獣耳娘☆クライシス!

グランロウ

第0話 真夜中の森の中で

 木の葉が夜風に舞う。

 白銀の閃光が走り抜け、はらりと舞い落ちた。


 二つの剣が激しくぶつかり合い、その衝撃音が夜の森に響き渡る。


 木々が鬱蒼うっそうと生い茂る森の中、オレに相対するのは獣耳けもみみを持つ女。


 オレが憧れていた、夢にまで見た、初めて出会った、本物の獣耳娘けもみみっこ

 それが今、目の前にいる。


 敵として。


 その眼は鋭くオレを睨みつけてくる。

 とても友好的には見えない。


 彼女の剣が一旦引く。だがすぐに強い踏み込みと共に、さらに鋭く薙ぎ払われ、オレに襲い掛かる。その剣先はオレを捉えること無く鼻先をかすめていく。


 ――見えるっ!


 スピード強化の魔法を受けている今のオレなら、彼女の攻撃はちゃんと見える。


 攻撃だけじゃない。

 彼女の黒く短い髪も、黒と茶の混じった獣耳けもみみも、そして長い尻尾さえも。


 彼女の剣が真上から鋭く振り下ろされる。

 軽く頭を下げながら、オレは自分の剣で彼女の斬撃をさばいた。


 ――大丈夫だ。避けられる!


 彼女の鋭い攻撃にも、素早い動きにも、ちゃんとついていけている。


 何度も何度も絶え間なく斬りかかって来る彼女の剣。

 時には体ごとかわして避け、時には自分の剣で捌いて避ける。


 だけど……


 次の瞬間、右下から何かが迫って来ることに気付き、咄嗟に体をのけ反らせる。

 目の前をかすめるように通り過ぎるのは、彼女の左手の先に光る鋭い爪。


 背筋がヒヤリとする。


 気付くのがもう少しでも遅れていたら、オレの顔は引き裂かれていたかもしれない。


 攻撃は見えるし、避けられる……ハズなのに!


 彼女の剣が縦横無尽に襲い掛かって来る。

 それを捌くことで、もうオレは手一杯だ。


 ――くっ! 攻撃ができない!


 段々と押されていくのが自分でも分かる。

 こちらから攻撃を出す余裕なんて無くなってしまっている。

 それどころか、徐々に徐々に、完全には避けきれない攻撃が増えてくる。

 腕や脚、脇腹などを彼女の剣や爪がかすめていく。


 ――強い!


 身体強化の魔法だって受けている。

 だからパワーだって彼女に負けていない。


 ――なのに!


 気ばかり焦る。


 早く何とかしなくてはいけないのに!

 早く村に戻らなくてはいけないのに!

 こんなところで時間を取られるわけにはいかないのに!


 オレは、彼女を強く睨み付けた。


 この世界に来て、初めて出会った憧れの獣耳娘と、なんでこんなガチで戦闘に……



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