私が桜井蛍くんに恋をしたのはいったいいつだろう?


 とそんなことをいつもの病院の一階にある自動販売機横のベンチに一人で座って、いつもの缶コーヒーを飲みながら、貝塚菜奈は考えていた。


 その具体的な時期を菜奈は特定することができなかった。

 もしかしたら初めて会ったときから(それは今、私のいるこの場所だった)私は蛍くんに恋をしていたのかもしれないし、どこかのタイミングで、運命の電車がその走っている線路を切り替えるように、蛍くんに恋をしたのかもしれなかった。

 菜奈はそんなことを考えながら時計を確認する。

 そろそろ、この場所で父を待ってから二十分が経過しようとしていた。


「菜奈。こっちに来なさい」

 すると、受付から戻ってきた菜奈の父が菜奈にそう言って手招きをした。

「はい」

 菜奈は空っぽになった缶コーヒーの缶をゴミ箱に捨ててから、ベンチを立って、父のいるところにまで移動をした。


「お母さんの手術。いつに決まったの?」

 病院の出入り口のところで、菜奈は言った。

「二週間後。……菜奈。それまでに一応、心の準備をしておきなさい」と菜奈の父は菜奈を見ないで、(菜奈はずっと父の横顔を見ていた)そう言った。

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