第3話 魔法バトル

 魔法バトルは以下のルールで行われる。

 お互い〈攻撃〉・〈防御〉を行い、相手に攻撃が通じれば、一勝したということになる。両者互いに交代で〈攻撃〉・〈防御〉を行うことで一方的な試合がなく、相手が使う魔法を見ることができる。


 そのため、弱点を知りたがる生徒や、嫌っていた人を追い出せるかもしれないという皮肉っぷりな生徒や単に面白がる生徒で集まる。


 今回は、意地悪なリーダーがDランクに落ちるかもという噂と、謎の転校生が魔法バトルを仕掛けたという噂が引き金となり、Bランクの生徒もいるほど集まっていた。


「服装が違う生徒がいるね」

「あれはBランク。黄色の服が特徴よ。私たちは青。見ての通り色分けしているのよ」


 色分けしているのか。

 黄色い服がBランク。右胸の紋章が〈馬〉。

 青い服がCランク。右胸の紋章が〈開かれた本〉。

 緑色の服がDランク。右胸の紋章が〈鍵〉。

 赤色の服がAランク。右胸の紋章が〈バラ〉。


「なぜ、違うクラスもいるのか? 伝統では――」

「伝統は伝統。校則も同じ。魔法バトルは関係ないのよ。見たい人が来るそういうお祭りなの」


 学長が司会を仕切るぐらいだからな。


「我が伝統にしたがい、二人をご紹介いたしーます!」


 周りは握手とともに歓声を上げる。なかには口笛を吹く人、お菓子をぼりぼりと食べる人、寝ている人、取材がてらカメラなどで撮影している人と様々。


「Cランク在籍中の屈強な不良リーダーのクジナ!」

「続きまして同じ在籍中の謎多し転校生ルア!」


 フルネームはこの学校では禁句になっている。一族を軽蔑している人もいるとかだそうだ。

 それに、クジナよりも明らかにルアの方が騒ぎ声が高い。一方でクジナはブーイングの争いだ。まあ、噂がウワサなだけにね。


「リーダーそんな奴やっちゃってくださいよ!」

「そうだーそうだー(棒読み)」


 周りとは裏腹に懸命に応援してくれる連れ子たち。クジナは彼らの期待を応えようと、ルアに指を向けた。


「お前を倒す!!」


 勝利宣言だ。もう勝つ気でいるようだ。


「お互い、〈攻撃〉・〈防御〉を選んでください」


「〈攻撃〉」


 クジナは攻撃を選択した。

 攻撃が最大の防御ともいえるからだ。

 エレナいわく、クジナは最初と二撃目の魔法で相手を屈服させたらしい。エレナも同じだった。

 クジナは魔力を多く使う魔法を好む習性があり、後先考えない性格のようだ。長期戦となると確実に負けることから初めからルールを絞るそうだ。


 現に魔法バトルは最大五回勝負して、三勝(引き分けの場合は数えない)したほうが勝ちとなっている。お互いの攻防で一回分扱いだから、それぞれ五回ずつ唱えていることになる。


