加護と呪いの輪廻

くらもろー

プロローグ 加護を増やせる加護

 四月、高校最後の年が始まるはずだった……

 僕、"栗栖ジン"は幼馴染の女の子と、一緒に下校している。

 その幼馴染とは幼稚園に始まり、小中高と同じ学校に通っている。だが男女関係のお付き合いはしていない。

 恋の意識は……いろいろあって多分してない。というかできない。

 でも、他に意識している事がある。


「いよいよ受験か」


 そう、受験である。


「ジンはさ、大学どこを受けるの?」


 隣を歩く幼馴染の少女は、さらりと流れるような長い髪を振りながら、こちらを向く。



 その長い髪は後ろでまとめてあり、いわゆるポニーテールだ。

 運動部に所属しているだけあって、スカートからは健康的でスラっとした長い脚が見える。

 ウエストは細い、だがブレザーの胸部は膨よか。つまり胸はあるほう……だと思う。


 そして綺麗に整った顔立ちに、澄んでいて強気な瞳。

 顔の偏差値は高い。

 間違いなく高いが……


「僕はまあ、家から通える大学かな……カヨは?」

「私も家から通える範囲しかダメだってさ」


 もし仮に恋愛ものなら、ここで「同じ大学に行くため、一緒に勉強する」ようなイベントが発生するだろう。

 だがこの幼馴染、"村雲カヨ"は違う。


「ジンと同じ大学は嫌だから、どこ行くか教えなさいよ」


 これである。このツンツンした性格のせいであまり男が寄ってこないが想像できる。

 だが、風の噂で誰かと付き合っていると聞いた。奇跡もあるもんだ。


「最近付き合ってた何とかトオルって大学生いなかったっけ?そこの大学行かないの?」

「あー……あのクズ、ね」


 突然、彼女の顔に怒りが滲み溢れた。

 これは聞かなかったほうがいいやつか?


「あいつ、初デートで無理矢理ホテルに連れ込もうとしてんのよ?信じられる!?」

「え!それマジ?どうなったの?」


 衝撃の事実、彼女は大人の階段を登っていた。


「近くにあった棒で頭をぶっ叩いてやったわ!」

「……え?それマジ?大丈夫なの?」


 衝撃の事実、大人の階段は叩き壊されていた。


 カヨの親は近所にある剣道場の師範で、彼女自身も有段者だ。

 僕も小中と同じ道場に通っていた。

 ……が、高校で辞めてしまった。


 中学の時、カヨの親父に『ジン君、付き合うなら俺を倒してからにしろ』って言われた記憶がある。

 時代遅れにも程があるぞ、親父。と、ていうか何とかトオル君はカヨの親父を倒してないだろ。


 もしかして親父を倒せるだけの実力がないと、物理的な意味で付き合う資格がないということなんだろうか?


「まあ、見る目が無かったって事だな。お互いに」

「それ、どういう意味?」

「そのままだよ」


 僕は昔から彼女をおちょっくってるので、殴られるラインがわかる。


「カヨの性格と危険性を知っていれば、付き合う奴なんていないだろ?」

「へぇ……」


 カヨは指をボキボキと鳴らし始めた。

 あ、これは多分……殴られるラインだ。一発で踏み越えてしまった。

 僕の予想では、もう少し余裕があったと思ったが……


 カヨは右こぶしを振り上げた。

 彼女は手が出るのが早い。というか躊躇がない。

 しかし、殴られると予想が出来れば避けることができる。

 

 そんなテレフォンパンチ、目をつぶってても……


 シュ!


 刹那、振りかぶった右手ではなく、左手からジャブが放たれる。

 視界が揺れ、顔面に衝撃を感じた。

 

 まったく反応できなかった。ジャブの速さは人間の反射速度を凌駕するらしい。


 ゴッ!


