エルダー・ドラゴン・ハイランダー

 超高級な別荘地ともいえるコロニー、エルダー・ドラゴン・ハイランダー。そこはだだっ広い敷地に別荘がぽつり、そしてまただだっ広い敷地に別荘がぽつり。そんな感じの整備された空間が広がっている。そして、コロニーの中央あたりには九角館と呼ばれる建物があり、そこがこのコロニーの中枢部らしい。


 ララたちが向かっているのはその九角館の周りに配置されている高級ホテル街とそれを取り囲むように配置されている高級ブランドショップ街、その裏手にある倉庫だった。


 ララとラシーカは手をつないで歩いている。ラシーカは鼻歌を歌い、超ご機嫌で絶好調だった。それはこのあたりの環境がずば抜けて良好であるからだろう。


 心地よい陽気。春の日差しと温かさ。

 そして、周囲には所狭しと植えられている色とりどりの花、花、花。


 チューリップやレンゲ草、ひまわりやコスモスが植えられている畑。ツツジやサツキ、椿などの樹木に咲く花も多くある。桃や桜も咲いているし、夏みかんの花のやや強い香りも漂う。

 季節はどうなっているのだろうか。すべての花が年中咲き続けるなどということがあり得るのだろうか。不信感の拭えないララだが、ラシーカはそれに気づかずはしゃぎまくっている。


「綺麗!! ララちゃんすごいよ。この花、何て花? 木にも一杯咲いてる。私が分かるのは桜とひまわりとチューリップ。ねえ、季節とかどうなってるの? ねえララちゃん」

「魔術か何かのチート能力だろうな。様々な季節の花が一堂に咲き誇っているのはかえって奇妙な気がする」

「そうなの?」

「花は咲きそして枯れ、果実が実り種となって次の世代へと受け継がれる。つまり、花が咲き続けること自体が自然とそぐわないのだ」

「なるほど。理科に哲学を織り交ぜた感じですね。やはり、私の知識はまだまだ未熟。勉学に励まねば!!」

「良い心がけだ」


 そんな、やや高尚な会話をしている二人の前に小柄な女性が立っていた。身長は150センチメートルと少々。スーツを着こなしているが、やや丸っこい体形の獣人だった。


「ララ様ですね。私はモナリザ・アライと申します」

「初めまして、モナリザ・アライ。私はララ・バーンスタインだ。こっちの能天気なのはラシーカ」

「ラシーカです。よろしくね、モナリザ・アライさん」

「よろしく。ラシーカ様」


 恭しく礼をするモナリザ・アライ。何か欺瞞があるとは思えない正直な挨拶であった。


「あなたのことは知っているぞ。先の社長戦争では敵方の大将だったな。私に何か用かな?」

「はい。重要な、とても大事な依頼があるのです。ララ様がこのコロニーに来られたと聞き、お待ちしておりました」

「何の用か」

「立ち話も不作法でありましょう。こちらへどうぞ」


 モナリザ・アライは歩道に設けられたオープンカフェへと案内する。ララとラシーカは遠慮せずその中の席へついた。モナリザ・アライもララたちの向かいの席へ座る。


「手短に願おう。私は部下の救出を急がねばならない」

「それは承知しております。ララ様が追っている勢力はバラモット。その首班はジーク。彼の本拠地は5番コロニー、デッドライジングと言われています。そのジークが何故かこのエルダー・ドラゴン・ハイランダーに拠点を作り活動を開始したのです。我々としては非常に迷惑をしております。そのジーク・バラモットの排除をお願いしたいのです」

「なるほど、私の目的は10名の部下を救出する事だが、その為にはジーク・バラモットの排除が必須だな。我々の目的は一致している。ところで、何故その吸血鬼を今まで放置していたのだ」

「それは、このコロニーの複雑な権力構造が原因なのです。ここはカンパニーのスポンサー企業や協力者の為の施設なのです。ありていに言えば、小領主が乱立している治外法権の区域がいくつも連なっている混沌としたコロニーなのです」

「つまり、このコロニーの支配者マスターであるあなたに手出しのできない地区がいくつもあると」

「そうなのです。その一角にジークは陣取ったのです。その区域の主人でしか彼を追い出すことができません。しかし、その区域の主人他全ての人々も既にジークの傘下となってしまいました。私にはどうすることもできないのです」

「わかった。ジーク・バラモットに関しては何とかしよう」

「ありがとうございます。ご協力に感謝いたします」

「ああ」


 ララとの約束を取り付けたアライはほっと一息をつく。しかし、その表情は険しいままだ。


「ところでララ様。残念なことにもうすぐ日が暮れるのです。ララ様と敵対している勢力はバラモット。吸血鬼と呼ばれるモンスターなのです。直射日光を嫌う彼らは昼間はその力を発揮できません。しかし、夜間となれば話は別です。この時間帯からの行動開始は自殺行為となります」

「わかっている。しかし、やらねばならない。それに私の力を知っているのだろう」

「ええ。承知しております。社長戦争の際、圧倒的な力で敵対勢力を粉砕されました。ゾンビや吸血鬼などの異形の存在とも対等以上、いや圧倒的な武の力で粉砕された」


 アライはそこまで言って口ごもる。そしてかぶりを振る。


「しかし、あの男は、ジークは尋常ではない……圧倒的に強靭なのです。そして並ぶもののない狡猾さを持っています」

「わかっている。しかし、短所はある」

「短所? 吸血鬼としての短所以外に?」

「ああそうだ。奴は私をターゲットにしている」

「ええ」

「そのためにここまで大仰な布石を敷いた。私の部下を拉致し、間接的にラシーカや潰鬼を差し向けた」

「え? 私もですか?」


 ラシーカは目を丸くして驚いている。アライも同様だった。


「そうだ。本来、お前はドラゴン形態でも難なく転送装置をくぐることができたのだ。あのトラブルが発生したのはジークが転送装置に細工をしたからだ」

「じゃあ潰鬼さんも?」

「無限の強さを求める潰鬼にとって私は良い対戦相手だったのだろうな。マッチングは簡単だっただろう」

「なるほど。シーマンでメカチンゴンを暴走させたのも」

「ジーク・バラモットだ。私たちは奴の手のひらで踊らされている」

「ララちゃん、それ、不味いんじゃないの?」

「一見な」

「それは……」


 ラシーカとアライが怪訝な表情をする。そして二人ともララを真摯な目で見つめた。


「奴はゲームを楽しんでいるのさ。私を獲得するためのゲームだ」

「それはそうかもしれませんが」


 口を挟むアライを制するララ。


「ゲーム。すなわち決められたストーリーに当てはめようと行動することが短所なのだ。そこを逸脱した場合どうなる? 奴が私を嵌めるために打った布石が全て奴に歯向かうとしたら?」

「手詰まりですね」

「今から奴を追い詰める。周囲に損害が出るかもしれない」

「構いません。この一角は全て避難が完了しています。思いっきり暴れてください」


 ララは席を立ちにやりと笑う。

 そしてジーク・バラモットのアジトとなっている倉庫へ向かって歩き出す。ラシーカもララについていく。二人の服装はセーラー服のままだった。

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