「〈防御〉で」


 最初の先行が決まった。


「勝負(デュエル)!」


 司会者の合図とともに魔法バトルが開始された。


「≪ライトニングボルト≫」


 紫色の稲妻が床を削りながら襲ってきた。


「≪あ、あいしぃちすーん≫」


 噛んだ。不発だ。

 ドーンと衝撃波が走った。稲妻が天井や床へと走り抜ける。

 結界がなければダメージを負って倒れていたかもしれない。それほどの威力だ。


「早くも一勝を勝ち取ったようだ!」


 司会者の声とともに観客席から残念そうなうねりのようなものが聞こえた。クジナをどんだけ嫌っているのだろうか。


「弱いな。これもアッという間だ」


 クジナは楽勝だと思っているようだ。そう確信しているようだ。魔法の不発。クジナにとって、この程度だと思われたのだろう。

 それも作戦だ。


「エレナ……」


 隣で心配そうに見つめている。

 次の攻撃で相手を負かせなければこの勝負の行方は棒に振るったことになる。


「≪ブリザド≫」


 凍てつく氷が傷つけた床を張り巡るかのように凍り付いていく。悪寒するぐらいの寒気差が観客席たちにも及ぶほどだ。


「≪ストーンバリア≫」


 床に両手をつく。クジナの周りに大地の石たちが囲い込み、凍てつく冷気を防ぎ切った。


「広範囲魔法か、単発魔法と比べると威力は低いな」


 クジナは余裕だ。


「すごい。範囲魔法はよほどの魔力が消耗するほど大変なのに…使えるなんてすごいですルアさん」


 一方でエレナは褒めてくれた。


「では第二戦目スタート!」


 司会者の合図とともにクジナが先制した。


「≪サンダースネーク≫!」


 二匹の雷を帯びたヘビが凍り付いた床を這って、ルアに襲い掛かる。


「≪イリュージョン≫」


 二匹の蛇が噛みついた。が、残像だった。残像の裏から姿を現す。攻撃は失敗に終わった。


「あんなのアリですか!? 審判もとい司会者!」

「はいありです!」


 学長(審判もとい司会者)は平然と答えた。


「クソッ! 魔力がもう……この次で止めを刺せれば…勝てるんだ!」


 魔力はもうあまり残っていない。

 防御したところで勝てる見込みは少ない。なら、防御を捨てて次の攻撃で確実に相手を倒せばいい。


「先行逆です」


「≪ファイア≫」


 凍り付いていた床が一瞬にして溶け、蒸気となって室内を蒸し暑くした。制服を脱ぎ、暑そうにする観客たち。

 ゴウゴウと炎が波のようにクジナの方へ押し寄せた。


 魔法を唱えることなくクジナはファイアの攻撃を受けた。露出していた肌が多少焦げる程度で結界によってダメージをほぼなかったが、呼吸が荒くなるなど気温の変化で体が疲労しきっている様子だった。


「寒くなったり熱くなったりと…忙しい奴だな」


「リーダー! しっかりー!」

「負けるな、がんばれ、我がリーダー(棒読み)」


「第三戦目スタート!」


 ありったけの魔力を集め、この一撃ですべてを終わらせる。

 全身全体に生き渡せている魔力をかき集め、意識を失うほどの魔力をかき集め、ルアに打ち放った。


「≪サンダーブレード≫」


 青い稲妻でできた剣が宙を舞う。剣から青い稲妻が発光し、周辺の壁や天井を破壊尽くす。壊れ行く天井や壁を守るかのように学長が結界を張るが、クジナの魔法に押し負けそうになる。


「私が食い止める≪プロテクション≫」


 ガラスのような一枚壁が全体に張り巡らされる。ちょっとした投石で割れそうなほど薄い。でもクジナの≪サンダーブレード≫にいくら攻撃されても砕けないことから、エレナの魔法はすごいと感じた。きっと、観客席にいる人も同じように思っているだろう。


「あなたが持ちませんよ」

「いいのです。これ以上の被害は出したくないのです」


「死ねぇー!! ≪サンダーブレード≫!」


 クジナの思いが≪サンダーブレード≫を通じて、ルアに襲い掛かる。槍のように投げられた剣は勢いとともに強力な電磁波を放ち、周辺を削り取る。学長がエレナを庇わなかったら一緒に吹き飛ばされていたであろうほどの威力だ。


 ≪プロテクション≫を解除せず、守ろうとする意識を評価するだろう。学長はエレナを庇い、「相手を死に追いやる魔法は禁止といいました、クジナ、あなたの処分はDクラス行とは程遠いでしょう」と箒に跨り忠告としてクジナに告げた。


