第四章 人柵(じんさく)、道を塞ぐ

第9話 第四章 人柵(じんさく)、道を塞ぐ(1/4)

【岩壁から落ちて地獄(?)にやって来た鷹大たかひろは、巨乳ビキニのパイ・貧乳ビキニのナイと一緒に宝を探すために、茶色い岩壁に沿って歩き出す。茶色い岩壁は、鷹大が落ちたのとは違う岩壁だ。その茶色い岩壁に火山からの熱い溶岩が迫っている。宝探しも大事であるのだが、鷹大たちが歩く場所は溶岩の危険があるのだ】




   第四章 人柵じんさく、道を塞ぐ


 鷹大はパイとナイと3人で茶色い岩壁に沿って歩く。

 この岩壁は曲がることなく一直線だった。


 30分もすると、大地から立ち上る煙が何本も、いや、何10本も見えた。はるか遠くの岩壁から火山の方へ並んでいる。


 だが、どうやら、煙ではないようだ。どっちかというと湯気、温泉のたぐいだ。

 

 そんな何10本もの湯気が、揺らめきながら立ち並んだ光景は、さながら、大きなレースのカーテンが空と大地の間にを引かれたようだった。


 鷹大は、岩の大地と岩壁だけの単調な景色を見てきたので、この壮大なカーテンに期待した。


「ねー、あのいくつも立ち上る湯気って何? そのどれかの近くに宝があるの?」


 パイもナイも注意深く湯気の列を見てから、パイが答える。

「違うのだ! どの湯気からもいい匂いを感じるが、岩壁に近いほどいい匂いは強いようだ。オリの鼻だけでなく、おっぱいセンサーも、そう言っている」

 パイはプルンとセンサーが入っていると言う胸を揺すった。


 ジトッとパイを見てから、ナイも同調する。

「そんなセンサーは、どうでもよろしいですけど、そのようですわね。私も岩壁近くの湯気にいい匂いを強く感じますわ」


 そこが当面の行き先のようだ。

「じゃあ、このまま岩壁に沿って湯気の近くへ行こう!」




 近づいてくると、湯気は黒い岩からではなく、黒っぽい砂利の地面に開いた噴気孔のような穴から出ていた。さらに近づくと、歩いている足元も砂利となった。


 でも、噴気孔の大きさがよく分からない。鷹大が噴気孔を見つめながら近づいていると、首筋辺りに涼しいそよ風を感じた。


 湯気と反対側からだ。

 鷹大は風上を向いた。


「岩が裂けてる!」

 デパートほど高い岩壁には、垂直に1本、裂け目ができていた。


 岩壁の高さサイズからすれば裂け目であるが、人間サイズから見ると裂け目というほど細くない。


 5メートルくらいの幅があった。

 涼しいそよ風は、その裂け目から流れ出ていたのである。


 鷹大は、その裂け目の奥に異様な光景を見た。


「裂け目に人がいる! 大勢で立ったまま水に浸かってる。立ち足湯……?」


 裂け目の底は、歩いてきた地面より50センチほど窪んでいて、水が溜まっている。そこに水着を着た大勢の男女が、水に浸かりながら黙って立っていた。


 膝下くらいまで水に浸かっているので、立ち足湯と鷹大は言ったのであるが温泉かどうかは分からない。


 しかし、ただ立っているのではない。

 裂け目の幅いっぱいに満員電車以上に、隙間がないくらいにギュウギュウになって立っているのだ!


