26戦いのテンプレが待ち受けていました

 転移装置が特定の条件下の場合にしか作動しないと聞いて、仕方なく旅を続けるユーリ一行。旅の道中では、異世界あるあるの現象がユーリたちに襲い掛かるのだった。


「これは見事に異世界転移・転生あるあるのテンプレだな。くそいまいましい。」


「だが、そのテンプレがもといた世界にはなかったことだ。生で見ると、素晴らしいものだな。ここは楽園か。」


 目の前の光景に思わずカナデとユーリは言葉をこぼす。そう、目の前の光景は今まで二人が読み漁ってきた異世界転移・転生のテンプレがこれでもかと詰め込まれていた。



「こ、こいつ、手ごわい。」


「魔法が聞かないなんて。」


「魔法が聞かないなら物理で挑むだけ。」


「負けない。」


 ユーリとカナデ以外は、あるモンスターと対峙していた。ユーリたち一行の前に突如現れたそのモンスターは、いもむしの巨大バージョンのような緑色の君の悪い様相をしていた。その口からは先ほどから、何やらよくわからない液体を女性陣に向かって吐き出している。イザベラもエミリアもシーラもルーも、ユーリ一行の旅に付き添う女性陣は、総じて身体能力が異様に高いために、華麗によけているので、今のところ、大きな被害には至っていない。


 しかし、当たればただでは済まない危険な液体のようだった。いもむし型モンスターの吐き出した謎の液体は地面に大きな穴をあけていた。液体はどうやら、酸を含んだ危険な物質のようで、これが人間に当たればひとたまりもないだろう。


 華麗によけつつ、攻撃を繰り出す女性陣だったが、いもむしのようなモンスターは攻撃をものともせず、ひるむことなく液体を吐き出すため、対処に困っていた。さらに困ったことに、いもむしの他にもう一種類、厄介なモンスターがこの場に存在していた。



「キャー。」


 エミリアが悲鳴を上げて宙に放り出された。いもむし以外のモンスターというのは、蜘蛛のような姿をしていた。それがいもむしの周りを複数動き回っていた。その一匹が糸を吐き出し、エミリアが捕らえられたのだった。


 糸に絡まったエミリアは、どうにか糸から抜け出そうと必死にもがくが、もがけばもがくほど糸が身体に絡まり、悪循環となっていた。宙に放り出され、そのまま地面にたたきつけられた。糸が絡まったエミリアの姿は不謹慎だが、男性が思わず息をのむ姿をしていた。糸から抜け出すためにもがくように動いたため、服が適度にはだけられ、足元はもともと防御力が低かったが、ロングスカートがめくれ上がり、生足がはみ出している。


「エミリア。」


 イザベラがエミリアに急いで駆け寄る。いもむしはその隙を逃さない。イザベラに狙いを定めて謎の液体を噴出する。


「なっ。」


『イザベラ』


 地面をも溶かすほどの強い酸がイザベラを襲う。そのままイザベラは溶けていくと思われたが、イザベラの溶けた姿になることはなかった。


「まったく、死なないのは結構だけど、これはやっぱりくそだわ。」


「いいねえ。これだよ、これ。」


 先ほどから、カナデとユーリは女性陣とモンスターの戦いに参加せず、モンスターの視覚の範囲外の安全な距離から戦いを見守っていた。戦いに参加する気はないようだ。


 イザベラ自身が溶けない代わりに、イザベラの服のみが溶かされていく。シューシューと音を立て、イザベラの身体から湯気が立ち上り、消えるころには、妙に艶めかしい姿のイザベラがそこにいた。



 もともと、胸の部分がぽっかりと開いた甲冑を身につけていたが、その範囲が広がり、大きな胸が露わになった。下半身ももともと、ホットパンツ並みの短いパンツだったが、お尻の部分がところどころ溶けて、ひどい有様になっている。足はニーハイを履いていたが、それもすべては溶けず、黒いニーハイの溶けた部分から生足が覗いている。


 自分の様子を確認したイザベラは自分の醜態を確認して、さっと顔を赤くしてその場にうずくまる。


「残りは、シーラとルー、か。いいぞ、このモンスターは最高だ。」


「おい、くそ男。いい加減、お前のクスチート能力で何とかしろよ。」


「いて。」


 カナデはさすがにこれ以上、女性陣の恥ずかしい姿を見ることに我慢ができなかった。ユーリの足を思いきり踏みつけてやった。


 こんな痴態を人前でさらすのは、さすがのイザベラも屈辱的だろう。他の女性二人も、このままだと同じような痴態をさらすことになりかねない。しかし、カナデ自身に魔法などの特殊能力は備わっていない。この場で戦う術はなかった。だからこそ、頼りになるのは、その場で自分と一緒に戦いを眺めているユーリしかいなかった。


