16魔王と勇者の関係をやっと知ることができました

「魔王は、あなた方が女神によって召喚される一年ほど前に、急激に勢力を伸ばし始めました。」


 カナデとユーリは、女王との話を終えて、いったん、城の中の今夜泊まる部屋に戻っていた。部屋割りは、カナデとソフィア、イザベラとエミリア、シーラとルー、そしてユーリという分け方だった。


 その後、一息ついて、最初に老人が案内してくれた控えの間に集合ということになった。カナデとユーリが到着すると、すでにイザベラやエミリア、ソフィア、シーラにルー、今回の魔王討伐に選抜されたメンバーの他に、道中で仲間になった女性陣が集合していた。


「遅かったですね。ユーリ様が来る前に、陛下の部下に魔王や、魔王討伐に際しての説明を聞いてしまいました。」


「そんなに遅くまで何をしていたのですか。もしや、陛下にも手を出そうとしていたのでは。」


「待ちくたびれて、わたしたちだけで旅立とうかと思ったぐらい。」


 ユーリがやってくると同時に女性陣が待ちわびたとばかりにユーリに群がる。カナデはぞっとした。これが、世にいうハーレム状態というものだと実感した。これは、早急に魔王を討伐して、この世界の女性に意識改革を行う必要がある。



「はいはい。そこまでにしてねえ。くそお、いや、ユーリもあなたたちが一気に話しかけるから戸惑っているでしょう。一度落ち着きなさい。」


 このままでは、話が進まないと判断したカナデは、強引にユーリと女性陣の間に割って入る。カナデの登場に、女性陣は不満をあらわにするも、おとなしく引き下がる。



「そうそう、聞き分けの良い子は私は好きよ。それで、面倒だけど、私たちにも、魔王や魔王討伐のことについて、説明してくれるかな。二度手間で迷惑をかけるとは思うけど。」


「構いません。それが今回の私のここに来た役割です。」


 背後にひっそりと控えていた彼が、説明してくれるのだろう。怒る様子もなく、もう一度説明してくれるようだ。


「ありがとう、では、お願いします。」



「ええと、その前に、シーラとルーは人間ではないみたいだけど、大丈夫なの。」


「何を言っているのかわかりかねます。」


 カナデはそういえばと、彼女たちが人間ではないことを思い出す。人間でない種族もいるこの異世界。彼らは彼らのコミュニティーを作っているのではないか。異世界物ではそのような設定になっていることが多い。まあ、種族が違えば、国も違うのは当たり前だ。人間でも人種によって違うのだから、当然だろう。



「問題ない。そもそも、人間とそれ以外の種族はすでに何百年も前から協定を結んでいる。いまさら、気にすることじゃない。」


 シーラもルーもこの国のトップが人間でも気にしていない。それなら問題はないと、カナデは深く考えるのをやめた。



「よろしいですか。では、お二人のために、もう一度説明をいたします。」



 ユーリにカナデ、その他の女性陣は、応接間の机の周りに集まった。魔王についての情報が開示されていく。


「魔王は、完全に滅ぼすことはできないとされています。滅ぼしても、百年に一度で新たなる魔王が出てきます。なぜかはわかりませんが、それに応じて、あなたたちのような勇者や聖女がこの世界にやってくる。勇者や聖女様がどんなに力を尽くして、魔王側の敵を完全に滅ぼしても、必ず、百年たつと復活している。それに対応するように、魔王復活から一年後くらいにこちらも必ず、魔王討伐するために勇者と聖女が呼ばれています。」



「うわああ、マジでよくある展開だわ。」


「マジか。百年に一回か。オレは運がよかったということだ。」


 異世界から呼ばれた当事者二人は、思い思いの感想を口にする。他のメンバーは驚いていた。


「それで、今回オレ達が魔王を倒したとしても、百年後にまた新たなる魔王が復活するというわけか。それで、魔王を倒した勇者たちはどうしているんだ。」


 ユーリがもっともな疑問を口にする。魔王を倒したら、自分たちがどうなるのかを知るためには聞いておかなくてはならない。カナデも息をのんで、質問の答えを待った。



「勇者として魔王討伐を果たした異世界の住人は、そのまま異世界から元の世界に戻ることになっています。この世界に残りたい勇者が多いようですが、例外なく戻されているようです。」


 ユーリの疑問に男は素直に回答する。それに気をよくするカナデだが、もしそれが本当ならば、自分も魔王討伐後に元の世界に戻されてしまうことに気が付いた。


「そこのくそうゆう、いやユーリが魔王討伐後に任務を達成して元の世界に戻るのは大いに結構だが、私は困る。私には、この世界でやらなければならないことがある。」


「お、おれだって、魔王討伐して、そこでほい、さいなら、なんでゴメンだ。もといた世界に戻されるのは困る。それに、オレはすでにもといた世界では死んだことになっているはずだ。」



