第24話 グリドール

 グリドール。賢者ククルトは確かにそういった。


「どういう…ことなの?」


 アニーがなにが起きているのかと戸惑いしつつあった。本物のベニチェではない? では、ベニチェはどこに?


「本物のベニチェはどこにいるの!?」


「保健室にいる。学校の外で炎の結界に閉じ込められているのを発見した。いまなら目を覚ましているあたりだろう」


 アニーは保健室へ駆け出していった。


「ククルト。懐かしいわね。こんな場所で出会うなんて…」


「昔の話はよせ。なぜ、お前がここにいる。お前は、数年前…両足を戦で失ったはずだ」


 フンッと鼻で笑った。

 裾を上げた。


「なぜ、そこまで…」


 魔物の足を切り落とし、その部位をつなげた状態だった。どの魔物なのかははっきりとしないが、人の足そのものに見えた。


「足がある奴にはわからないだろうな。俺はずっと探していたんだ。再び地面を歩ける足がな――」


 **グリドール**


 あれは数年前、一年前に襲われた学校とは別の学校で起きた事件だ。魔物が溢れるばかりに学校を丸呑みしようとしていた。

 そのとき、派遣されたのはグリドール(俺)とククルト、新顔のバイ。三人人チームで行動するよう指令を受け、階級的にも上だったククルトがリーダーとなって先陣切った。


 俺は当初、傭兵だった。まともな仕事がなく、金がありつければ仕事は選ばない達だった。


 新顔のバイは魔法学校卒業生。しかも優秀だ。その学校では五本の指に入るほどの実力者であると聞いていたが、実戦ではポンコツだった。


「おい新顔! そっちへ行ったぞ」


「へ、へひぃ」


 使い物にならないくらい臆病で、小人ほどの化け物相手に尻餅つくほどだ。こんな奴が五本の指だとか本当に平和になったものだと呆れていた。


「バン、大丈夫か」


 ククルトが新顔を助ける度に反吐が出た。

 まだ、学生という身分から抜け出していない腑抜けた顔だ。

 俺は新顔と距離をとるように行動するようにしていた。


 事件は起きた――


 新顔が逃げ遅れた子供を発見し、救助しようと試みたところ首が長い魔物に襲われそうになった。俺は駆けつけ、新顔と子供を無事に救出し、魔物を倒した。


 でも、代償は大きかった。

 あの化け物、頭だけになりながらも俺の両足を食らいついていった。結果、両足を無くすほど重傷。


 ククルトに発見されるまで、身動きできない状態だった。

 それを見ていた新顔は助けてくれるのかと思い、そっと近づき手を伸ばした。


 俺はその新顔の手を握った。そのとき、新顔が言った。


「あ、手がすべった」


 手の力を弱め、俺を地面へ倒した。


「貴様…」


「俺の力では子供を守るだけでせいっぱいだ。両足を失った君を抱えるほど上手じゃない。」


「だったらククルトを――」


「無理だ。先に行かせてある。助けた子供たちを連れていくように言い、俺も後から行くと伝えてあるから。もう、だれも君を助けに来ない。君は、俺らの囮になってもらう」


「おいっ! 待てっ!」


 新顔は走っていった。

 背を見つめ、ただ手を伸ばすしかできない俺の無様がいまでも笑える。


 両足を失い、新顔にも見捨てられ、頭のなかは真っ白だ。

 魔法で新顔を止めれたのかもしれないし、魔法で瓦礫から義足を作れたのかもしれないのに、俺はある人に助けられるまで、赤子同然だった。


 **現在**


「――俺はあの人がいなかったら、いまここにいない」


 そんな過去があったのか。


「グリドール…。新顔のバンは…」

「ああ、死んでいたよ。あのバカ、逃げた先が出入口だと思っては言ったんだろうけど、あの先、瓦礫で封鎖されていた。化け物に背中から突き刺されるようにして殺されていたよ。助けた子供と一緒にね…」


