VOL5

『どういうことだ?』


『俺の背中のザックな・・・・この中にちょっとした爆弾が入ってる。しかもこいつは俺の心臓の音が安全装置になってるんだ・・・・要するにさ。俺の心臓が途切れたら、その瞬間に大爆発だ。それだけじゃない。おれの身体から・・・・そう、5メートル以上離したらそれでも爆発するように出来てるんだぜ』


『は、はったりだ!はったりに決まってる!』プロレスラーが割れ鐘のような声で怒鳴り、AKを俺に突き付けた。


『ほう、面白い。何なら試してみるかい?撃ってみろよ。ほれ!』


 敵さんはすごい目をして俺を睨みつけている。


『さ、行こうか』


 俺は、わざとゆっくりした動作でザックを下ろすと床に置き、ルイを促した。


『行こうぜ』


 後ずさりするようにじりじりと・・・・しかしやがてくるり、と向きを変え、一散に走り出した。


『もう大丈夫だな』


 10メートルほど離れたところで、俺はリモコンを取り出してスイッチを押した。


 爆発音がし、きな臭い煙がこちらにも流れてきた。


 だが、それほどのものじゃない。


『野郎!騙しやがったな!』


 後ろで怒号が聞こえる。


 狭い通路の中にサイレンの音が鳴り響いた。


『走るぞ!』


 俺はルイに向かって言った。彼女も素直に俺の後について駆けてくる。


ここはどうやら地下になっているようで、内部はさながらミノス王の迷宮の如しだったが、どうにか外まで出ることが出来た。


 しかし外にも銃を持った連中がうろついている。


 俺達二人は何とかその矢弾をかいくぐった。


『私、騙されたんです・・・・』少し落ち着いたところで、ルイは小さな声で言った。



 彼女の話によれば、『地球がひっくり返るほどの研究』というのは、


『24時間の間、全ての生物を仮死状態にするガス』だったという。


 このガスを、例えばある国の戦争を止めさせようと考えた時、弾道ミサイルに詰めて撃ち込めば、多くの犠牲を出さずに、兵器だけを取り上げて指導者を逮捕する。

そうすれば戦争を終わらせることが可能・・・・となる筈だった。


 しかし、彼女の祖国の政治家や軍人はそうは考えなかった。


 彼女の発明を、ただの『毒ガス』にしようと企んだのである。


 毒ガスは『貧者の核兵器』とも言われている。


 核兵器は製造するのにそれなりの設備が必要だが、毒ガスはせいぜい小規模のラボのようなものがあればそれほど費用をかけることもなく、簡単に大量生産が可能だ。


 彼女の祖国はお世辞にも豊かと言う訳ではない。


 しかも周辺国は敵だらけで、自前で国を守ろうと思ったら、それなりの覚悟が必要だ。


 そのことを知った彼女は、ついに『亡命』を決意した。


 しかし世界中どこも彼女を受け入れてくれる国は存在しなかった。


 そんな時に声をかけてきたのは、日本のある『人権団体』だった。


 今回の国際会議を隠れ蓑にして、某国が純粋に彼女の身柄を引き受けてくれる。その橋渡しを自分たちがしよう・・・・と言ってきたらしい。


 しかしながら、世の中そんなに美味い話など存在しない。


『人権団体』とやらの正体が、つまりはテログループで、彼らもまた、彼女に『ガス』の製造法を迫ってきたのだ。


 断固として断ると、件のような目に遭わされて監禁されたのだという。


『なるほど、ねぇ・・・・大人の世界って、汚いもんだな』


 俺はわざと慨嘆してみせた。

 

『私も本当のことを話しました。だから貴方も本当のことを話してください。泥棒なんかじゃないんでしょう?』


『そうだよ』


『じゃ、誰?』


『その前に一つだけ頼みがある。それを聞いてくれたら、本当のことを話そう』




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