第19話 第七章 怖い動物たち(2/8)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイ、貧乳のナイと一緒に、手に入れれば生き延びられるという宝を探すことになる。宝の匂いを頼りに川をさかのぼり、平地にやってくる。そこへ、鷹大が負ぶっていたナイに、白い大鷲が襲い掛かったのだ。鷹大は格闘の末、大鷲を押さえ込めたが、どう倒していいか分からなかった。(ごめんなさい。この回は少し文字数が多いです)】



 でも、このままじゃあ、鷲を押さえただけ、何も解決しない!

「どうやって鷲を倒せばいいんだ?」


 鷹大は猛禽類もうきんるいなんて動物園でしか見たことがない。トンビですら近所にいなかったのだ。

 うーんと、考えながら、鷲の背中を見つめた。


 白い羽が鷲を守っている。

 白い羽の鳥は近くで見た経験があった。


 にわとりである。

 小学校で鶏を飼っていたが、鷹大は理科の授業を思い出した。


「鶏は生きたまま羽を全てむしられると死ぬって、先生が言ってたぞ。羽がないと体温を調節できなくなるんだ。こいつは鶏じゃないけど同じ鳥だ。羽をむしってやれ!」


 鷲を倒す方法を他には考えられない。即座に実行する。


 ザギュッ! ザギュッ! ザギュイッ!

 鷹大は背中の羽をつかんではむしり始める。羽は面白いようにむしれた。


「ピーピー」

 鷲は鳴いて暴れるが、頭にTシャツが巻かれているので、声はよく聞こえない。


 むしる、むしる、どんどんむしる! 鷹大は鷲の羽をむしり続けた。

 まるで雪が降っているように、むしられた白い羽が宙を舞った。


 鷲の背中は半分近くが地肌となった。むしり易い羽がなくなってきた。


「そうだ! 羽と言えば翼じゃないか! 翼の羽をむしれば、鳥は飛べなくなるぞ!」

 むしるターゲットを換えた。


 鷹大は右側の翼を乱暴につかみ上げると、風を切り裂く大きな羽からむしり始めた。

 ビギュッ ビギュッ! ビギュッ ビギュッ! ……


 鷲はTシャツのために視界がない。でも、足が自由になったので、めくらめっぽうに爪を振り回してくる。


 鷲の爪が、鷹大の顔や手を何度か引き裂いたが、鷹大は羽をむしり続けた。

 鷲を空へ返したら、またナイが襲われる! そんな強迫観念に突き動かされていた。


 右の翼からは大きな羽がなくなった。次のターゲットは左の翼である。鷹大は夢中になって左の翼をつかもうとする。


 これには、さすがの鷲も戦意喪失!

 離脱を試みる。

 爪攻撃をやめて、左の翼を使って、もがき始めた。鷲は逃げに入ったのである。


「ピーピー」

 鷲は助かろうと、七転八倒の勢いでもがく! 鷹大は左の翼をつかめないでいた。


「鷹大! もう、やめるのだ! 鳥は逃げようとしてるぞ!」

 パイの声に、鷹大は我に返った!


 痛がっていたナイの顔が、鷹大の脳裏に蘇る。

「ナイ! ナイは? ナイはどこだ!」

 鷲なんて放り投げた。


 鷲は頭を振ったり、足の爪を使ったりして、頭に巻かれたTシャツを外した。

 もちろん、飛び上がるなんてできない!

 左の翼と足で半飛び半歩きとなって、ほうほうのていで逃げていく。


 空に君臨した王者の哀れな姿だった。


 鷹大が見ると、ナイはパイのもとで横になっていた。


「ナイのケガは?」

 鷹大が駆け寄る。

「大丈夫ですわ。ひどく痛かったですけど、もう痛くありませんわ」

 ナイは体を起こして、地面に座った。


 肩に刺さった爪で体を持ち上げられたのだから、今でも痛くてたまらないはずと、鷹大は思っていた。


 見ると、本人が言うように、痛々しくない。


「本トに? 爪が肩に食い込んでたじゃないか!」

 その時の傷はあるが、出血はない。


「傷は残ってますけど、肩は動きますし、大したことはございませんわ」

 立ち上がって、両腕を回した。

 ぎこちない、なんて言わせない。健康体操のように、正しくきれいに動かして見せた。


「何ともなさそうだけど……」

 鷹大の心配をよそに、ナイが体を寄せてきた。

「怖かったですわ!」


 ナイの瞳に鷹大の傷跡が映った。

「鷹大も顔や手がやられていますわ。私を助けるためですわ、ありがとう、ですわ」


 ナイが抱きついた!


