第7話:現場対処

 第三世界。数十年前、突如として現れた、と言うより繋がりをもった新たな世界。その原因は空間の乱れ。第三世界は本来繋がりを持つような世界では無かった。

 いまでこそ異なる世界と繋がることの出来る様な時代になった。それは、2つの世界が出会った事が最初だった。1つは、魔法使いの世界『ゲッコウ』。もう1つは能力者の世界『ヒューム』。その2つの世界の出会いは両方の世界にとって新たな歴史の始まりであった。両者はお互いの世界の往来を始めとする様々な取り決めを行っていく。意外だったのは、この2つの世界の間で戦争が起きなかった事だ。当時、その事はどちらの世界でも大きく報道された。「何故、争いを避ける事が出来たのか?」

 その理由はかなり簡単だった。どちらの世界にも複数の国が存在していた。その為それぞれの世界でどう対応するかを決めるのに時間が掛かった。その時偶然なのか、どちらも争う、と言う選択肢は持ち合わせて居なかった。相手がどんな力を保有しているのか。それが分からなかった。

 どちらも特別な力を保有する人間が居るが故、下手に攻撃に出る事を躊躇った。その結果、2つの世界で不可侵条約、友好条約が結ばれた。互いの世界を往来することが出来る方がメリットが大きいと考えた。

 その後、新たにもう1つ世界が加わる。それが現在広域時空警察の本部のある世界『タイタン』である。これらの3つの世界はそれぞれが衝突しあう形でつながった。その為、繋がって直ぐはその場所の空間が不安定になり、不気味な裂け目が存在している。

 『タイタン』に広域時空警察の本部が置かれることになったのは、この世界には『ゲッコウ』や『ヒューム』の様に特別な力をもった人が居なかった為。

 問題の第三世界はこれまでとは状況が異なった。それは、どこで繋がったのかが不明だったのだ。これまでの様に、明確にこの場所。と言うのが特定できなかった。ではなぜ、第三世界の存在を認識することになったのか。それは一人の男性が大きく関わっていた。その男性が突如として『タイタン』に現れたのだ。その時既にそれぞれの世界への個人単体での移動のは禁止されていた。それが可能なのは広域時空警察のみ。最初は何らかの事故かとも思われたがそうではない事が判明した。その男性は当時繋がりを持っていた3つの世界のどこにも属さないと言う事。

 調査を行ったがその世界が何処なのかが全くつかめなかった。その調査と並行して残りの2つの世界でも同じ人間が出現していないか、調査が行われた。調査結果は『タイタン』に現れた1人のみ。調査を担当した広域時空警察は1つの見解を出した。それが空間の乱れ。その男性の居た世界で空間の乱れが発生し、その結果として一時的に『タイタン』と繋がりを持った、と言う物。空間の乱れによって一時的な繋がりしか持てなかった世界。次いつ繋がるか予測を立てる事は非常に難しかった。

 『タイタン』に現れたその男性は広域時空警察によって保護されることになった。戻ることが事実上不可能になってしまったこともあり、彼の仮の身分として広域時空警察の一般職員として採用することになった。元々あらゆる人間が在籍する組織。彼が馴染むまでそれほど時間は掛からなかった。


*******************************************


 広域時空警察の本部施設の管轄地域にある研究所は何者かの侵入を許したことで物々しい雰囲気に包まれている。警備が厳重になっている。その警備を見る限り、その本性を現した。その場に居る捜査員全員が感じた。

 あちこちに武器を携えた人間が立っている。一研究所にしては大げさすぎる。


 「あの研究所、特別施設の対象外のはずよね?」

 「はい。殺傷性の高い武器の携帯は認められておりません。」


 現場を預かる静の指揮の元、研究所から少し離れた場所に集まっている突入組。『タイタン』を始めそれぞれの世界には、広域時空警察の捜査物の研究依頼が送られる。そのため、何かが起きたとしても問題の内容武器の携帯が許されている。それらの施設は特別施設と呼ばれ、各警察ごとに登録されている。

