プレイヤーバーサスプレイヤー


 最新装備の剣士さんとの邂逅後、PKと誤解されそうになった僕はあれから様々な言い訳を以って説得し、なんとか誤解である事を彼に伝えた。


 もちろん彼は納得しなかったし、今も納得していない。


 故に彼はこちらに対し一つの条件を付け加えた。

その条件とはプレイヤー同士の決闘、PVPプレイヤーバーサスプレイヤーで自分を負かしてみろという物だった。


 ようするに、それだけの速度で効率的に狩りを行えるという事を、自分に納得させてみろと彼は言っているのだ。


 もちろんそれに付き合ってあげる道理などないのだけど、ここで彼に怪しまれたままだと何かと動きずらい。

誤解がエスカレートして後ろからバッサリやられちゃうかもしれないし、結局僕はその決闘を受ける事にした。


 ちなみにこのゲームにおける決闘とは街中で行われる戦闘の事で、両者の承諾を得た段階で相手に攻撃する事が可能となるシステムの事だ。

その戦闘においては体力ゲージがゼロになってもゲームオーバーになることはなく、決着がついた時点で戦う直前の体力ゲージに巻き戻される。


 死の危険がない、純粋な勝負なのだ。


「それじゃ、準備はいいか」

「もちろん、いつでも」


 僕が承諾すると彼は子供のような楽し気な笑みを浮かべ、先ほどのまでの嫌な空気は吹き飛び、ニヤリとした表情になった。


 あの表情を見ていると、もしかして彼は僕と腕試しをしたかっただけなんじゃないだろうかと言う、そんな懸念が沸き上がって来る。


「ははは、試しに言ってみるもんだ」


 ……どうやら、懸念は当たっていたらしい。


 ただ、僕もトッププレイヤーである彼と戦う事で見えてくるものあるだろうし、何より神様の加護を受けた自分の力がどの程度のものなのかを計る、良い基準になる。


 まだ剣術も体術も加護の一段階目とはいえ、それでも普通の人にはないチート能力なのだ。

良い経験になるだろう。


「それでは胸を借りるという事で、こちらから攻めさせてもらいます」


 そういった僕は自分にゲームコマンドであるクロックアップⅠを掛け、同時に駆け出す。

レベルが上がった影響なのか、想像以上のスピードが出る。


 ソロだったからなんとも言えないけど、レベルアップごとのキャラクターの能力値変動を見る限り、おそらく倍近いレベルの剣士職よりも素早い動きが出来そうだ。

案の定向こうも驚いてるし。


「……疾い!? はぁっ!!」

「うそぉっ!?」


 しかし驚いたのは一瞬だけ。

なんと彼は突っ込んでいった僕のスピードに対し、超人的な反射速度で剣を受け、そのまま攻撃の軌道を逸らし受け流した。


 なんだこの天才は。


 確かに剣術に体術のスキルと魔法職の補助魔法がかかった僕の方が、移動や攻撃のスピードは速いけど、動体視力や反応速度は向こうが圧倒的に上のようだった。

これが才能というやつだろうか、くやしい。


「はぁぁぁっ!!」

「あっ、ちょっ、おっとっと……!」


 その後、全力の攻撃を躱され隙が出来た僕に猛反撃が行われ、形勢が一気に悪くなり始める。

いまはなんとかギリギリで躱しているけど、いつまで持つか分からない。


 どうしよう、魔法使っちゃおうかな。

うーん。


 しかしそう思っていると、彼の攻撃が急に止み一旦飛びのいて行った。


「……ありえないな」

「え?」

「ありえないと言ったんだ。いま俺は剣士のレベルスキルである、攻撃速度上昇Ⅰと反応速度上昇Ⅰを使っていた。にも拘わらず、自分よりもレベルの低い後衛職、それも肉体能力が最も低いとされるマジシャンを攻めきれないんだぞ?どう考えてもおかしい」


 ああ、なるほどそういう事か。

失念していたけど、レベルアップによって技が使えるようになるのは僕だけじゃないんだった。


 もちろん彼も剣士としての技が使えるに決まっているのだ。


 これなら確かに、レベル差もあり向こうの方が優勢でも仕方がないだろう。

というかこの条件で張りあえる神様のボーナススキルが恐ろしいくらいだ。


「まあ、何はともあれこういうことですよ。これで僕が純粋にモンスターを倒して経験値を稼いだ事が分かったはずです」

「確かに」


 え、いやいや。

確かにといいつつも、なんでより一層の笑みを浮かべて剣を構えるんですか。


 やっぱりこの人、戦いたかっただけだ。

絶対そうだ、間違いない。


 しかし僕は実践経験を得て実力も計れたし、向こうが納得した以上付き合う理由もない。

さっさと降参宣言してしまう事にする。


「あー、うん。それじゃあ降参します」


 僕の降参宣言により決闘が終了し、お互いの体力とMPゲージが回復する。


「えぇっ!?おい!今からが良い所だろ!?」

「ふっ」

「あ、笑ったな!?いま鼻で笑っただろ!?」

「笑ってませーん」

「待てって!」


 喚き散らかす彼を適当にあしらい、もはや付き合う理由もないのでそそくさと草原フィールドを目指す。


 さあ、それじゃあさっそくレベル上げだ!


 しかし僕は気づいていなかった。

この戦闘が切っ掛けとなり、お互いの実力を認めてしまったが故に、今後彼と最前線でパーティーを組むことになろうとは。


「あ、そういえば結局名前も聞いてなかったな」

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