 そして追撃の右ストレート。

 今までにないパターン。僕は無様に鼻血を出した。


「……!?」

「可愛い幼馴染の心配しなさいよ……!」

「自分で可愛いって言うな!」


 戦闘力の高いツンツンを煽るのも大変である。

 僕は鼻を押さえて反論した。


「それに、心配しただろ? 叩かれた大学生の」

「ジンくん? まだご褒美足りないんだ?」

「カヨさん、その言い方は誤解を招くと思いますよ」

「……おかわりをあげるわ」


 カヨは僕に笑顔を向けた。

 可愛い幼馴染の機嫌が直って、何よりである。


 彼女は僕の股間目掛け、前蹴りを放った。


 反射的にケツを引いて息子直撃だけは回避した……が、殺意を持ってふり抜かれた前蹴り。

 そのままみぞおちに爪先がめり込む。

 横隔膜にダメージを受け、肺の空気が外に出される。そして力なく僕は前のめりに倒れた。


 今日は何一つ攻撃を回避できなかった……完全敗北である。


 鼻血を出しながら勝者を見上げ、謝罪した。


「調子乗りました……ごめん……なさい……」

「よろしい」

「あと……」

「なに?」


 短いスカートの隙間から下着が見えた。

 今日のパンツは薄い水玉か……


「今日のパンツは……可愛いですね」

「お前ぇ!!」


 その時、突然空が光った。


「ん?」


 青天の霹靂という奴だろうか、青空に稲妻が走っている。

 全身にゾワっとした感覚が走り、髪の毛が逆立った。

 次の瞬間、視界が真っ白になり何も聞こえなくなった……




 …………




 気がつくと真っ白い空間にいた。僕は鼻血を垂らしながら、うずくまった姿勢だった。


 正面には白いヒゲを生やした優しそうなジイさんと、不機嫌な顔をした女性が立っていた。

 他に周りには何もない。


 話しかけるべきかと考えるも、蹴られたダメージが回復するまで、ちょっと喋れそうにない。

 僕とジイさんの目はあってるが、微妙な沈黙が流れる。


「やたらイチャイチャしとったのぅ。お前さんドMか?」


 沈黙に負けてジイさんが喋り出した。


「ちッ!」


 隣の女性が機嫌悪そうに舌打ちする。初セリフが舌打ちとか感じ悪くない?

 この女性の人は多分、未婚彼氏無しで生理の日だ。話しかけないでおこう。


「ゴホ!あの、ここは……ゴフ!何処……ですか?」

「あの世みたいな所じゃ、お前らは雷に撃たれて死んだ」

「……死んだ?」

「そう、死んだ。間違いなく」


 え?死んだ?だってほら……


「死んだのにさっき蹴られたダメージは残ってるんですか?」

「気になるのソコ?」


 情報量の多い状況なので、一つずつ整理していく。

 まず死んでも蹴りのダメージは残る。メモメモ。


「えっと……お前”ら”は死んだって事は隣にいた……カヨも?」


 そう意識すると、隣にカヨが見えてきた。

 驚きながらキョロキョロと周りを見ている見回している。


「え?どこ?」

「……あの世らしいよ」


 彼女はまず僕に気付き、そして前にいる怪しい二人を見た。


「ちょっとジン、パンツ見て鼻血出してるの……?」


 彼女はスカートを押さえた。

 僕はパンツを見て興奮して鼻血を出した、そういう設定で行くわけね。

 そんな奴いねぇよ。


「その男はお前に殴られて鼻血を出しとったぞ」


 ジイさんナイスフォロー


「オイ!話が進まないだろう!」


 未婚女性(生理日)がドンっと足を踏み鳴らしてキレた。

 ジイさんをガチ睨みしている。


「わーお、ヘリウム並の沸点っすね」


 興味に負けて、少し煽ってみた。


「あ?ぶっ殺すぞ」

「すんません。殺さないでください」


 やっぱり話しかけるのやめよう。


「いや、もうコイツら死んでるのじゃが……」


 ジイさんナイスツッコミ


「ともあれ、人が死んだ場合このまま"カルマ"を背負って輪廻転生……生まれ変わるのじゃが……」

「カルマ?」


 重要そうなニューワード出てきました。


「あ、いや”カルマ”はこの際、どうでもいい」


 ニューワード消えて行きました。


「ただ、未来ある男女が不幸で死ぬのは忍びないからの、現世に戻れるチャンスをやろう」

「チャンス?」

「そう、ちょっとゴミ掃除を手伝ってほしいんじゃ」


 僕もカヨも周りを見回す。


「この部屋、ゴミなんて落ちてないでしょ?鼻血でちょっと汚れてるけど」

「いいや、この部屋の掃除でも、その汚い鼻血の跡でもない」


 今まで人の良さそうなジイさんの雰囲気が変わった。


「別の世界に転移して、ゴミ掃除を手伝って欲しい……」


 背筋に寒気が走り、すぐに立ち上がった。

 あやしい、コイツ絶対にあやしい!