「そうだったのか」


 暗く沈みゆくククルト。

 新顔バンだけでなく子供たちを助け出せなかった。


「でもまぁ、俺はあの人の命令でここまでこれたんだけどさぁ」


 ククルトと久しぶりに会ったのが嬉しかったのか、ククルトの肩に手を置いた。


「それは置いといて、会いたかったぞ相棒」


 一方的に呼ばわりだが、相棒と言われ、ククルトは口元が若干笑っていた。


「ルアだったけ、俺は負けちまったけど、強かったぜ。あの人にも負けないかもな」


 握手を交わした。

 強くガッチリと握られた。見た目は女性で、声も高めなのだが、違和感がした。まるで幻の如く、近くに連れて姿が変わった。

 身長が同じぐらいと思っていた。

 本来の姿に変わった時、ぼくの頭部がグリドールの顎あたりだと確信する。


「俺が男なのは黙っていてくれよ。ククルトをからかいたいから」


 耳にそっとつぶやかれたとき、声のトーンが変わった。男のような低い声だ。

 ぼくがビクつき、一歩下がるとグリドールは笑って手を振っていた。


「さて、俺を止めた奴のご褒美だ。俺があの人のことを明かせば俺は用済みだ。それは勘弁してほしい。けど、ヒントは言える。俺が探しているのはルアが知っている人じゃない」


「!?」


「俺が探しているのは猫だ」


「はぁ?」


「ただの猫じゃないぞ。ケットシーが人に姿を変えた。ケットシーを捕まえるのが俺の仕事だ。ちなみに、この攻防戦は単なる俺の趣味だ。どれほど強い奴と遭遇できるかが知りたかった。あと、演技だ」


 付け加えた…。


 あれが演技…あの惚れっぽいところか。

 ゾゾゾ…と寒気が来た。


 女の子じゃなくて男の子なのか。何か、ホットしたようなガックリと来たような落ち込む気持ちだ。


「それで、助けてくれた人って誰なんだ?」


「聞いたことはあるだろう。魔女ソラとシロだ」


 ハッと思い出す。


「あの二人のおかげで今こうして歩いて行けれる。大丈夫だ。契約は”正体を明かす”じゃなくて”居場所を伝える”がNGだから、問題ないよ」


 グリドールはにんまりと笑って見せた。



――攻防戦が終わった。


 グリドールはククルトと一緒にクリストン学長の部屋へ行った。多分、ルシアーノを狙う連中を捕まえるために協力の申請しにいったんだろ。


 あの戦いが終わり、本物のベニチェじゃないと知ったアニーから本物とそっくりだったと言っていた。

 では、本物のベニチェはああいう性格なのかと思うと、気持ち悪くなってくる。


「お疲れ、ルア」


 クロナとエレナ、ルシアーノ。


「はいこれジュース」


 乾杯しようとみんなそれぞれジュースを持っていた。


「お店の方はどう?」


「順調よ。いま、全ランク中5位なんだって」


「すごいじゃないか」


「私とエレナのお店よ。当たり前でしょ」


「ルシアーノは…?」


「……」


 勝ったと微笑んでいた。


「ルシアーノはすごいのよ。相手を一撃で倒して見せたのよ。もう圧勝で、相手は何が起きたのかしばらく呆然としていたわ」


 クロナが笑いながら教えてくれた。


 ルシアーノの頬が赤くなっている。


「そのあと、ルアさんの試合を見に行ったのよ」


 試合的にはぼくのほうが先に開始したはずだ。かなり時間をかけたようだ。


「もう、あのときは棄権してという気持ちでいっぱいだった」

「でも、ルアならなんとかすると思っていた。気持ち的に半分」

「……」


 ジュースをグイッと押し寄せた。


「そうね、乾杯しましょう。次は準決勝。二人の勝利を祝って! 私たちの売り上げランキング1位に祝って! かんぱーい!」

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