第3話 初称号

 辺りを静寂が包む。


 先ほどまで聞こえていた虫や生き物の声が途絶えている。


 どうやら先ほどの光を見て、逃げ出すか隠れているようだ。


『さっきの光は、神の言っていた龍のブレス 終焉の光とか言うやつか? 本当に使えるとは……。』


臥したまま、思考は回る。


『しっかし、辛い。襲われたのも辛いが、怪我は前肢の傷程度だ。それよりも終焉の光を使ったときの消耗が激しすぎる。今、もう一度使ったら冗談抜きで死ねる。これ、どんぐらいで治るんだ。だいたい終焉の光って名称は、なんだよ。こんなん、ただの光で十分だろ。』


 ゆっくり起き上がりながら辺りを見回す。


『すっかり静かになったな。それにさっきよりかは明るい。星がさっきより見える。そうか、光で上を覆っていた木か何かの枝がごっそり消え去ったからか。』


 一歩踏み出そうとしてふらつく。


『こりゃ、ホントに休まなきゃまずいな。しかしこんなとこじゃいつまた襲われるか…。』


 ふらふらしながら二歩、三歩と踏み出すと、何か湿ったものを踏む。


『なんだこりゃ。あっ、さっき襲ってきたやつの肉片か。』


鼻を近づける。


『どうやらほぼ密着して光を打ったから胴体部分は消しとんでも、四肢のどこかは残ったみたいだな。さっきのやつ、殺すとか食うとか言ってたよな。知性があるような感じじゃなかったけど。あいつの鳴き声か何かを、あの神がくれた祝福とかで翻訳されてたってことか?』


 肉片を前に考え込む。


『食えるかな、これ。襲ってきたってことは肉食だろうけど、今は俺もこんな体になってしまったし、何よりさっきから空腹感がひどい。これも光を打ったせいか。ひとまず持っていくか。』


 肉片を口に咥えて歩き出す。すぐに樹冠に空いていた穴の部分を過ぎ、辺りの暗さが増す。


『さっきの光のおかげで、野生の生き物のが逃げたっぽいのはラッキーだったな。今襲われたらひとたまりもない。問題は知性のある敵か。光を見て偵察に来るようなやつはこの近くにいるのかな。今のうちに出来るだけさっきの場所から離れた方がいいよな。そういや神が敵がどうのこうの言ってたな。あんなじゃ何も分からないし、そっちは今は気にしても仕方ないか。』


 しばらく無心に進むが体はどんどん言うことをきかなくなる。

 ついに木の根本でへたりこむ。


『もう無理』


 咥えていた肉片を離す。


『これ、くっちまうか。このままじゃどうにもならんし。男は度胸!』


 肉片の端を、少し囓る。


『うん、食えなくはない、な。体が変わって味覚も変わってるのか。うまくはないけど普通に食べれる。寄生虫とか心配だけど、この手じゃ火なんか扱えないしな。』


 顔を肉片に突っ込み、全て食べきる。


『死にそうなほどの虚脱感が、和らいだかも。次は寝床か』


 その瞬間、脳内に声が響く。


「条件を達成しました。称号:共食い(狸)を獲得しました。」

「称号の効果として進化の布石、獲得。」


 突然の声に、びくりと体が震える。

 しかし、そこで声は途絶える。


『今の声はなんだ! くそ神の声と似ていたが。称号って言っていたか? あの神もそんなようなことを言っていたかも。共食い(狸)ってことは、さっきの襲ってきたのは同族か何かか。そして、俺は今、狸ってことか。犬ですらなかったのか、この体。』


首をかしげて、少しばかり見える自分の体を眺める。


『進化の布石ってなんだ? 布石ってことは後々進化するってのか? まあ、今は何も分からないし、これも先送り、かな。』


軽く頭をふる俺。


『しかし、行動して称号獲得ってゲームかよ。ステータスとかスキルもあるのか?』


 しばし、ステータスと念じたり、それっぽい動作をするも何も起きず。


『うむ、わからん。ステータスはないのか、俺がやり方を間違っているのか。これも先送りだな。それより寝床探すか』


 辺りは、ほとんど見通せない闇に包まれている。へたりこんでいた木の根と地面の間に隙間がある。


『この隙間、もう少し掘ればいけるか。木に上るのはこの体じゃ無理だろ。』


 木の根本に半分体を突っ込むようにし、前肢で土を掻き出す。本能なのか、順調に土が掻き出されていく。

 しばらく堀り続け、体が入って向きを変えられるぐらいのスペースの穴が出来上がる。


『よし、これで十分だろ。もう動けない、寝るか。』


 そして俺は、狸としての一日目を終えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る