 陰気で陰湿、そして不気味な……


「もし、断ったら?」

「別にええぞ、そのまま輪廻に戻り、何かに生まれ変わるだけじゃ」


 ジイさんが下に指を指すと、白い床がポッカリと空いた。

 その穴を見下ろすと赤黒い何かを囲む形で人だかりを作っている。

 この道は見覚えがある……さっきまで僕らはそこにいたから。


 ……その赤黒い何は人の形をしている。

 もしかしてあれは、死体……?


 カヨも薄々感づき、口を開く。


「これは……何?」

「言わんでもわかるじゃろ?雷に打たれたお前らの死体じゃ」


 その穴は赤黒い何かに近づいていく。


「私のカバン……」


 焼け焦げたカバンには彼女のキーホルダーがあった。


「死んだ」その言葉がようやく真実味を帯びる。

 自分の死体を見ることによって。

 うそ、と小さく呟き彼女は青い顔をして震えだし、僕の手を握りしめた。



 ……でも鼻血がついてる僕の手は汚かった。

「うわっ」と小声を出し、手を離してハンカチで拭いている。


「今の結構シリアス路線で行ったのに、なかなかギャグパートから脱け出せんな……」

「あ、すんません」


 僕も鼻血で汚れた手を拭きたい。どっか水道無いかな。


「まあそんな思い詰める事はない。ちょっと掃除してもらえば落雷を無かった事にできる」

「本当に!?」

「うむ、更に掃除しやすいよう、好きな"神の加護"を一つ付けてやろう」


 神の加護?またニューワード出ました。


「"神の加護"って何ですか?」

「神の加護とは……例えば最強の剣を貰えるとか、最強の肉体を授けるとか、英雄になるとか……そんなのじゃ」

「オレツエーやれって事ですか?言ってて恥ずかしく無いですか?」

「……ちょっと恥ずかしい」


 ともあれ僕達は死んだのだ、このジイさんのせいで実感薄いけど。

 死んだままが嫌なら、やる以外の他に選択肢は無い。


「チャンスがあるなら、やるしかないですよね」

「よし、栗栖ジン、お前は転移決定じゃ」


 カヨは震えながら俯いていた。

 あんなに暴力的でも女の子だ。死んだと言う事実は重いのだろう。


「わ、私は……」

「カヨ……」


 僕は俯いた彼女の肩に手をかける。


「私はお姫様になりたい!」


「「……は?」」


 僕とジイさんはあっけにとられる。


 そうか、そう来たか。こいつ、こんな願望があったのか。

 カヨは顔真っ赤だ。恥ずかしいなら遠慮してどうぞ。


「ちっ!ガキの遊びじゃねぇんだよ!」


 未婚女性がキレた。分かる。


「ま、まあ姫といってもピンキリじゃ。末席王族でキモい大臣に嫁ぐことが決まってる第13王女くらいなら用意できるが……」

「タイム!タイム!不良物件の紹介は良くないですよ!」


 僕は後ろを向いてカヨに耳打ちをした。


「落ち着け!お前本当は頭いい方なんだから、もうちょいなんかあるだろ!強い勇者とか魔法使いとか!」

「……わかった」


 向き直ったカヨはジイさんに言った。


「その別の世界には魔法とかあるの?」

「ある世界もあるぞ」

「じゃあ、さっき言ったゴミ掃除って何?」

「うっ!まあ、そうじゃの、まあ魔物退治みたいなもんじゃ」

「目が泳いでるぞジイさん、こっち見ろや」

「はい」


 お姫様の言葉使いは優雅だった。


「その魔物退治に魔法は必要なの?」

「必須じゃな。無いと話にならん」

「じゃあ決まりね……私は"大"魔法使いの上!"超"魔法使いになるわ!」


 ビシっと指をさして決めポーズ。

 質問は悪くないと思ったのに、結論はアホの子ですね。


「えぇ?その"超"魔法使いってどういう……お前さんの中で、何か定義でもあるんかの?」

