第9話:出入り口の見える一方通行

 翼が帰った後も、情報処理を続けているミスズ。この場所へ最後に人が入ったのがいつなのか。それを、もっと明確化すつ必要がある。自身に残されているログを頼りに、今やるべきことを探る。どういう意図があってなのか、自信のログは消去されてなかった。恐らく、何か突発的な事由による物と推察。今は考えるのを後回しにする。

 本来起こらないはずの偶然が二つ同時に発生した。一つは本当に偶然起こったことだろうが、もう一つは確実に違うと言う確証があった。


 「何故、本来居ないはずの物が現れたのか、探らなくては」


 そして、自分がこの場所に設置された意味も。

 ミスズは、頼りない記録をを頼りに、自分自身の事含め、今も眠っている人物について調べる。

 

 「アクセスは出来る。けど、アクセスしてここが無事だと言う保障は?」


 状況的に事故、に近い何かが起こったはず。恐らく遭難者。なら、向こう側で捜索が行われているはず。そこへアクセスすることも、ミスズには可能だ。だが、あの場所へ外部からアクセスしたとして、自分が無事で居られる保障がない。奇跡的に、ここの、前の管理者の関係者が居れば、話しは別。そんな都合のいい話ある訳ない。


 「ここへ来た。ならば、知ってる人が向こう側に誰か居る」


 慎重になる。それに、ミスズの考えが当たっていたとしても、恐らく解決には至らない。


 「かなり無理をしてくれましたね」


 この世界へ無事に辿り着いたことが奇跡だと感心するミスズ。正直な話、通ってきた人間が無事なのが一番助かる。状況はどうであれ、把握が可能になる。

 ミスズは自分からアクセスするのを止め、向こう側からの接触を待つことを選んだ。この場所が秘匿された場所なら、接触してくるのは、この場所の関係者に限られる。


 「できれば、あの人が来てくれるのが一番なのですが、彼女の話を聞く限り難しいでしょうね」


 5年前、翼の祖父母が何らかの理由で、彼女にこの場所の事を話した。そして、2年前、この場所が休眠状態に入った。本来知るはずのない翼が、何故知らされたのか。その理由が調べて行く上で判明した。

 面倒な物を預けてくれた、と思いながらも仕事である以上やるしかないと判断するミスズ。今の管理者は、あの少女。今後、巻き込まれていく定めになるのは避けられない。その家に生まれてしまったのだから。


 「公私混同が激しすぎるのが気になりますが、恐らく、あの人独断でしょうね」


 一体、どう落とし前をつけてもらおうか。いっそのこと、不正アクセスでもして、この場所に乗り込んでもらおうかとも考えてしまう。

 必要以上の暴走は、AIの暴走でねじ伏せられる。そんなの容易に想像可能。


 ミスズは、隠れ家の見取り図を見ながら、今も眠る人物を監視する。よく無事にこの場所へ来れた事を素直に感心する。この世界に、しかも一発でこの場所に辿り着けたことは、将来が楽しみな存在だと思う。

 それとは別に、命を落としかねない危険な博打であるとも判断する。そもそもが、禁止事項かつ、重大事故だ。今頃、あっちの世界ではきっと大変な事になってるだろうと、あたりをつける。

 向こう側からこの世界へ行く事は事実上可能。だが、その反対が今は出来ないのだ。数年前を最後に、移動が完全に遮断された事が判明した。それが、4年前。翼の祖父母が、彼女にこの場所を伝えてすぐになる。つまり、4年前に、あちらの世界と遮断せざるを得ない何かが起きたと言う事。


 今も眠っている人物が目覚めたら色々と聞かなくてはならない。何故ここへ来れたのか。どんな手段を使用したのか。そして、何が起きたのか。

 開示不可能な情報の中に、答えはありそうだった。それは、例え関係者でも、限られた人物にしか明かせない情報が。


 「私が単体で保有するには、大きすぎますね」


 事は関係者が想像する以上に深刻な事態へと発展していた。この騒ぎを解決するにしても、人材が足りない。

 面倒事を丸投げされた。それが、ミスズが抱いた印象。AIだから何でも出来ると、浅はかな考えだけでない事を思いたいばかりである。


 「・・・」


 隠れ家の部屋に、反応があった。彼女が目覚めたのだ。翼に伝えた通りなら、いずれこの場所へ来る。全てはそれからだ。


**************************************


 意識が覚醒に近付いた時、強い頭痛がした。その痛さに、思わず飛び起きる。


 「いたたた」


 おでこを抑えながら、痛みに耐える。

 ゆっくり呼吸をして、自分を落ち着かせる。


 「すぅ~、はぁ~」


 呼吸が落ち着くと、ゆっくりと瞼を開ける。部屋は薄暗い。急に光が視界に差し込む事はなく、目に優しい。

 