「そ、そんなことを言われても困ります。この世界では、そういう風になっているのですから、私に言われてもどうしようもありません。」


 もといた世界に戻される。それをされては困るのは二人とも同じのようだ。しかし、困るのは、二人だけではなかったようだ。



「いやですう。勇者様がいなくなったら、私をもらってくれる人がいなくなります。こんな傷物をもらってくれると言ってくれたのは、勇者様だけですう。」


「勇者様に一生ついていくと決めた我が身です。もし、元いた世界に戻られるというならば、私も一緒に参ります。」


「勇者がいないとさびしくてしんじゃう。」


「私もユーリ様が戻られるのは反対です。」


「……。」



 女性陣が口々に勇者を引き留める。ただし、まだ魔王討伐すら始まっていない。ただ、メンバーが集まっただけである。それなのに、もうすでにもといた世界に戻る戻らないの話に発展してしまった。ただし、その会話の中で、ソフィアだけは無言を貫いていた。



「いや、マジでドン引き。一番キモいのは、お前だくそ男。顔が緩み切って、ただでさえ、キモオタな顔してて、キモい。」


「そうかあ。でも、まだ魔王を討伐さえしていない。魔王を討伐したら、オレがこの世界に残れるように女神さまに交渉してみるよ。」


 もといた世界に帰らないでコールにユーリは顔をゆるませ、にやにや笑っている。


 カナデはごみを見つめるような目でユーリをけなすが、ユーリにその言葉は届いていない。そもそも、カナデの言葉が耳に入っている様子がなかった。彼の耳は、女性陣のきもい発言だけを拾っていた。


「こほん。」


 なにやら妙な雰囲気がひろがる中で、こほんと男が咳ばらいをする。その声に我に返る一同。


「ええと、その話は魔王討伐が終わってからでもできますので、別れはその時にでも話していただければ。それで、此度の魔王の特徴ですが。」



 やっと本題の魔王の情報についての説明が始まった。


「そもそも、魔王は魔族の中の王であることは明白ですが、その選出方法は我々にはわかっていません。ただ、魔王になったものには、身体のどこかに魔王の証である、紋章が刻み込まれています。今まで倒してきた歴代魔王たちは、皆、勇者たちが現れる一年ほど前に突如姿を現し、我々に宣戦布告を行います。それから、我々「ジャポン」に侵略を始めます。そこに勇者が現れるわけです。」


「それで、戦うというわけか。」


「はい、しかし、これは今までの魔王復活の流れです。今回は様子が違うようです。」


「何が違うの。」


 ユーリとカナデが男に話を促す。男もそれにこたえて説明をしていく。周りの女性は一度説明を聞いたにも関わらず、静かに再度説明に耳を傾けていた。



「ええ、今回の魔王として選出されたものは、どうやらやる気がないみたいなのです。すでに魔王が復活して一年が経過していますが、我々のもとに侵略してきたという情報が入っていないのです。確かに魔王が復活したという情報はあり、実際に魔王にあった人もいるそうです。女神からのお告げもあり、復活は確実なのでが……。」


 言葉を濁し、申し訳なさそうにする男にユーリは言葉を放つ。


「それならそれでいいんじゃね。今回の魔王は弱いってことだ。それより、魔王を倒した後、どうやってこの世界に戻るかを考える必要がある。」


「それ、弱いなら問題ない。今回ばかりは、くそ男に賛成。どうやって、この世界に居続けるか考える必要がある。」



 姿を現さないとは、よほど弱気な魔王なのだろう。それなら、居場所を聞いて、すぐにでも倒してしまうまでのこと。カナデもユーリも大して気にすることはなかった。



「それで、魔王の名前ですが、今回の魔王の名は……。」


 男が放った衝撃的な名前を聞くまでは。




「『八王子皇子 (はちおうじおうじ)』だそうです。」


 魔王の名前を聞いた二人は首をかしげる。名前と言ったら、もっと魔王らしい名前ではないだろうか。サタンとか、デビルとかいろいろ候補は挙げられる。


「いやいや、もしかして、いや、それだったら……。」


「ないない。ああ、いや、それでも、ないわああ。」


 二人は混乱していた。なんだかんだと、オタクだった二人は、この名前がどのようなことを意味するのか、考えるのを放棄した。どうして、魔王なのに、もといた世界の名前にそっくりなのか。魔王も百年に一度突然やってくるということは、もしかしたら。



「では、すぐにでも出発をお願いします。旅の用意もありますので、一週間後には出発していただきたいと思います。」



二人の困惑をよそに、男は無情にも旅の日程を告げた。

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