 静は現場の施設が特別施設に該当しないかを確かめる。複数の棟を持つ研究所などの場合、1棟でも登録されていれば、武器の携帯を理由に乗り込むのが難しくなる。

 柚達が乗り込んだ目的は非人道的活動だが、静は武器の違法所持で現場対処に当たることを考えた。ダイレクトに非人道的活動で乗り込むと、最悪犠牲者が出る可能性があるから。


 「公式に出されているあの研究所の見取り図を。」

 「こちらです。」


 指揮用の大型車の中で静達は情報を確認して行く。もし柚達の調べが本当なら、どこかに不審な点があるはず。

 大型車のモニターには、役所に出された表向きの見取り図と、設計図が表示されている。

 研究所は地上8階だで、地下3階構造で建設されている。公に出された資料ではその全ての階層に見学者が入れる場所が存在している。


 「設計図と、見取り図、重ねてくれる?」

 「はい。」


 モニターを操作する捜査員が設計図と見取り図を重ねる。すると、地下1階部分に僅かな空間が生まれた。


 「ここ!」

 

 静の指差した場所をその場に居る全員が注目する。そこを見ると見取り図と設計図の部屋の数が1つ足りない。幅的に、足りないのは恐らく通路程度の幅。


 「この空間。この下の階はどうなってる?」 

 「この下は設計図、見取り図共にずれはありません。地下1階のとは造りが違うようです」

 「てことは、地下3階より下が存在するのね。」


 公にはされていない地下構造物が存在する。静はそう睨む。現在大型車の中に居るのはそれぞれの部隊を率いる作戦指揮長。静は、非人道的活動が実際に行われているであろう場所へ向かう部隊を率いる。


 「これより、作戦を説明します」

 

 全員が静の言葉に耳を傾ける。静はインカムの電源を入れ、外に待機している捜査員にも内容を伝える。


 「まず、スバル班」

 「はい」

 「武器所持での強制捜査」


 広域時空警察第一捜査課。今回の件で応援に出された部署の一つ。第一捜査課はそれぞれの世界を逃走する凶行犯の担当。


 「スバル班は、表から突入。強制捜査なので、抵抗する場合、実力行使も許可します。但し、我々の本当の目的を悟られないように」

 「はい」

 「次に、グレン班。スバル班と一緒に乗り込み、警備室及び、所長室担当」

 「はい」


 捜査目的が武器の違法所持で乗り込むとは言え、上層部の人間を速やかに抑えないと、本来の目的が達成できなくなっていまう。

 大人数のスバル班が一般施設を対処している間に、少人数のグレン班が2ヶ所を抑える。


 「次に特殊部隊、カテナリ、トロリ、ハンガ班。3班は研究所を囲む形で準備。現在研究所内に、特殊犯罪第二対策室が追っている密輸品が出て来る可能性があります。出てきた場合、問答無用で対処してください」

 「まじっすか」


 強硬姿勢を見せる静かに驚きを隠せない特殊部隊の班長3人。ただし、その対処を実行すると言う事は、柚達の捜査が事実だった証拠になる。少なくとも、コンピュータールームの警備をする人間が持っているのは、違法性、危険性が共に高い物。持っているだけで十分アウトな代物。


 「私率いる滝本部隊は、スバル班が警備施設制圧後、裏口より侵入。一気に向かいます」

 「了解」

 「タイタンにある支部に、空間移動の波動が感知されたらすぐ連絡するように伝えてあるので、入り次第、連絡を」

 「了解しました」

 「それでは、現場対処開始」


 まず、スバル班、グレン班が研究所に向かって移動する。警戒が続いているとは言え、いきなり攻撃に出て来るような真似はしないはず。もしやって来るようなら問答無用で行くのみ。

 最後に、静が現場対処を行う旨を本部に連絡。静も研究所へ向かう。

 