「オ、オリだって怖かったんだぞ!」

 パイも対抗して、くっついてきた。


「2人ともありがとう。ナイは傷を負ったけど、2人とも生きててよかったよ」

 鷹大も2人を抱きしめた。


 安心を感じた。でも、気持ちが落ち着いてきたら、ナイの体が柔らかいと気付いた。どうしても、女の子らしさを感じてしまう。


「また、ハズ目になっていますわ」

 ナイが鷹大を突き放す。いやらしい目が女の体を狙っているかのように見えたのだ。


「本当だ、ハズ目だ!」

 パイも、ピョンと離れた。


「また、ハズ目なんて言って……」

 温もりが逃げた喪失感。鷹大の気持ちはえてくる。


 害悪を見るかのように、ナイが鷹大を睨む。

「ハズ目は治りましたようですわね。助けていただいたことには感謝いたしますわ。ですけど、ハズ目は許せませんわ!」

 きっぱり!


 そこへ、パイが2人の間に飛び込んでくる!

「そんなのは後だ! まだ安心できんのだ! 他にも動物はいるかも知れんのだぞ!」

 警戒するように辺りを見回した。


 鷹大も思い出す。

「そうだった。ナイ、鷲だけじゃないんだよ!」


 ナイには予期せぬ不安の空気である。

「他にも何かいるんですの?」


 ナイが眠っている間に見たことを、パイが教えた。


「大変ですわ! 先を急ぐのですわ!」

「ああ、2人とも俺が抱えて走るよ」

 鷹大にとっては、溶岩から逃げた時に経験したので、十分にできると思っていた。


「それならオリは楽チンだが、鷹大は鳥と闘った疲れはないのか? ケガはいいのか?」

「血は出たけど俺の傷も大したことないよ。ナイみたいに、もう痛くないんだ。ここでのケガは治りが早いみたいなんだ」


 手の傷を見せた。傷から出た血液はすでに乾き、こすると簡単にげ落ちた。残った傷も何日も前についた傷のように、もう皮膚になじんできている。


「オリが見るところ、痛くなさそうだ。鷹大の傷も治ってきているのだな」

「そんな感じだよ。それにさ! 俺が疲れたら遠慮なく歩いてもらうから、気を使わないでいいよ。

 とにかく他の動物が、俺たちに気が付かないうちに、遠くへ行かなきゃ!

 鳥相手だったから何とかなったんだ。熊だったら、とても勝てないよ」

 鷲でも強敵だった。熊なんて来たら、ひとたまりもないだろう。


「よし! 早く出発しよう! オリは宝に近づきたい!」


 鷹大は鷲が外していったTシャツを着ると、パイとナイの腹を両脇に抱えて持ち上げた。


 走り出そうとした、その時!