 でも、クジナの意思はそんなものどうでもよかったのかもしれない。

 目の前に標的さえ壊せば、あとはどうにでもなる。自分が生きてきたルールがそれだったからだ。


 もちろん、この攻撃が通れば、結界程度じゃ守り切れない。おそらく体の一部が吹き飛ぶか剣ごと外へ吹き飛ばされるか、死ぬかだ。


『お前の魔法じゃ止めきれないぞ。どうする?』

 ルキアの声が聞こえた。姿は見えない。でも、頭の中から直接呼びかけている。

「絶対止めて見せる!」

『頑固だね。逃げればいいのに。学長が逃げ出すほどだ、それほどあの娘の意思は固い。』

「あきらめない。逃げない。ぼくはそう誓ったんだ!」

『あーあーやれやれだね。こんな時こそ諦めてほしかったが、まあ、あの子が気になったんだね。年頃の子は難しいものだ』

 皮肉っぽく聞こえる。

 周りの時間はゆっくりと流れている。そのため、剣の速度が遅く感じる。


『勝算はあるのか?』

「ある。三つ魔法を重ねる」

『おっ三重魔法か、お前の魔力なら十分行けるだろう。結果を待っているぞ』

 過保護だ。心を奪おうとしているのに助けるなんてお人好しなんだから。


「≪スライムネット≫&≪ニードルスラッシュ≫&≪ゴッドハンド≫」

 

 ≪スライムネット≫では、スライムのような粘りがあるネットを張り巡る。

 ≪ニードルスラッシュ≫では、地面と天井から角上のものが現れる。獣の口のように角上は牙の役割を果たし、口を閉じると同じように地面と天井の角上が隙間なく閉ざされた。

 ≪ゴッドハンド≫では、黄金の輝きを放つ手のひら。

 大きく優しいオーラが剣を止める。


 ≪スライムネット≫で威力を殺し、放電をスライムの力で包み込む。

 ≪ニードルスラッシュ≫で威力を殺した剣にさらに速度の低下を図る。牙は砕けるほどの勢いだ。それでも速度は大幅に削減した。

 ≪ゴッドハンド≫で剣を止める。

 握り潰すようにしてそっと手を閉じ、剣だったものをあとがたもなく消し潰した。


「なっ! ……クソ」


 力尽き、リーダーが倒れた。クジナが倒れた。

 これにより、試合は中断となったが、勝敗はルアの勝利となった。


 引き分け。でも、最後の勝負はクジナのルール違反。

 それにも関わらずルアは防いだ。あのおぞましいほどの威力の魔法を。


 それを踏まえて、学長はルアの勝利へと収めた。

 エレナもみんなを守ったとして称えて成績に評価を与えた。


 この一件を期に、クジナのチームは解散となり、メンバーも散っていった。クジナがその後どうなったのかはわからない。

 学長は何も答えなかった。Dクラスに行ったのか、校則を破ったためなのか、クジナと会うのはこれっきりとなってしまった。



「遅くなったけど、新しいチームが結成されたのよ」


 学長から嬉しい知らせと悪い知らせを受けた。

 嬉しい知らせとはエレナとぼくを含めたチームであることだ。エレナは大層に喜んだ。あの辛かったチームから抜けたことと、エレナの親友と同じチームになったことだ。


 悪い知らせは、四人チームだったのだが、配属されるはずだったチームのひとりが副学長のミスで別のチームに入れてしまったようだ。新しい候補が見つかるまでは三人という方向性で行くよう言われた。もちろん、四人目見つかるまでは三人チームとして行動してもいいと判断された。

 もうひとつだが、ルアの性別は明かされていない。ルキアの仕業だ。

 ルアの性別は自身でもよくわかっていない。もちろん、下半身のアレがないからだ。性別上、どちらにも属さないとある。

 人間なのかと問われれば違うのかもしれないが、人間の亜種と呼ばれればそうかもしれない。


 人間の性別を取り戻すには呪いを解く必要がある。


「クロナ」

「エレナ! よかった一緒のチームになれた」


 クロナという黒色にロングヘアの女の子。

 おそらくエレナの親友なのだろう。


「ルア、クロナよ」

「よろしく、ルア。エレナを守ってくれたことに感謝と敬礼するわ。でも、女だからといって失礼なことをしたら、どうなると思うかじっくりと考えておくといいわね」

 そう言って、クロナは立ち去っていった。


「相変わらず冷たいところは変わらないわね。気にしなくていいよ」


 エレナにそう言ってくれた。

 でも、クロナはなにか気に食わなかったようだ。


 後日、魔法バトルを挑むように言われた。もちろん、それで気がすむのならいいと思い、了承した。

 だが、思いがけないルールを付け加えられた。


「ルアは常に≪防御≫のみ。私の魔法で耐えれたら、あなたの勝ち。以上よ」

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