加速装置の剛拳少女と仇為す鋼

 開戦一発、ララの掌底が潰鬼の腹を叩く。

 潰鬼はそのまま10m程後退した。しかし、後退しながら右腕をロケットのように打ち出した。ララはその打ち出された右腕を両手で押さえ、そのまま数メートル後退する。


「強い」

「喋っている暇はないぞ」


 ララは掴んでいた潰鬼の右腕を放り投げ、十数メートルの間合いを一瞬で詰め、ジャンプして右回し蹴りを顔面に叩き込む。潰鬼はそれに反応し左腕でガードするのだが、ガードもろとも吹き飛ばされビルの壁面を破壊して止まった。

 瓦礫の押しのけ立ち上がる潰鬼。その左腕は折れていた。


「凄まじいスピードとパワーだ。ありえない、どんなトリックなのだ」

「加速装置さ」

「加速装置? 貴方はサイボーグだったのか」

「残念、生身だ」


 潰鬼の右腕は潰鬼の肘に戻り再び動き出す。折れた左腕は修復を始めたのか黒い粒子状のもやに包まれている。


「負けを認めて降参しろ」

「戦いはまだ始まったばかり。これからが本番だ」


 潰鬼は右掌をララに向け、その中央にはめ込まれている紫色の宝玉が光を放つ。そこから発せられた青藍色のビームがララを襲う。

 ララはそのビームをかわさず両手で受け止めた。眩い光球がその場で炸裂する。ララの背後にいたSAT隊を庇っての行動だった。


「熱ちち。火傷するじゃないか」

 

 手に持っていたドラゴンの鱗を放り投げ、フーフーと掌に息を吹きかけるララ。本当に熱かったようだがララが平気な事に潰鬼は動揺を隠せない。


「それは何なのだ。あの一撃で戦車数量を蒸発させる威力がある筈なのにどうして平気なのだ」

「これはドラゴンラシーカの鱗だ。まるで鋼鉄人形の盾だな。霊力を込めると何でも弾く」

「生き物の鱗で防げるとは不可解だ。有り得ない」

「ふふふ」


 不敵に笑うララ。潰鬼の右掌からは十数発の、青藍色の光弾が放たれる。それは四方八方に散開してから軌道を変え、ララに向かって突進していく。


「誘導弾か」


 ララは潰鬼に向かって走り出すと、光弾もララを追う。全ての光弾を引き連れてから潰鬼の全面に向かうが潰鬼は右掌からビームを放った。

 その瞬間、ララは姿を消し潰鬼の放ったビームと光弾が衝突し巨大な光球となって弾けた。その眩い閃光の中より出現したララ。全身に雷をまとい潰鬼を殴りつける。潰鬼の首はあらぬ方向に折れ、その全身は雷に撃たれた。


 地面に膝をつき、折れた首を修正する潰鬼。


「また不可解な動作で……しかも私の首を折るとは何という膂力だ。ただし、私に電撃は通用しないぞ」

「装甲は雷撃を弾くようだが、中身はどうかな?」


 再び、一瞬で間合いを詰めたララの正拳が潰鬼の胸を貫く。

 ララは潰鬼の胸に腕を突っ込んだま、潰鬼の体内に電撃を放った。

 

「うぐぐぐっ」


 装甲の隙間から雷が漏れ出し、そして白煙が噴き出した。潰鬼は苦悶に満ちたうめき声をあげる。ララはにやりと笑った。


「心臓を掴んだ。このまま握り潰してやろうか?」

「いや、私の負けだ。ララ皇女、貴方には敵わない」

「わかった。では、今後は私に従うと誓え」

「こ、この潰鬼、命ある限りララ皇女殿下に付き従う事を誓う」

「嘘ではないな」

「嘘ではない。私を上回るスピードと膂力。そしてビーム攻撃さえ防ぐその技に感服した」

「うむ。こき使ってやるからな、覚悟しておけ」

「望むところだ。ただし、条件がある」

「何だ、言ってみろ」

「私は書類仕事事務仕事は出来ないから、そういう言いつけには従えない」


 その一言にララの眉が引きつった。


「ララ皇女。どうしたのだ?」

「いや、何でもない。実は、事務方の腕利きを探していたのだ……」

「……そうでしたか。残念ですが私では力になれない」


 と、ラシーカが豊満な胸をたっぷんたっぷんと揺らしながら走って来た。そしてララに抱きつく。


「私は事務仕事のお手伝いができますよ。得意って訳じゃないけど、多分大丈夫だよ」

「わかった。わかったから放してくれ」

「嫌だー。ララちゃん離さない。かわゆくって、凄い強くて、ララちゃん大好き」


 体操服姿の豊満少女が小柄なララを翻弄する姿を見て潰鬼が苦言を呈した。


「体操服の少女よ。私の主はその行為を嫌がっておられる。少し控えてはもらえぬだろうか」

「嫌だー。あ、貴方も私と事務仕事やる?」


 その提案に潰鬼は湯気を噴き出した。


「いやそれは、嬉しいかもしれないが私にとっては事務仕事は拷問と同じで、しかも、豊満少女の隣だとそれも拷問で……」

「えー。意味わかんない」


 キャッキャウフフとはしゃぎまくるラシーカ。そして湯気を噴き出しまくっている潰鬼。何時しか最上階から降りてきていたフーダニットと金森は、その和やかな光景を微笑みながら見つめていた。

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