すぐに電話は切れてしまった。佐々木るみはどんどん面白くなるでござるとか何とか言って、おもむろにタブレットを取り出して何やら記録し始めてしまった。


「さっきのは一体どういうことなんだろう。斎藤奈緒さんの声に聞こえたけど」


 敏彦さんが呟く。


「うーむ、分かりませぬなあ。電話を受け取った時は年配の男性のような声でしたぞ?斎藤奈緒さんに代わって頂けますか、と」


「あ、言うの忘れてたんですけど」


 ヒロがまたも話を遮って言う。私はなぜか少しほっとしていた。敏彦さんにこれ以上話して欲しくない。敏彦さんは宝石みたいに綺麗なんだから、ただそこにいるだけでいい、それで価値があるんだ。


「タキオさん生きてるんです」


「えっそうなの」


「だからあの、相談しなくて悪かったんですけど、タキオさん今日呼びました、ダメですかね?」


「いや、ダメってことは。俺が判断することじゃないから」


 敏彦さんがこちらを見る。

 私はさっきまでの恐怖も忘れて――いや、忘れたのではない、それ以上の喜びで恐怖がかき消されていた。

 タキオが生きている。タキオが生きているということは、この出来の悪いホラー映画のようなストーリーの結末が決まったということだ。金町タキオは最強のお助けキャラだったのだ。


「ありがとうヒロ、本当にありがとう、やっぱり頼ってよかった。色々感じ悪くしてごめんね」


 ヒロはにっこり笑って全然だよ、と言った。


「あの、ご迷惑でなければ斎藤さんだけじゃなくて、佐々木さんと敏彦さんにもいて欲しいんですが」


「それはもちろん、かまわないけど」


 敏彦さんが私に向かって微笑む。人の心をかき乱すような笑顔だった。


「安心して、俺は興味本位でついてきただけだから、もう何も言わないよ」


 ヒロが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。私は目を膝に落とすことしかできなかった。



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