 「スバル班全員聞こえるか?」

 「聞こえます」


 スバル班、班長、ドラク・スバルがメンバーにこれからの細かい指示を出して行く。


 「通常の強制捜査と手順は同じだ。あくまでも、向こうは綺麗な研究所とのことだ。俺らの仕事はほぼ全ての部署に行く事だ」

 「問題ありません。地図は叩き込みました」

 「結構」


 研究所の駐車場に車をつけ、大勢の捜査員が研究所に向かう。その様子に何も知らない職員は困惑をしている。すぐに、捜査員が困惑する職員を研究所から離す。この段階では攻撃は飛んでこない。入り口を入って直ぐの所で捜査員が一斉に分かれる。事前にスバルによって振り分けられた場所へと向かう。

 そしてグレン班はエレベーターを使い、所長室のある8階と警備室のある地下1階へ進む。


 「広域時空警察だ。第二種武器所持の容疑での強制捜査に入る。全員動くな」


 研究所に入ったスバルが大声で周囲に言い聞かせる。その場に居る人たちは何事かと立ち止まる。全員武器を携帯している警察職員に驚きを隠せない。

 困惑で固まっている職員はほぼ何も知らない人間である可能性が高いため、外へ避難させられていく。反対に、捜査内容を知ってる者は何かしらの行動を起こして行く。その行動を見落とすほど広域時空警察は甘くない。


 「動くなって言ったろ」

 

 スバルが何かをしようとしていた職員を取り押さえる。スバルが奪い取ったのは、殺傷性のある物。


 「俺だ。第二種武器の所持確認。全員気を付けて行け」


 スバルの無線を聞いた職員が武器を手に次々と部署を抑えて行く。

 一方のグレン班もそれぞれの場所に向かっていた。


 「グレン班、所長室に向かいます。所長室の背後に特殊部隊の配備を願います」

 「了解。ドラク部隊が向かう」


 所長室なら何が出てきてもおかしくはない。所長室に向かう捜査員たちは緊張に飲まれる。

 エレベーターが7階を通過し、目的の8階が迫る。


 「よし、行くぞ」


 全員が頷く。

 エレベーターの扉が開き、捜査員は周囲の状況を確認しながら降りて行く。8階にあるのは、会議室と所長室。目的の所長室はエレベーターを降りて真っすぐ突き当りの通路を左。他の階が迷路の様に入り組んでいるのとは違い、この場所はかなりシンプルな造りになって居る。

 通路を進んで行くと前から黒服の男たちが銃を持って現れる。


 「あ、やべっ」


 グレンは自身の魔法である防壁を出して捜査員全員を守る。その後ろで捜査員の一人が何やら準備を始めている。


 「準備できたか?」

 「はい。」

 「全員目と耳塞げ!」


 グレンの指示で目と耳を捜査員が塞ぐと、先程準備をしていた捜査員が銃を2発撃つ。その銃弾は床に着弾すると、激しい閃光と音を放つ。何もしていなかった黒服の男たちはその場に倒れ込む。グレンたちも若干のダメージは受けた。


 「ああ、目ぇチカチカする」

 

 目を抑えるグレン。しかし他の捜査員たちはちょっと違った。


 「お前ら、いつの間にそんな物用意したんだよ・・・」


 グレン以外全員サングラスをかけている。さらに耳栓まで準備する手の込みよう。今回の様な事はちょくちょくあるため皆学習している。


 「いや、班長こそ何で持ってないんですか?」

 「彼の能力知ってるんなら、普通は準備しますよ」

 

 今のは捜査員の能力による物。この手を使う事はよくある。幾分影響が大きいのがネックだが、対策をしてればそこまで問題ない。なのでグレン班の捜査員は皆サングラスと耳栓は携帯している。持ってないのは班長のグレンだけ。そこを突っ込まれ、下を向くグレン。


 「まあいい。行くぞ」

 

