんでついて来たんですか?」


純粋な疑問。深い接点も。関わりもない筈だ。


「それは、あなたが花田さんの病室から出てくるのを見たので好奇心と疑念…」


「そうだったんですか」


「…お願いです。もう一度、花田さんに会いに行ってくれませんか!?柚和さんの話をしてる時は楽しそうに話してて来てくれるのが嬉しいし楽しみとも言っていたんです!お願いできませんか?」


「…もし仮に、もし仮にですがそんなことを思ってたとしても病室から出た時点で僕の要は済みました。それに面会時間も過ぎています。彼女の病気は他人との関わりで酷くなるんです。話せば結局辛い思いをする。貴方方二人もあまり関わりを持とうとしない方が彼女の為です」


自分の気持ちを優先して彼女の病気を重くするわけにはいかない。


「でも、逆を言えば他人との関わりがないと治らないですよね」


これには僕も口籠った。


「僕は彼女が入院してからずっと。お見舞いに行っていますがそれでもまだ治ってないんです。関わりがないと治らない病気ですが現状治ってないんです。だったらもう」


「いいから、早く行けって言ってるでしょう!」


お団子の子に言い切る前に怒鳴られた。意味が分からん。根拠に基づいたことを言ってると思うのだけど。


「だから言ったじゃないですか。忘れ物をしたと。財布もそこにあるので帰ろうにも帰れないんです。だから結局取りに戻るんですが…」


さっき言ったと思うのだけど。

お団子の子は「すみませんすみませんすみませんすみませんすみません」の連呼で宥めるのが大変。


実は、財布がないのは本当だけどお金は一応ある。


きっと、心のどこかで戻りたいと思ってたんだと思う。



♦︎ごめん


そして現在、忘れ物を取りに来たと言う建前で病室の前にいる。


コンコン。


「はぁい」


「忘れ物取りに来た」


「…そうなんだ」


僕を見た途端、喜色を浮かべたが直ぐに泣きそうな顔になる。


だけど、荷物を置いていた机にはなくてどこにあるのかと探したらすぐに見つかったけど、一番取りずらいところにあった。


「えっと、何で持ってるの?」


「返したくないから」


「帰れないんだけど」


「帰んなくていい。ここに泊まればいい」


「泊まる場所はないけど、なんで?」


「一緒にいたいから」


思わずため息が出てしまった。別にいてほしいならいるけど帰れないのはちょっとといった感じで意味が分からない。


「いや、でもまた来るし」


看護師さんにあんなこと言っておいてまた来るとか…どうしようもないなと思ったけど仕方ない。結局自分は甘いのだ。


「それでも、いやだ。また来てくれるまでの間が辛くて嫌だよ」


「…それはどうしようもないけど、そんなに一緒にいたいならさっさと治して退院すればいいじゃん。ずっとこっちにいたくても莉奈いるからキツイんだよね」


「治せば、一緒に居れるの?」


「治せばね。もっと一緒に居れる時間は増えるよ。ま、荷物を持っててくれてありがとう。オブリガーダ♪」


「オブリガーダ?」


「ありがとうって意味だよ。確か…ポルトガル語だった気が」


「そうなんだ…。それじゃ私もオブリガーダ!」




【作者コメント】


取り敢えず、語彙力ない最初の章は終わったんですがイマイチ、ラブコメっぽさがなかった気がしますが次の章からはまぁラブコメが多少入ると思います。


4000文字言ってるので長くってすみません。次回からはまた2000文字程度になると思います。(作者の自慢知識が植え込まれなければ)


これからも、ラブコメかわからないラブコメを読んで貰えたわ嬉しい限りですので

語彙力足りなくて物足りないと言う方は説教ついでに教えていただけると有難いです(苦笑)


では!

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