忍者と武人

 一閃の光条が伸びる。

 墜落していたガンシップから赤備えにビーム砲が斉射されたのだ。胴の部分に大穴が開き、そして炎に包まれる。


「ゲップハルト。余計なことはせんでいい。中身は空だ」


 そう。それは忍法変わり身の術。

 そこにあるべき肉体はなく丸太に鎧が着せられていただけだった。その丸太が燃え盛っている。

 不意にオルガノの背後から忍び寄る影。それはオルガノの心臓に刃を突き立てた。


「グハッ!」


 口から鮮血を吐き出すオルガノ。黒い鎖帷子くさりかたびらを着た筋骨隆々の男、デミクラ=ナットーの仕業であった。

 完全に不意を突かれた格好になった。しかしララはデミクラ=ナットーの脛をけ飛ばしへし折っていた。片足になりそれでもバランスを崩さないデミクラ=ナットーだが、左わき腹をララの回し蹴りが捉える。

 苦悶の表情を浮かべつつその場に倒れるデミクラ=ナットー。右手首から蜘蛛の糸を吐き出しラシーカを捕まえた。そして糸を手繰りラシーカを抱きしめる。左手で短刀を握りラシーカの首に当てがった。


「動くな、この娘の命が惜しければ動くんじゃない」

「ほう。ラシーカを人質に取り何をする気だ」

「黙れ。この化け物ロリ娘!」

「ララちゃんの悪口はゆるしません!」

「黙ってろ。巨乳娘!」


 短刀の柄でラシーカの頭を叩くデミクラ=ナットー。その行為をララはじっと見つめている。


「お前、下衆だな」

「黙れ。自分は勝つためには手段を選ばない。これは絶対的な強さへの道程なのだ」

「なるほど。それは忍者としての矜持きょうじなのか?」

「忍者などという下賤なものと一緒にするな。自分は武人だ。武を極め究極の高みを目指すものだ!」

「矛盾している」


 白けた顔でデミクラ=ナットーを見下ろすララ。既に彼への興味を失っているようだった。


「お前は武人だ武の力だと言いながら、姑息な手段で勝利をつかもうとしている。そこが矛盾している。忍者であれば、勝利、いや、目的の為なら手段を選ばず達成する事にその存在価値がある。この、究極なる達成への意識は称賛に値する。逆に、武を極めるならばその武の力のみで戦え。姑息な手段は武の力とは逆方向だ」

「何を。このロリッ娘が偉そうに!!」


 ララはデミクラ=ナットーの顔を踏みつける。そして脚に体重をかけ、ぐりぐりとこね回した。


「いい痛い。やめろこのロリッ娘」

「今更情けを乞うのか? 忍者なら既に自決しているぞ」

「私は忍者ではない! 武人だ!!」

「ならば既に勝敗は決している。わきまえろ」


 ララはデミクラ=ナットーの鼻をぐしゃりと踏みつぶした。デミクラ=ナットーはラシーカを離し、両手で鼻を抑え悶絶する。


「おまえのその歪んだ思想では何も極めることはできぬ。残念だがその人生をやり直せ」


 ララは右掌を開きデミクラ=ナットーへと向ける。

 その掌が光り出し、同時にデミクラ=ナットーが苦しみ始めた。


「むむ胸が、心臓が苦しい、何をしたこのロリッ……ウグ」

「お前の心臓を握りつぶしてやる」


 ララが掌を握った瞬間にデミクラ=ナットーは鮮血を吐き出し絶命した。体躯を数度痙攣させ動かなくなった。


「ゲップハルト。こいつを焼け。跡形も残すな!」

「了解」


 ガンシップ・クロウラのビーム砲がデミクラ=ナットーの遺体に着弾する。

 数秒間、長めの照射でデミクラ=ナットーの遺体はわずかな灰を残し完全に消滅してしまった。


「ここまで忍者を馬鹿にしたやつは初めてだ。この倒錯したイデオロギーがなければ話せる奴だったかもしれないな」

「って言うか、ララちゃんの事をロリッ娘ロリッ娘って連発して本当に失礼しちゃうわ。もう、食っちゃおうかと思いました」

「ぷっ。こんなの食ったら腹壊すぞ?」

「いえ、ダイジョウブです。私はこれまでお腹壊したことありませんから。毒蛇とかムカデとかそんなの食べても平気なんです」

「そ、それは豪胆だな」

「ええ。ドラゴンですから(笑)」

「馬鹿者。もう少し美食に関心を持て。プリンとか最高だぞ」

「プ、プリンですね。あの柔らかくてプルプルしてて、そして甘くてまろやかで、ああ食べたくなりました」

「そうか、食べたいのか。とっておきのプッチンプリン特大サイズがあるぞ。ゲップハルト。私のクーラーボックスを出せ」


 ガンシップ・クロウラの扉が開きゲップハルトが青いクーラーボックスを持って出てきた。その中には特大サイズのプッチンプリン「happyプッチンプリン380g(実在の商品です!!)」が数個入っていた。

 ララはその中の一つを取りラシーカへと渡す。そして周りを見渡すのだが、男性陣は全て首を横に振っていた。


「何だ。いらないのか。ラシーカここは二人で食べつくそう」

「わーい。おいしそうです!!」


 地べたに座り、満面の笑みで特大のプッチンプリンをほおばるララとラシーカ。二人の表情は幸福そのものであったのだが、心臓を刺されて復活したオルガノがぼそりとつぶやいた。


「こんな状況で何故美味しくデザートが食べれるんだ」

「そうですね。周囲は焼け焦げた屍の山なんですが」

「焼肉くらいにしか思っていないのでは……うぷっ」


 同意したのはハルト君と狐耳のブレイだった。ブレイは今にも吐きそうに口元を押さえている。


「あのお嬢さん達は何やら別格のようだな。そこのガンシップの補給は?」

「すでに手配済みです」


 光学迷彩を解除してインスパイア・トルネードが接近してきた。実剣を抜刀し、ガンシップに絡まっていた蜘蛛の糸を切り取っていく。牽引していた大型のコンテナが開き、そこから伸びる複数のマジックハンドが自動で弾薬を補給していく。また、何本もの光るチューブが接続され、機関のエネルギーも補充しているようだ。


「ほほう。なかなか便利だな」

「ええ、ある程度のメンテナンスや補給は自動でなされます。もちろん、手のかかる部分は人に頼るしかありませんが」

「そうだろうな」


 オルガノとゲップハルトが話し込んでいる間にも、ララとラシーカはプリンをむさぼっている。二個目のプリンを食べつくしたところで三個目に手を出そうとした。しかし、残りは一つだった。

 ララとラシーカはお互い遠慮し、残りの一個を相手に勧める。二人が手を出さないので残っている最後の一個を手に取った女性がいた。


「これは私がもらいますね」

「ミサキ姉さま……いやミスミス総統。いつの間にガウガメラの方はよろしいのですか?」

「艦長が優秀ですからね。私もララさんたちと行動を共にします」


 そう言ってパクリとプリンをほおばるミスミス総統。しかし、その顔は少しも笑っていなかった。

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