 今の衝撃で所長に気付かれた可能性は高い。この研究所のトップがどんな人間か分からない以上、気を抜けない。

 所長室の前で息を整え中に入る。


 「なんだ貴様等!?」


 椅子に座って堂々とお決まりの文句を言い放つ研究所の所長。グレンは彼の前に立つ。


 「広域時空警察だ。この研究所を第二種武器所持の容疑で強制捜査だ」

 「何のことだかさっぱりだ」

 「これでもか?」


 グレンは通路で回収した男の武器を机に出す。これも所持が禁じられている物。出された武器を見て目を逸らす所長。どうやら知っている様だ。

 所長が机の引き出しに手をかけようとする。


 「余計な事はしない事だ。あんたの背中をうちの特殊部隊が抑えてる」

 

 グレンの視線の先に見える建物から発光信号が送られる。準備が出来た合図だ。


 「こちら第2。警備室、終わりました。」

 「了解、滝本部長に連絡を」


 地下の警備室に向かっていた別動隊から連絡を受けたグレンは、裏口で待つ滝本部隊の誘導を命じる。


 「滝本・・・」


 所長がつぶやいた名前。滝本と言う名前を知っている。所長の頭の中で何故ここに広域時空警察が現れたのかがつながった。武器の違法所持だけなら出てこなこともある。それなのになぜ今回は出てきたのか。

 滝本と言う名前を聞いて、何が目的なのかが分かった所長は、グレンたちにばれないように足元のスイッチ押す。そのスイッチは一部の地下施設にのみ警報を鳴らす物。


*******************************************


 カチャ・・・。

 

 「行くわよ」


 静率いる本隊が施設内に入る。そのまま地下へと向かう。その後、隠された施設への入り口があるとされる場所まで走って向かう。道中は先に入ったグレン班の人間に制圧されている。

 地下に降りて警備室と丁度対角線上に当たる場所に入り口とされる場所はあった。

 

 「この部屋の奥ね」


 静が機械を使って罠の類が無いか調べて行く。この部屋までは通常施設の扱いになって居る。この数分で罠が設置されてもおかしくない状況に置かれているため、確認は怠らない。

 罠等の危険が無いのが確認されると室内に入る。その部屋は資料室になって居た。念のため後程ここの資料は回収となった。

 静は室内を歩き回り、謎の空間があるとされる場所を壁伝いに歩いていく。どこかに通路への入り口があるはずだと。


 「ん?」


 床板に妙な傷があるのを見つけた静。その床板は蓋の様になっており、床板を開けると数字盤が顔を表した。

 

 「パスワードタイプか。解析お願い」

 「かしこまりました」


 捜査員が数字盤の接続部に機械を接続してパスワードを解析していく。こればっかしは魔法、能力どちらも使えない。

 解析が行われている最中、外を預かる特殊部隊から通信が入る。


 「滝本部長!」

 「どうかしましたか?」

 「出て来ましたよ。やばそうな物」


 気付かれたと言う合図でもあった。今自分たちがこの部屋に居ることが気づかれる可能性も上がる。

 

 「構わない。対処して」

 「了解」


 通信を切った静は時間を確認する。最初にスバルたちが入ってから10分程。素早い対処が反対に時間の余裕を削った。


 「気付かれたみたいね。入り口、警戒して」


 静が部屋の周囲の警戒を命じる。扉を閉め、その両脇で捜査員が構えている。


 「解析終わりました」

 

 解析が終わり、パスワードを打ち込んでいく。ガコン、と音がし、壁に設置されていた資料を保管する棚が床に沈んでいく。その場所こそ、隠された施設への入り口だった。


 「皆、行くわよ」


 これから先は違法武器を持った人間が出てくる可能性が高いため、全員特殊部隊と同じ武器を携帯している。魔法を使える者はいつでも発動が可能な状態で行動する。

 静率いる10人の捜査員が隠された場所へと向かって行った。



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