「鷹大! ちょっと、待つのだ!」

 腹を抱えられたパイが片手を挙げた。


 その姿が滑稽なほどに、かわいらしい。


 鷹大が気を取られてしまったので、ナイが先に聞いた。

「何ですの?」

「せっかくだから、あの羽を持って行こう! 鷹大、降ろせ!」

 かわいらしさと、勢いのある声のギャップに、鷹大は考える間もなく2人を降ろした。


「急がないと、動物が来るよ!」

 鷹大の心配をよそに、パイは鷲の羽を拾ってる。痛んでおらず、より大きい羽を3本選んで持ってきた。


「ほら、全員分だ!」

 パイは、その内の2本を差し出した。


 鷹大がその1本を受け取る。

「パイ、これをどうするの?」

「戦利品だ! 鳥に勝った証だよ。もし誰かに話す時は証拠にする」

 真面目な顔で言った。


 ナイは呆れていた。

「そんなこと考えていたんですの? 他人に話す機会なんて、ございませんのに……」


「いいんだ。鷹大に守られた証にするのだ。それにきれいだと思わないか? 輝く白だぞ!」

 パイは羽を空にかざして、目に近づけたり、遠ざけたりして、白さを楽しんでいる。


「うん、きれいなのはともかく、大きな鷲を倒した証拠になるね」

 鷹大は短ズボンのポケット、太腿の外側についている大き目のポケットに鷲の羽を入れた。


「これは、ナイの分だ、ホレ!」

 パイは羽をナイの目の前に差し出した。


 ナイは怪訝けげんな顔。

「気持ち悪いですわ。怖い鳥の羽なんて!」

「そうか? きれいだぞ! ナイは美的感覚が足らんのだな!」

 ナイの目の前で、羽を小刻みに振って見せてる。


「ここでは美的感覚なんて、どうでもよろしいですわ! 私は、羽なんて、欲しくありませんわ!」

 ナイはパイの手首を握って押し返した。


「なら仕方ないな。残りの2本は、オリが持つのだ」

 余ったからといって、捨てるわけではないようだ。


「持つだなんて、手に持って行く気ですの?」

 2人はビキニである。羽が入るほどのポケットなんてない。

「手になんて持っていられんぞ! ここなのだ!」


 パイは履いているビキニの縁に親指を差し入れると、お腹をへこませてビキニとの間に空間を作って、その中へポイと羽を2本とも放り込んでしまった。


 ちっ、おしい!

 残念ながら、鷹大の位置からは、ビキニの内側が見えなかった。


 ナイは目を吊り上げている!

「なんて下品ですの! ビキニのボトムなんて! 下品な場所におしまいだこと! 下品ですわ! 下品巨乳ですわ!」


「ここしかないのだ。胸に挿したら、この羽は大きいから水着からはみ出るし、揺れた拍子に落ちるかも知れんからな。ナイは揺れないから心配ないかも知れんが、オリの胸は大きいから、いっぱい揺れるのだ」

 胸に両手を沿え、プルンッと1回揺すって見せた。


「そんなことを、言っているのでは、ございませんわ! 巨乳とは下品な生き物と言ってるんですわ!」

 貧乳の悔しさが加算されたようだ。


「下品と巨乳は関係ないぞ!」

 パイはナイの悔しさを軽く受け流す。


「それに戦利品なんて巨乳は欲深よくぶかですわ! その胸には欲がつまっているんですのね!」

「なんでも巨乳に結びつけるんじゃない! ひがんでいるようにしか聞こえんぞ!」


「つくづく大きい胸が鼻につくと言うことですわ!」

 プイッ!


 喧嘩している場合じゃない。

「もう、2人とも! 言い合ってないで、急ごうよ! 怖い動物が来るよ!」


 2人とも現実に返る。

「そうだったのだ! 行くぞ! 熊が来るかも知れんからな!」

「パイが出発を邪魔したのですわ!」


 鷹大が改めて2人を両脇に抱えると、すぐに、走り出した。


 ダッ! ダッ ダッ ダッ!


 パイが前方を指差す。

「鷹大! あうっ、こ、この方向だぞ! ま、真っ直ぐ、ぐ、す、進む、の、のだ!」

「黙ってて! 舌、噛むよ!」


 火山の時はもっと普通にパイも話せていた。今の鷹大の走りは安定感を欠いている。鷲と闘った疲れが残っているのかも知れなかった。





 遠くからの叫び声は、まだ聞こえている。岩壁の両側を歩いていた人たちだ。

 列という秩序は既になくなり、恐怖と混沌が支配したかのように、人間たちは四散している。

 動物たちの狙いもばらけて、今まで以上に鷹大たちの危険度は増していた。




「虎ですわ!」

 15分ほど走ると、とうとう怖い動物の1頭が、3人の前に現れた!




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