「いやだ。どうせ、この物語はオレが主人公で、彼女たちはオレのハーレム要員のヒロインだ。死ぬはずがないだろう。だから、もう少し様子を見てから、助ける。」


「お、前という奴は……。」




「きゃっ。」


「や、やめて。」


 二人が話している間にもモンスターによる攻撃は止まらない。疲労の色が強くなり、シーラもルーもモンスターの攻撃を受けてしまう。


 四人のうら若き乙女の痴態が出来上がった。


「カナデさん。」


 カナデは歯を食いしばり、その光景を見ていることしかできなかった。あまりの自分の非力さに悔むことしかできない。唇をかんでしまい、唇からは、血が流れだす。


「あなたのその姿とユーリ様の姿を見て、確信しました。カナデさん、あの夜のあなたの意見に賛成です。」


「そ、ソフィアさん。」


「そ、ソフィア様。どうしてこの場に。戦っていらっしゃったのではなかったのですか。」


 突然、目の前に現れたソフィアに二人は驚き、目を白黒させていた。


「私の能力は攻撃には向いてはいません。彼女たちが何とかしてくれるだろうと見守っていましたが、どうやら限界のようです。私が助けてきます。」


 にこりと微笑んだソフィアの顔は、天使のようなほほえみだったが、その後ろには何やら黒いオーラが吹き出していた。この状況に腹を立てているようにも見えた。




 戦いはあっけなく幕を閉じた。ソフィアがルーと出会ったときに使った能力で、一瞬にして、モンスターが動きを止めた。


『おさまりなさい。そして、私たちの目の前から消えなさい。』


 ソフィアの一言で、今までの行動が嘘のようにいもむしと蜘蛛のモンスターはおとなしくなる。そして、そのまま、森の奥へと帰っていった。


「す、すごい能力……。」


「まあ、オレと同じような能力だな。」


 カナデとユーリが感心していると、ソフィアはすぐに女性陣のもとへ駆け寄り、癒しの能力を使って、彼女たちの傷や服を修復していく。



「あ、ありがとう。」


「アリガと、感謝する。」


「助かりました。」


「お礼を言います。聖女様。」


 四人はかわるがわるに感謝の気持ちをソフィアに述べていく。


「旅の仲間として当然のことをしたまでです。ですが、このまま旅を続けていると、また同じような状況に陥る可能性があります。私があなた方に防御の魔法をかけてもよろしいでしょうか。」


 四人はソフィアに助けてもらい、信頼度が高まっているようで、二つ返事でソフィアの提案を受け入れる。



「いや、まさか、その防御魔法って……。いたっ。」


「そのまさかですよ。ソフィアさん、私からも感謝の言葉を述べさせてください。ありがとうございます。」


 四人の身体が白い暖かな光に包まれ、輝きだす。ソフィアは自らが施した魔法について説明する。


「この魔法は、先ほど私が伝えた通り、防御魔法の一つになります。見た目はそのままですが、今回のように糸に絡められたり、液体で服のみが溶かされたりすることがなくなります。攻撃が当たっても跳ね返すという感じです。」



「なんてことを……。」


 説明を聞いて、女性陣四人は改めて、ソフィアに感謝の意を伝えるが、ユーリだけは落胆していた。がっくりとうなだれていたが、急にガッと目を見開いて、叫びだす。


『服よ、破れろ。』


 ソフィアの防御魔法を試そうとしたのだろうか。魔法を女性陣に使いだした。しかし、魔法が発動することはなく、四人の身体が一瞬光りだしたが、その後は何も起こることはなかった。



「なんてことをしてくれたんだ……。」


『ユーリ様……。』


 四人の瞳はユーリに尊敬のまなざしを送っていた。カナデが理由を問いただすと、ユーリがソフィアの魔法の出来を確かめるために、わざわざ魔法を使っていることに感激していたらしい。


「これもまた、ハーレム能力が発動しているということか……。」


 このハーレム状態を何とかしなくては、自分の理想どころの騒ぎではないと思いつつ、ため息をついたカナデに、ソフィアも賛同するように苦笑するのだった。

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