「凄い強くて凄い事ができて凄い……」


 凄いを凄い羅列しないでください。


「……お前らを送ろうとしてる世界の魔法は、出した魔法の強さが変わる"魔力"と、使える回数が増える"魔気量"がある」


 解説ありがとうジイさん


「じゃあ全ての魔法が使えて、その辺がMAXって事でヨロシク!」

「お前……欲張りさんじゃな」

「あ、ちゃんとコントロールもできるようにね!」


 注文多いな……女の買い物はこれだから……


「まあええじゃろう、村雲カヨ、"超"魔法使いの加護を授けるぞ」


 ジイさんが手が輝き、一冊の本が出てくる。

 カヨはその本を受け取った。


「この本は?」

「これまで開発された全ての魔法が書いてある通称"スキルブック"。その日本語マニュアルじゃ。

 持ち歩かなくても手をかざせば出てくる魔法の本じゃ」


 日本語対応は親切ですね。


「加護は授けた。一度スキルブックを読めばその情報は魂に刻まれて、魔法を使えるようになるぞ」

「……ねえ?魔法使いって言ったけど、魔法少女とは違うの?」

「知らんがな、勝手に名乗ればいいがな」


 その時、何故か後ろの独身女性もニヤリと笑った。

 不気味過ぎる。魔法少女がツボったのだろうか?


「栗栖ジン。次はお前の番じゃな」

「何でもいいのですかね?」


 何だろう、何がいいかな……魔物を倒すんだろ?

 ぶっちゃけ彼女が魔法ぶっ放せば終わるのかな?


「まさか……お前さんは第13王女になりたいとか?」

「待てコラ」

「あの大臣の性癖は……ヤヴァイぞ?」

「……ジジイ、お前を第13王女にするって加護は選べるの?」

「嫌じゃよ」

「嫌?出来ないわけじゃなくて嫌?じゃあ選べるってことか」

「……ワシが悪かったから、もうちょっと実用的なやつを……ね?ね?」


 実用的なやつねぇ……この際、禁じ手的なのでもいいのだろうか?


「じゃあさ、"加護を増やせる加護"って有り?」

「……ええぞ」


 ジイさんはニヤリと笑い、快諾した。


「いいの!?」

「その代わり、ここを出る前にもう一個、別の加護を授ける。これが条件じゃ」


 わーお、お得じゃんこんなの。


「まあ増えた加護は相応に弱くなるがの」

「いやでもコレお得でしょ?」

「お得じゃよ」


 カヨが口を挟んできた。


「ちょっと!私もそっちの方がいいんだけど!」


 ジイさんはやれやれといった表情でカヨに言った。


「お前にはもう加護を授けておる。返品不可じゃ。安心せい、負けんくらい強力な加護じゃ」

「そう、ならいいけど……」


 ふむ、魔法が強力だと言うなら、攻撃はあの短気なお姫様に任せよう。

 二つ目は……防御的な……生き残る為の加護にするか。


「じゃあジイさん、まずは"加護を増やす加護"を」

「ええぞ、では二つ目の加護は?この娘と同じ様にするか?」

「それは芸がないから……"危険を察知して生き残る"加護とかどうでしょう?」

「ほう、幼馴染に手を出せない、ヘタレなチキン野郎のお前にはピッタリじゃな」


 ⋯⋯命知らずのジジイめ、何も分かってないな。


 僕はジイさんに近づいて耳打ちをした。


「手を出したらほら……ね?(床の鼻血を指さす)」

「あ……(察し)すまんかった……」

「分かれば……いいんです。その為の加護だし……」


「ゴホン、ともあれ二つ目の加護を授けるぞ」


 ジイさんの手が輝きだし、光の中から本が出てくる。


「お前のスキルブックには別世界で生き残る為の術や基礎知識が書いてあるぞ」

「う、なんか微妙だったかな……」

「安心せい。攻撃を避ける為の予知に加えて、身体能力も上がっておる。二つ目の加護じゃから若干弱いがの」


 予知!?かっこいい!