 夏に採れるトウモロコシには、元から先までびっしりと隙間がないほどに粒々が芯についている。そんなくらいに、人間が隙間なくギュウギュウなのだ。


 しかも、ギュウギュウは急に始まっている。裂け目の入口である岩壁の角から何メートルか奥は、無人地帯の水溜りなのだが、ある所から急に人間がギュウギュウなのである。


 鷹大には異様に見えた。

 水に浸れる所は手前にもあるのに、バラけることなく奥に偏って立っている。

 何か尋常でないものを感じた。


「これは川ですわね」

 ナイが無関係なシールを鷹大の額に貼り付けた。ナイは人間でなく地形を見ていたようだ。


「か、川なの? 水溜りとか池じゃないの? 流れがあるっていうの?」


 ナイが窪みの斜面を指差した。

「よく見るのですわ。私たちが立っている岸辺は、固まった溶岩が砕けた砂利ですわ。そこに水が吸い込まれていますのよ。流れがあるのですわ」


 窪みの斜面は、岩ではなく砂利である。

 その砂利に、裂け目に溜まっている水が吸い込まれている、……ように見える。


「そう言われると、そうかも。それに、裂け目から涼しい風が吹いているから、裂け目は川のように奥へ続いていても、おかしくないな」


「そして、反対側を見るのですわ!」

 ナイが逆側、火山の方角を指差した。


「見つけた時の湯気は、幅広く立ち上っていましたけど、ここから見ると、細く見えますわ」


 驚くことに、立ち上る湯気は1本に見えるほどに、そろっている。


「一番近くの噴気孔ばかり見てたから、遠くまで見てなかったよ。噴気孔はきれいに並んでたってことか」


「地下の川なのですわ! 湯気の列は裂け目の延長線上にあって、地下の水が地熱によって湯気となって噴き出ているのですわ!」

 ナイは言いたいだけ言ったのか、フウと息をついた。


 鷹大は感心した。

 ナイは幼稚と思っていたが、そうではないようだ。


「ナイは賢いな、ここの地形を理解してるんだね」

「どうってこと、ございませんわ。歩いていた時から、気付いていましたわ」

 鼻高々である。


「すごいよ。地学博士みたいだ」

「へへへ、そうですの?」

 トロンとナイの顔が緩んだ。


 一方、パイは不満そう。

「オリは面白くないな! そんなの分かっても何にもならんぞ! いい匂いは、湯気の反対側だ! 川の上流からするんだぞ!」


「じゃあ、この裂け目の川を遡ればいいんだね」

「だが、これを見ろ! こいつらが川にギュウギュウにつまっているではないか、これでは進めんぞ!」


 川というか、裂け目には大勢の男女が隙間なくギュウギュウに立っている。満員電車の中を隣の車両へ行く以上に難しそうだ!


 彼らをかき分けて、上流へ進めるだろうか?


「パイ、どうするの?」

 パイは、心配の色を隠せない鷹大の前を通り、砂利の斜面を下って水溜りのような川へ向かう。


 ジャブ ジャブ

 水に入ってギュウギュウの人たちに近づいて、最前列の1人、紺色の海パン男に話しかけた。


「おい! オリは向こう側に行きたいんだ! 道を開けろ!」


「これを見ろ! もう先へは行けないんだ。オレもここで立ち往生だ。後から来たやつは1人も通れやしないさ」

 紺色の海パン男は掃いて捨てるようだ。


 パイだって諦めていない。

「もっと上流側に押してみろよ」


「ダメだった。1人や2人が押したところでびくともしない。みんな奥に吸い付くように寄ってて、かき分けることもできない。引き剥がしても、どいつもこいつもすぐに、もとに戻るんだ。割れた岩壁の間に人がギッシリと詰まって、何もできないんだ。流れて来るかも知れない熱い溶岩に触らないように、少しでも奥に寄るしかないんだよ!」

 手の打ちようもない感を浴びせた。


 ギュウギュウに寄っているのは、溶岩に備えてのことだった。


「そうか、ここまでかよ!」

 バシャッ!

 パイは下を向いて水面を蹴り上げた。


「パイ、こっちに戻ってくるのですわ!」

「うるせーな! 貧乳の命令なんて聞かねーぞ!」

 パイがナイにあたるのも無理もない。


「キーーーー、また貧乳と言いましたわ!」

 ナイは歯軋はぎしりのよう。


「パイ、俺からもお願いするよ。ちょっと来てよ」

「うるさいぞ! しかし、どうせこのままでは、先には進めんしな! 戻ってやるか」

 パイは川から斜面を上がって砂利の岸辺に戻ってきた。


 鷹大たちは、パイから詳しく様子を聞く。


 そして、パイは最後にこう言った。

「まるで、人柵じんさくだ。とても上流へ進めそうにないぞ!」


「どうしてくれるんですの! これでは、人柵の最前列に貼りつくしかございませんわ! くそっ! ですわ!」


 ドンッ!

 ナイは悔しさを地面に叩きつけた。


 2人には諦めムードが漂っていた。


 だが、鷹大は諦めていなかった。

 川と人柵を改めて観察する。


「岸に近い川は水溜りみたいに浅いくて、人はいない。

 川の両側は垂直の岩壁で、つかみどころがなくツルッとしているから、ロッククライミングの経験があったとしても、岩につかまって先に進むのは難しいか……。

 ん? でも、人柵の向こう側には水面が見えてる?」


 鷹大は、パイとナイ、そして、ここの人間たちよりも背が高い。さらに、窪みより50センチくらい高い岸辺に立っている。


 高い位置からだと、上流に続く川面かわもが見えた。


「人柵には、終わりがありそうだよ! そこから川が続いているようだ」





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