28海といえば、水着とこれが欠かせません
「うるさい音ね。」
最初にユーリに話しかけてきたチャイナ服の女性は、不機嫌そうにユーリの身体から離れていく。
「どうやら、あなたたちは私たちが何者なのか、気づいてしまったようね。気づかれても別に問題はないけど、気づかれたのなら、遠慮は無用。」
突如、女性から白い煙のようなものが立ち上り、煙が消えるころには女性の姿は跡形もなく消えていた。後ろにいた女性たちもいつの間にか姿を消していた。
「いったん、ここは退散するけど、すぐにでも勇者と聖女の首を魔王様の土産にもっていくから覚悟しなさい。」
あたりに女性の姿は見えないのに、声だけが耳に響いてくる。そのまま、女性の声は聞こえなくなり、その場はユーリたち一行のみが立っているだけとなった。
「なんだったの、今の人。」
「いなくなったのはいいことだけど、また来るという感じでしたね。」
エミリアとイザベラは、敵がいなくなったことを確認して、武装を解いた。
「それにしても、魔王本人はこなくて、魔王の手下ばかりが私たちに接触しに来るけど、実際、魔王ってどんな感じか気になるところよね。」
カナデは女性がいなくなったことで、別のことを考えていた。ラスボスが序盤から攻めてくるのは、こちらがレベル不足でやられてしまうので、避けたい事態だが、旅も一カ月を超えた。自分たちのレベルは、だいぶ上がったと感じているカナデであった。ただし、カナデ自身のレベルは上がっていないと確信していた。あくまで、レベルが上がったと思われるのは、周りの女性陣のこと。一カ月の間にモンスターとの遭遇で鍛えた力を使えば、魔王などすぐにでも倒せそうだと、カナデは楽観的に考えていた。
「まあ、実際には、旅も飽きてきたということが理由の一番だけど。」
「それは同感だ。」
隣にいたユーリが偉そうにカナデの話に相槌を打つ。
「オレも思っていたことだ。こんな旅がまさか、一カ月も続くとは思わなかった。ということで、手っ取り早い方法を思いついた。」
にやりと、気味悪く笑うユーリが話した手っ取り早い方法に、カナデは嫌々ながらも賛成することとなった。
「しばらくこの宿に滞在することにした。」
突然のユーリの提案に、カナデ以外の女性陣は不満を唱えた。
「どうしてですか。あともう少しで、魔王がいると言われるシーロープですよ。ここで立ち止まる意味がわかりません。」
「そうですよ。しかし、ユーリ様のことですから、何か策がおありということですか。」
「シーラ、もうすぐとは言っても、まだ海を越えての旅が続く。間違ってももうすぐとは言い難い。よくぞ言ってくれた、イザベラ。そうだ、オレには作戦がある。そして、この作戦が成功したら、魔王をこの地で倒すことも可能だ。」
自信満々に話し出すユーリにカナデはため息がこぼれる。自信満々はいいが、この作戦のカギを握っているのは、敵側である。敵がこちらの作戦に乗ってくれるかで決まる計画など不安でしかない。
「では、作戦を説明しよう。まずは……。」
意気揚々と説明を始めるユーリだった。
「こ、こんな破廉恥な格好をしなくてはいけない、のですか……。」
「わあ、これは涼しい。」
「これ、ほとんどハダカ……。」
「ルーはこんな服、初めて着たあ。」
「わかるよ、わかるが、女の私でもこの光景は結構なことだと思いはしますけど、今後は禁止にしたい……。」
ユーリたち一行は、海岸沿いまで来ていた。海水浴などと言うものは、この世界では流行ってはいないようだ。砂浜についても、人の気配がまるでなかった。
砂浜にたどりついたユーリたち一行は、ユーリの提案で海水浴をすることとなった。気候は暖かく、海水浴をするのに問題はないほどの気温であった。その際に、ユーリは水着を女性陣に着用させるのはお約束だ。
「素晴らしい。こんなに素晴らしい光景をオレ一人が独り占めするのは、もったいないことだが、それでも、オレ一人のものだと思うと、感慨深い……。」
海で泳ぐという概念がない女性陣は、水着というものにも初めて触れるようだった。ユーリが手渡した水着に最初は興味深々だったが、いざ、身につけてみると、恥ずかしくなったようで、身体を縮めてユーリの前に姿を現した。
ちなみに、ユーリが水着をどうやって入手したかというと、簡単だ。女神からもらったチートな魔法を使って、自らが作り出した。女性陣は、皆、水着の定番のビキニを着用していた。ルーはなぜか、学校用のスクール水着だった。ユーリは、それぞれに似合う色や柄を考えていた。
「それにしても、こうも属性がいろいろな女性陣を集めることができたのも、異世界あるあるの主人公補正というものか。ああ、ありがたきこの力。」
イザベラは、戦士ということもあり、引き締まった身体に似合う、黒いビキニ。エミリアは、可愛らしさと清楚さを合わせた白いフリルのついたビキニ。ルーは幼いことを理由になぜか、紺色のスクール水着だった。身体の前面には、ご丁寧にも、「るー」と書かれた名札が張り付けられていた。シーラは、森の妖精らしく、緑の葉っぱをイメージした緑のビキニ。緑の葉で大事な部分が隠されているかのようなデザインは、秀逸だ。
「聖女様は、着用なさらないのですか。」
女性陣にと、ユーリが張り切って魔法で作り出した水着に手を出していないのは、ソフィだけだった。ソフィアもこの世界の女性陣のテンプレに漏れることなく、美しさを備えている。ビキニという露出度が高い服装でも、見栄えに問題はなさそうだった。
「私は遠慮しておきます。聖女というものは、異性に肌を軽々しく見せるものではない存在なのです。それに、ユーリ様は、カナデさんに水着を作成していらっしゃいませんよね。私の代わりにカナデさんの水着を作成してはいかがですか。」
「なっ。それは、こいつはオレの今回の計画に必要ないからだ。それに、こいつの身体を見ても、面白味も何もないからな。どうせ、ぶよぶよの身体だから、露出させても、面白味もないからな。」
「自分でわかってはいるけど、そこまではっきり言う必要はないよねえ。しかも、面白味がないって二回も言うほどかよ。別にいいけど、こんないい天気にあんな恰好したら、全身真っ黒になって、後が悲惨だから、水着がなくて清々だけど。」
「ああ、やめやめ。海といったら、水着とこれだああああああ。」
ソフィアが水着を着ないという態度をかたくなに崩さないことで、ユーリはソフィアの水着姿を拝むことをあきらめたようだ。今度は、魔法で、ビーチボールを召喚させた。
「ああ、つくづく腐った頭してるわ、あんた。」
カナデは頭が痛くなった。天気は雲一つない快晴。青い海。白い砂浜。麗しの美女たち。絵画にしても、写真にしても、素晴らしい被写体である。それを見ているのが、にやけ切ったキモ男なことに、頭を抱えたくなるのだった。
「ええい。」
「とう。」
「それえい。」
「きゃああ。」
女性陣が、これまたユーリが魔法で作り出したビーチボールを使って遊び始めた。初めは、ボールを宙に投げて遊ぶだけだったが、見かねたユーリがビーチバレーのルールを説明して、今は、試合の真っ最中だった。
イザベラとエミリア、シーラとルーで別れての試合。ボールを打つたびに、ジャンプするたびに身体がはね、その都度に胸がぽよんぽよんと上下する様をユーリは、鼻を押さえて、凝視していた。
何とも平和な光景が広がっていた。
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