「そりゃご親切にどうも。本の中を見ていい?」


 爺さんが頷いたのでペラりとページをめくる。そして僕は目を見開いた。


「……これ、ヘブライ語ですか?」

「あ、すまん」


 そう言ってジイさんはもう一冊くれた。今度はちゃんと日本語だった。

 チェックって大事だね。



 …………



「さぁて、ようやく加護を授かったようだねぇ」


 凄く不気味な笑みで独身女性がこちらに歩いてきた。

 歩くたび、近づくたび、白かった部屋が段々と暗くなっていく。


「これはどっちも強力な加護だ……いいねぇ!いいよぉ!」


 鼓動が早くなり足が竦む。得体のしれない恐怖というのか。

 こいつはヤバい!本能がヤバいと告げている。


「あ~あ……そう言えば自己紹介がまだだったねぇ!私は嫉妬の神リベ!このジジイは虚偽の神フェイル!」


 嫉妬の神。ああ、なるほど。


「世界と魂の均衡を保つ為、強力な神の加護にはそれ相応のリスクがある」

「リスク?そんな話は……」

「ハハハ!聞かれてないからねぇ……言わないさぁ!でも安心しな、ちょっと呪われるだけだ」


 近づくにつれ、恐怖が大きくなる。

 ゆっくりとカヨの肩に手を置いて囁く。


「村雲カヨ、お前には【幸運がある度、不幸が訪れる呪い】を」

「どういう意味よ……!?」

「そのまんまの意味さ」


 カヨは胸を押さえ、目を大きく開いて震えている。


 次にリベは僕の肩にも手を置いた。


「栗栖ジン、お前にはそうだな……【お前を愛する者の人間性を狂わせる呪い】を」


 その瞬間、体の奥底に何かが刻まれた。

 言いようのない恐怖、嫌悪感、吐き気、悪寒……これが呪い?


「愛する者?人間性?」

「フフフ、試してみればいいんじゃないのかい?」


 意味が分からない、人間性を狂わす?どういう事だ?

 試すってどうやって……

 僕の驚きを余所に、リベは満面の笑みで話を続けた。


「あとお前は加護を増やす度、呪いが増える」

「で、ですよねー」

「ククッ……その余裕がいつまで続くか本当に楽しみだよ」


 リベが手を離すと、猛烈に感じていた不快感、違和感がフッと消えた。


「ワシは虚偽の神と言われておるが……」

「「黙れジジイ!」」


 僕とカヨは叫んだ。コイツには強気だ。


「まあ聞け、説明に嘘は言っとらん。ワシは神では無いという意味の虚偽じゃ」

「ほう?じゃなんで神を名乗るんですか」

「色々あってな……ワシが本当の神に戻る為には、神座の空席を作らなくてはならん。

 じゃから、お前らは神の塔に行って神を一人封印してほしい。」

「ちょっと!それ掃除でも魔物退治じゃないでしょ!」

「神も魔物も似たようなもんじゃよ。ほれ、リベを見てみろ」


 あーなるほどね。

 もちろん言われたリベは機嫌が急悪化してる。


「神の封印、それが"お前らが元の世界で生き返る”為の条件じゃ」

「神様相手に……そんな事できるの?」

「最上位の古代魔法に神級封印魔法がある。そいつでイチコロじゃよ」


 カヨはすかさず魔法の本、スキルブックを開く。


「今すぐアンタに使うわ。ページどこ?」

「やれ!カヨ姫!」

「ちょ!やめろ!」


 慌てるジイさん。封印魔法とやらは本当にあるようだ。


 不機嫌そうなリベはドン!と足をふみ鳴らした。怖いからいちいち威圧しないでほしい。


「……漫才は終わりだ」


 パンッ!


 リベが手を叩くと自分を中心に空間歪んでいった。

 そして周りが捻じれながら、段々と背景に青と緑色が混じってくる。


「お前達には期待してる。フフフ、良い旅を……」



 …………



 景色が変わり、僕とカヨは小高い丘の上に立っていた。

 下には森が広がっている。そのはるか遠く、森を超えた先の場所に街が見える。

 これは……別の世界に来たのだろうか……?


「なあ、カヨ」

「……何?」

「今度から神様と契約する前に、ちゃんと確認しようと思う」

「……そうね」


 カヨはこっちを向いた。

 それに気づいた僕も彼女を見る。

 目があった。



 整った顔立ちをした少女。

 ……その瞳は汚物を見るような、冷たい瞳をしていた。


「それより汚いから、鼻血拭いて」

「……はい」

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