 「ここは・・・?」


 自分がどうなったのか、ゆっくり思いだそうとする少女。ティア。

 自分は、どこかの部屋で寝かされていると分かった。


 「確か、飛ばされて、それで・・・」


 かなり無茶をしたのは覚えていた。無理に転送が開始された後、気を失いそうになりながらも、身体を保つ事に集中して、そこで記憶がなくなっている。

 肝心の部分が思いだせないのが悔しいが、今はそれどころではない。


 あたりを見渡すティア。枕もとの台座に一枚のメモが目に付いた。


 「メモ?」


 目が覚めたら、地下室に向かって下さい・・・


 「地下室?」


 子供っぽい、小さな字で書かれたメモを見て、部屋の扉が開いてるのに、ようやく気付く。

 メモは恐らく自分を見つけた誰かが残してくれたものだと推察。まずは、自分の現状を確かめるのも含め、メモにある通り、地下室へと向かう。

 部屋を出ると、確かに、下へ通じる階段があった。階段の下の部屋からは、明かりも漏れている。

 音を立てないように、つま先からゆっくり降りて行く。一応は、潜入調査を任された身。危険な場所の可能性は低い。それでも、警戒はちゃんとする。


 「――はぁ」


 思わず漏れてしまう声。上の普通の部屋とはうって変わって、研究室の様な部屋。どこか、管理部を思わせるその部屋に入ると、中央の画面が切り替わった。


 「目が覚めたようですね」

 「うわぁっ!?」


 画面に映し出された女性を見て、後ずさりするティア。そんな彼女を見て微笑むミスズ。

 翼の時と違うのは、すぐに話の本題へと入るところ。ティアはこちら側の人間だからだ。


 「驚かせてしまって申し訳ありません。私は総合型時空管理システムタイプα、ミスズです」

 「え、こんな所に、ですか?」


 戸惑いはある。それでも、目の前の女性の言ってる言葉の意味は理解出来る。ミスズも、ティアの反応を確認すると、話を先へ進める。


 「さっそくですが、あなたの所属を教えてください」

 「あ、はい。広域時空警察・特殊犯罪捜査部・第一級犯罪対策室所属、ティア・ノーブルです」


 敬礼をして、自分の所属を名乗るティア。目の前のシステムが何を言ってるのか、すぐに理解する。そして、自分の今置かれてる立場も含めて。


 「ノーブルさん。あなたがここへ来るに至った経緯を教えてください」


 ミスズは、ティアに説明を求め、ティアもそれに同意する。ティアに取れる選択肢は、それしかなかった。何より、この世界に時空管理システムがあったのは、大きな救いだった。なぜなら、この世界には、それが無いとされていたから。

 ティアは、ミスズに自分がこの世界へ来てしまった理由を話して行く。とある研究所に潜入調査を行っていたこと。その時に、戦闘に発展してしまい、自分だけがこの世界へ飛ばされてしまった事。そして、自分が魔法使いの世界の人間である事。

 ティアの説明を聞き、自分の中の情報と照合を始めるミスズ。掴んだ情報の中に、ティアの説明と当てはまる項目を見つける。


 「その研究所は、本当に時空移動装置があったのですか?」

 「そこまでは分かりませんでした。それをはっきりさせるために、調査に向かったので」


 自信無さげに下を向くティア。その沈黙の時間に、ミスズは検討を始める。

 恐らく、この少女からはこれ以上の情報は得られない。何かを知る前に、この場所へ来てしまった。

 起きている事態を把握しても、それを知らせるに値する人物が居ない。これでは、前に進む事が出来ない。状況を鑑みても、あまりのんびりして居られる状況でない可能性はある。

 現状、頼みの綱は翼一人になる。


 「この世界へ来たのはあなたの意思ですか?」

 「そんな、私はそんなつもり、とても・・・」


 ティアとて、この場所へ来たのは事故以外の何物でもない。もっと言えば、勝手に飛ばされた。そして、この場所へは一方通行であることもある程度理解している。

 今は自分の身が無事だった事にホッとしてるが、本当はそれどころではない。今頃、自分の捜索が大規模に行われてると思うと、申し訳なくなる。


 「失礼ですが、ノーブルさんは、魔法使いの世界の方ですか?」

 「あ、はい。世界区分ではそうなります」

 「なるほど。この世界の魔素は殆ど無いのでさほど問題はないと思うのですが、この世界での魔法の使用は極力控えてください」

 「それはどういう事ですか?」

 「この世界には、私達の事を知られていません。なので、魔法そのものに対する知識が存在しません。なので、余計なトラブルを避けるためにも、魔法の使用は控えてください」


 ミスズはティアに最低限守って欲しい事項を伝える。この世界に、本当に魔法を使える人間が現れる。しかも、他の世界の。

 問題なのは、ミスズやティア達の側が大きな組織である事。もし、大きな問題になった場合、今いるこの世界に大きな被害を出すのは必至。

 今日は堅苦しい話しは止めておいた方が良い気がしたミスズ。


 「あの、聞いても良いですか?」

 「はい。構いませんよ」

 「ここって、どこなんですか?」


 詳しい場所を理解してないティア。色々知りたいが、まず知りたいのはそれだった。



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