4既視感あふれる話を聞きました

「さて、外は人が多くて、話ができなかったが、ここならいいだろう。」


「そう。ここなら誰も来ない。あなたはいったい何者。」



 部屋に着くなり、二人の雰囲気は一変する。警戒するような鋭い目つきでにらまれたカナデは深いため息をつく。彼女たちの視線にひどく傷ついた。とはいえ、警戒されるのは当たり前で、カナデは自分の名前を名乗ってはいたものの、それ以上の情報を彼女たちに与えていなかった。しかし、それは二人にとっても同じことであり、カナデも、イザベラとエミリアという名前しか聞いていなかった。聞いていないにも関わらず、カナデには、二人のことが手に取るように予想できた。


「イザベラさんが女性騎士かまたは、剣士。エミリアさんは魔法使いか、教会関係者ですか。そして、おそらくあなたたち二人は、今回の魔王討伐に参加するメンバーですかね。」


 つい、出来心でカナデは二人の職業を口にする。疑問形で口にはしているが、外れているという思いはなかった。それは、今までの異世界転生物による知識がそうさせていた。


「な、なぜそれを。」


「この情報は機密事項だったはずじゃなかったかな。」


 どうやらカナデは正解を言い当てたようだ。二人の視線がさらに険しいものになるが、カナデは苦笑するだけにとどめた。誰だって見ず知らずに人に自分の素性を言い当てられていい気分がする者ではない。よほどの有名人をのぞいて。



「そんなに警戒しないでくれますか。私はあなたたちのように武器も魔法も使えないただの凡人です。お互いに名前は伝えていましたが、詳しい自己紹介がまだでしたね。」


 カナデは、息を大きくすい、改めて自分の素性の説明を始めた。


「カナデと申します。信じてはもらえないでしょうが、女神さまの計らいにより、この世界に魔王を討伐するために呼ばれました。」


 これ以上にないという簡潔な自己紹介を終えて、二人の表情をうかがう。大抵、異世界から来たと説明して、一度で信じてもらえることはほとんどないのが、異世界転生物の話の流れである。そうでなくても、大抵の人間、常識人ならこの発言を聞いて、信用することはない。むしろ、発言した人物の頭を疑うことだろう。ここでの二人の反応もそうであろうと予測していたカナデは、驚きを隠せないでいた。



「それは本当ですか。」


「それが本当ならすぐに教会に連絡を入れないと。」


 話に食いついてくるパターンだった。そういえばと、カナデは思い出す。話が進みやすいように物分かりのいい人物がいることもあったのだった。


信じてくれるなら、それに越したことはない。事実、カナデはこの世界の住人ではなく、女神に転生させられたのだから。


「信じてくださってありがたいです。早速ですけど、私はこの世界にきてまだ数日です。よろしければ、この世界のことを詳しく教えていただけませんか。」


カナデはこの世界の情報を細かく聞くことにした。




「服装や容姿からも、よそから来た人間だとは思っていましたが、本当に別の世界から来ていたとは。」


「まあ、それならそれで納得。」


カナデは、今いる街の名前や、都市、国の名前、自分たちの職業、魔王についてなど、詳しいことを知ることができた。



 カナデたち3人は、現在、宿の一室に集まっていた。宿に泊まるためには当然、宿泊費がいる。カナデはもちろん、この国のお金を持ち合わせてはいないので、二人に頼み込んで、一緒に泊めてもらうことになった。その一室で話は進められていく。



「まずはこの世界について説明していきましょう。私たちはこの世界を「イース」と呼んでいます。その中の「ジャポン」が今いる私たちの国の名前です。首都は……。人口、今いる場所は……。」


 イザベラが自分の荷物から地図を取り出して、説明を開始する。どこかで見たことがあるような地図、さらには、これまた既視感ありまくりの地名に、カナデはげんなりした表情を隠せない。


どこで聞いたか、見たのか気づいてしまうともう、叫ばずにはいられなかった。



「私のいた世界の名前とほぼ同じじゃーん。」


 いきなり叫び声をあげたカナデに二人は驚くとともに怪訝そうな顔をする。はっと自分の醜態に気付いて、ごほんと咳ばらいをしてごまかしてみる。


「すいません。叫ばずにはいられなくて。続けてください。」


「いきなり叫びだすから驚きましたが、話を続けましょう。最近、海の向こうから魔王が島国「ジャポン」に攻め込んでくるという話が出てきているのです。そこで、その魔王とやらが「ジャポン」に攻め込んできた瞬間を狙って、一気に討伐しようという計画が立てられています。」





「はあ。」


 あまりにもこの世界の地名に既視感が強すぎて、話の内容が頭に入ってこないが、それでも、話をきいておく必要がある。情報は集めておいて損はない。


「魔王の討伐部隊として、女神に選ばれし4人のメンバーが今、首都に向かっているという情報が入っています。」


「教会側がリーダーである「勇者」とその他のメンバー。「剣士」「魔法使い」「聖女」の4人のメンバーで魔王討伐を命じられたのです。そして、そのメンバーのうち、二人が私たちということになっています。」



 あらかたの説明を聞いたカナデはまたもや深いため息をつく。魔王討伐はこの際仕方がないとして、この国の名前が意味不明だった。なぜ、自分の以前生活していた世界「地球」のもじりが多いのか。考えても仕方のないことなので、その疑問は後にして、大事なことを質問する。


「それで、説明を聞いて大体のことは理解しました。あなた方二人はその魔王討伐のメンバーに選ばれているということですよね。では、残りの「勇者」もすでにこの世界から選ばれているのでしょうか。」


 そう、疑問だったのは勇者が誰だったかということだ。女神によると、勇者も召喚したと言っていた。ただし、まだあっていないということは、どこにいるのか探す必要がある。



「それは、まだわからない。魔法使いと剣士として私たちは教会に呼ばれている。そこで合流することができる。誰かということを今、悩んでいても仕方がない。」



 確かにここでうだうだ悩んでいてもらちが明かない。すべては教会についてからだ。カナデは考えるのをあきらめた。考えたところで、そもそも、今まで生きてきた日本での常識がこの世界で通用するのかわからない。それに、すでにいろいろあって疲労がピークに達している。肉体的にも精神的にも限界だ。



「すべては教会についてからですね。わかりました。今日はもう、休むことにします。また、明日よろしくお願いします。」



 部屋は二人用だったので、よそ者のカナデは床で眠ることにした。さすがにそんなことはできないと二人は言ったのだが、すでに眠気が勝っていたカナデは床に毛布を借りて、そのまま寝てしまった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る