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「あの、君の言葉があったから、今、僕はここにいることができるんだ」蛍は言った。

 そんな蛍の言葉を、菜奈は耳を澄ませてただじっと聞いていた。

 でも、次第に菜奈は少しずつ気持ちが落ち着いてきた。

 大丈夫。お母さんは助かる。きっと手術は成功する。にっこりと笑っている蛍くんのことを見ていたら、菜奈は自然とそう思うことができるようになってきた。

「ありがとう、蛍くん」

 今度は菜奈が蛍にお礼を言った。

「こちらこそ、本当にどうもありがとう」そう言って、蛍はそっと、菜奈の体に自分の両手を軽く回した。

 菜奈はそんな突然の蛍くんの行動にとても驚いた。

 でも、……そんなに嫌な感じはしなかった。

 むしろ、すごく安心できた。


 だから菜奈は、そうか。やっぱり私は、桜井蛍くんに(勘違いじゃなくて)ちゃんと恋をしているんだ、と自分の気持ちに気がつくことができた。


「……蛍くん」

 菜奈は蛍くんの背中に自分の手を回した。

 そして二人はしばらくの間、そうやってお互いの体をぎゅっと抱きしめ合っていた。

 周囲の人の目は気にならなかった。

 菜奈はずっと、お母さんの手術の成功だけを、大好きな蛍くんの腕の中で、祈り続けていた。


 その菜奈の祈りが神様に通じたのかどうかはわからないけれど、蛍くんの言う通り、菜奈のお母さんの手術はこの日、きちんと成功した。

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