14この世界の女性の常識を知ることができました

「お主は、どちらじゃ。」


 どこかで同じ質問を聞いたことがあるような気がした。カナデはどう答えようか考える。それを迷っていると判断したのだろうか。


「別にわれはどちらでも構わん。最近はそういうものも増えていると聞いているしな。ただ、どちらなのかと気になっただけだ。」


「どちらかと言われても、それは何を聞いているのですか。それがわからないと答えようがないのですが。」



 一瞬、ボカンとした顔をする女王。しかし、さすが女王、そんな顔も美しかった。すぐに質問の意味を理解して当たり前のように答える。


「そんなの決まっておろう。男か女かということだ。」


「はあ。」


 カナデも同じようにぽかんとしてしまった。とはいえ、質問の意味がわかったので、正直に答えることにした。



「女です。これでも、性別上はれっきとした女です。」


「本当だ。これは偽物ではないな。確かに本物だ。」


 これまた依然どこかで見たような行動をとる女王にカナデは苦笑した。女王はいつの間にか玉座から降りて、カナデの目の前に接近していた。女王の手が興味深そうにカナデの胸を無遠慮にもんでいた。この世界ではそんなに自分の容姿は珍しいのか考えてみる。


「ええと、私が女だとおわかりいただけたと思いますが。実は、陛下以外にも私の性別を疑問に思うものがおりまして、できればその理由をお聞かせ願えませんか。」


 なんとなく、自分が性別不明に見える理由はわかるのだが、それでも相手からきちんとした理由を聞くまでは、あくまで推測でしかない。せっかく二人きりになったので、思い切って聞いてみることにした。


 女王はひとしきり、カナデの胸をもみ終わると、満足したのか、話を続けた。



「われが迷ったのにはきちんと理由がある。まずは、容姿だな。この世界ではほとんど見かけないほどの髪の短さ。この世界の女性は長髪が多い。髪が短いのは男性だ。どこかの本で、異世界では髪の短い女性もいると書かれているのを見たことがあるが……。」



「髪の長さでいえば、確かに男ですね。私……。」


 異世界転移・転生以外でも、創作では、男性も長髪のキャラが意外と出てくる。短いとなると、もはや、僧侶や筋肉ムキムキの騎士とかそういうレベルの人間しかいない気がする。そうなると、わからなくなるのだろうか。


 それを鑑みると、僧侶でもないし、筋肉ムキムキの騎士でもない自分が、髪が短いのは、異端なのだとわかる。




「ああ、あのくそ勇者も髪が長かったな。」


 一緒にこの世界に呼ばれた根暗勇者を思い出す。後ろの髪の長さも、もといた世界では長めで、襟足くらいの長さだった。前髪は目が隠れるくらいの長さで、うっとうしさ全開だった。


「もう一つは、服装だな。その長ズボンとやらを履いているのは、この世界では男性だけだ。女性は長ズボンを履くことはない。だから、お主が長ズボンらしきものを履いているので、迷ってしまった。あとは、露出度だな。そのようなシャツを着ている女性もいるが、胸のボタンは、女性はもっと開けておる。そんなにボタンの一番上まで留めるものはいない。」


 次々に理由を挙げていく女王の話は、興味深く、カナデは素直に最後まで聞くことにした。


「髪型や服装は男性だが、なんとなく違う気がした。声も男性よりも高い気がするが、最近の若者の声を考えれば、男性ととらえても支障はない高さだ。確かめるとしたら、あそこを触ってみるほかなかったというわけだ。」


 話を聞いているうちにカナデはふと違和感を覚えた。女王はしきりに自分の容姿、服装がこの世界の女性と異なっていると主張していた。異なっているのは当たり前だ。そもそも、カナデはこの世界の住人ではないのだ。それなのに、ものすごい勢いで違う部分を強調している。


 もしかしてと、カナデは一つの可能性を思いつく。もしそうならば、それは、カナデにとっては仲間が増えることであり、うれしいことだ。



「理由はわかりました。まだわからない点があるのですが、質問を続けてもよろしいでしょうか。」


「別に構わん。今はわれとお主のふたりきりじゃ。遠慮せずに質問するがいい。」


 許可をもらったので、さっそくカナデは核心を突く質問を女王に投げかけた。




「女王様は、この世界の女性の在り方に不満でもあるのでしょうか。」


 常々、異世界転移・転生物を読んでいて思っていたのだ。裸に近いような露出した服装、モテる要素皆無の、異世界から来た主人公を好きになる呪い。不満を持つ女性が出てきたもおかしくはない。男女の髪型や服装の特徴をしっかりととらえて説明するこの女王も、不満に思っているのではないだろうか。


 ちらと女王の顔をうかがうと、図星なのだろうか。顔を真っ赤にして否定した。


「な、なにをバカなことを言っておる。確かに女性は、男性より露出度が高い服装があるかもしれん。異世界から来る男性がどんな男でもイケメンに見えてしまうこともある。しかし、それが何だというんだ。」


 興奮して、自分の思いを洗いざらい吐き出した女王はやはり、カナデが考えていた通りのようだ。この世界の女性の在り方に不満を持っている。同志である。女王とは仲良くなれそうだと思ったカナデだった。




「ああ、私は女性に生まれてきてよかったことなど一度も思ったことがない。幼いころは、服装のせいで、体調が悪くなることが多かった。冬でも肩だし、生足だぞ。当たり前だ。男性はかっちりと着こんでいるのに、これは拷問かと思っていたよ。それに髪型。長いと手入れも面倒だし、夏は一つにくくりたいのにそれはダメだと周りに言われる。前髪も目に入ってチクチクするのに、切ってはいけないと叱られる。」


 どんどん、この世界の不満をぶちまけていく。


「異世界から来た男性は、初めは気持ち悪くて、生理的に受け付けないのに、時間がたつと、何かに突き動かされるように好きになれと頭の中で私ではない誰かがささやきだす。それがたまらなく嫌だった。お主にこの気持ちがわかるか。」


 カナデはとっさに女王を抱きしめた。辛い思いをしてきた女性もいたのだ。この世界に来た意味をカナデは理解した。


「わかります。読者の私でさえ、異世界転移・転生物の女性が可哀想だと思っていたのです。第三者がそうだというのなら、当事者の怒りはもっとだと思います。」



 ここで、カナデは大きく息を吸う。


「だからこそ、私がこの世界に来たのです。一緒にこの世界の常識を壊しましょう、」


 突然のカナデの発言に女王はぽかんとしていた。

 

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