朱雀攻略

「ララさんとラシーカさんは戦車に搭乗してください」


 突然。ミスミス総統より指示があった。

 ララは自分が戦車に乗るとは思ってもみなかったようできょとんとしている。メカ好きのラシーカは飛び上がって喜んでいた。


「わーい。ララちゃんと一緒に戦車に乗れるんだね。ラッキーだね。えへへ♡」

「いや。私は現場で指揮を……」

「この戦車は最低三人必要なの。お願いね、ララさん」


 ミスミス総統の指示に反論しようとするララを抱きしめたラシーカが戦車の上に飛び乗った。そしてハッチを開け、三人は戦車の中へと乗り込む。

 ララが操縦席、ラシーカが砲手席、ミスミス総統が車長席へと座る。


「姉さま。私が不在では白兵戦に不安があります」

「大丈夫よ。ララさんがいると手柄をみんな持って行っちゃうからね。あの馬鹿者共にも花を持たせてあげて」

「はい。分かりました」


 ミスミス総統の説得に渋々応じるララだった。ラシーカはレバーを色々いじくって遊んでいる。

「私は試作超重戦車オイのAIレイカです。ラシーカさんですね。宜しくお願い致します」

「ご丁寧にありがとうございます。赤竜族のラシーカと言います」

「基本操作はこちらが担当します。ラシーカさんはトリガーを引いてください」

「これね。分かったわ」


 レバーを握りしめ正面のモニタを睨むラシーカ。

 そこには朱雀正面ゲートが映っており、そこを戦術破壊目標として認識していた。


「ゲップハルトはガンシップにてこちらの指定ポイントへ狙撃せよ。補助に付けたAIコントロールのガンシップ二機と連携しろ。バートラス二機を制空に充てた。上は気にするな」

「了解しました。ミスミス総統」

「オルガノさん」

「はい」

「朱雀内部への突入はお任せします。ブレイとハルト君を付けます」

「了解した」

「ブレイ。あなた分かってるわよね。ここで汚名をそそがなければ一生私の奴隷にしますよ」

「了解。絶対に仲間を救出して見せます」

「ハルト君もよ」

「分かっています。あの卑劣なバラモットを殲滅します!」

「結構」


 ブレイとハルト君は武者震いをしていた。どうやらミスミス総統に直接指揮されるのが非常に嬉しかったらしい。さらに内心は大きな声では言えないゴニョゴニョミスミス総統の奴隷ならソレはそれでいいんじゃないかな?があったのかもしれない。


「三十秒後に正面ゲートに築いてあるバリケードを除去する。突入部隊は戦車の後方にて待機」

「了解」

「ラシーカ。主砲発射準備」

「発射準備に入ります。薬室内重力子接続開始」

「重力子ライフリング起動」

「起動しました」

「重力子砲発射30秒前」

「30秒前……29……28……」


 ラシーカがカウントダウンを始めた。しかし、ララは目を見開き仰天している。


「姉さま。この戦車の主砲は滑腔砲ではなかったのですか?」

「見た目は滑腔砲。でも中身は重力子砲なの。着弾点の重力を一時的に崩壊させ無重力から一気に5000Gまで崩壊させるのよ。崩壊作用時間は0.01秒ほどだけど効果は絶大。見てなさい」

「はい。分かりました」


 ラシーカのカウントダウンは続く。


「5……4……3……2……1」

「発射!」

「行っけぇ~」


 超重戦車オイの主砲から眩い光弾が発射された。

 乗用車やトラック、机やイス、建設資材など様々なものがうず高く積み上げられていた正面ゲートのバリケードだが、瞬間的に潰れてしまい平坦になってしまった。直径100mほどの範囲だけが一時的に重力崩壊作用を受けたのだ。


「さあ行きましょうか? ゲップハルトはこのゲートを死守。外部から誰も入れるな!」

「了解」


 ゲップハルトに付帯していた二機のガンシップが高度を下げ、まばらに蠢いているゾンビに対して攻撃を開始した。一体、また一体と屍が炎に包まれる。


「ララさん。微速前進よ」

「了解」


 ララはギアを前進一段に放り込み、スロットルを少し開放する。

 キュイーンという甲高い音と共にオイ車はゆっくりと動き始めた。そして正面ゲートを越え、巨大な駐車場へと侵入して行く。正面には三階建てだが、敷地面積がやたら広い建物があった。ゾンビから避難している人々が立てこもっているという場所。しかし、そこは既に吸血鬼であるバラモット達の王国へと変化しているという。


「停止」

「了解」


 ララがブレーキを操作し、オイ車が停止した。

 その正面、200mほどの距離に空間のゆがみが発生した。その中から姿を現したのが上半身のみ人型兵器であるコード:ハイペリオン・アッパーだった。


「ふはははは!! よく来たなララちゃま一行様々。熱烈歓迎いたしますよ」

「元締め、あの戦車は……」

「あのような旧態依然としたポンコツ戦車など恐るるに足らずだ。わははははは」

「アリ・ハリラー様? 本当にご存じないのですか?」

「無い。あのような旧大戦期にも採用されなかったポンコツデザインの戦車など笑いもののタネだ。がははははは」

「あの。拡声器使用中なので、外の方々に全て聞かれてますけれども」

「構わん。うははははは」


 ボン!


 オイ車の前部副砲塔から47㎜砲が火を噴いた。

 弾道は曲がらず、ハイペリオンの装甲へとへばりつき爆発した。


粘着榴弾HESHです。防御フィールドを突破されています」

「あっ! まじ? しかし、相手はたかが戦車だ。リュウとヴァイ。魔法で奴らの動きを止めろ。ブランとレイスは上空をウロウロしているガンシップにとどめを刺せ!」


 ハイペリオンの背後に控えていた戦闘員のリュウとアルヴァーレの魔女っ娘三名が躍り出る。魔女っ娘三名は浮遊魔法を使い空中に飛翔した。

 ヴァイが両掌開きオイ車の方へと向ける。その掌から瞬時に豪雪が吹き出し、見る見るうちにオイ車を包んでいく。


「姉さま。これは回避しなくてもいいのですか?」

「構わないわよ。やりたいようにさせておきなさい」


 上空へと飛翔したブランが突風を巻き起こす。態勢が崩れたガンシップへ向け、レイスが炎の槍を投擲した。

 炎の槍はガンシップへと突き刺さるものの、ガンシップの動きは止まらない。ブランは再び突風を巻き起こし、ガンシップ二機を地上へと叩き落した。そこへ狐耳をピクピクと痙攣させながらレイスが巨大な火球を放った。地上に落ちたガンシップはこの巨大な火球に包まれ爆発を起こす。ゲップハルトの搭乗しているガンシップは更に上空へと高度を取った。


「ゲップハルト。無理はするな。オルガノさん出番です!」


 オイ車の影からはオルガノ・ハナダ、ブレイとハルト君が姿を見せた。オルガノは抜刀しリュウへと向かう。ブレイとハルト君は長大な跳躍をして上空にいた魔女っ娘二名を抱きしめた。

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