學問 第四章

 最後のあさがきた。

 窓外はさんらんたる天気である。

 はんぶんじよくれいの作業のためにろうこんぱいしていたふたりは予定より遅延して覚醒した。〈そのとき〉はおよそ正午零時前後とこうかくされる。おそくはない。しゆんぷうたいとうあさらい準備を遂行すると威風堂堂としてとんざんしていった。祖父が片腕で抱擁した遺影ともう片腕でていせいしたかいなる紙袋および祖母が両手に掌握したけばけばしい紙袋がおもな荷物だ。ふたりが退室の手続きをするとロビーの職員はかんとしていちゆうしながらないへんに電話をかけた様子だった。祖父はいう。〈時間がないようだね〉と。祖母はこたえる。〈ちよつ予定が狂っただけじゃない〉と。りふたりが目的地へとまいしんすると背後からくだんの職員がついしようしてくる気配がある。ふたりは故意に道程をひようへんさせじぐざぐとかいわいしようようかつしながら正午前にかすみせきコモンゲートにほうちやくした。ゆうすいたる歩道に鎮座すると祖父は紙袋をおうさせて延長コード用の押しぼたんと照明器具用のトグルスイッチを露呈させる。祖母は昨晩制作したプラモデルや玩おもちや類をかいわいしつさせてから道路側に遺影をかかげた。路傍ではくだんの職員が電話している。

 時宜は到来した。

 大臣専用しやりようであるレクサスLS600h に搭乗して文部科学大臣がかすみせきコモンゲートへとばくしんしてくる。形骸化した午前中の科学技術けいもうセミナーに出席したのちばんきんの学歴差別発言にかんれんする記者会見のために文部科学省にむかっているのだ。漆黒の車内ではいぶしぎんほうはつたる運転手に愚痴をこぼしている。いわく〈つまらんセミナーじゃないか技術的特異点だの万物理論だの窮極集合だのあの聴衆の脳髄のレベルじゃ理解できんだろうわたしはわかるがね低学歴のノータリンどもにはあのおとうとさんのようにアニメでもみせておけばいいんだ洗脳できるしな〉と。老齢の運転手はきつきゆうじよとしてあいづちをうつ。〈午後からはまた学歴差別発言について記者会見じゃないかわたしは陳謝などしないよわたしは間違ってなんか――〉大臣はかすみせきコモンゲートのかいわいで電話をしている不審者を発見した。疑心暗鬼を生じて路傍をはるかすと不審者のさきにまたふたり不審者がいる。遺影をかかげた老婆と延長コードを掌握したろうである。〈とめろ〉と大臣が絶叫をすると〈え〉とすつとんきように運転手はこたえる。

 すべてはおわった。

 さんがんたるかすみせきコモンゲート入口かいわいにて鎮座していたろうはレクサスをべつけんすると延長コードのぼたんをおして安全装置を解除した。漆黒のレクサスが前方にばくしんするに照明用のトグルスイッチをひねって起爆する。信管が反応すると起爆剤に着火され起爆剤の爆発の衝撃で本体が爆発する。せんめいたる爆発物である硝酸尿素がほうされた外殻が爆発すると外殻にいんめつしておいた大量の〈くぎ〉が四方八方にこうしようしてゆく。爆発した硝酸尿素は刹那にかいわいの祖父母のにくたいそうはくえんかいじんに帰せしめしつさせておいた玩おもちや類をしようしつくした。同時に強化がらしんとうせしめる爆音をめかせ透明無色の爆風をきゆう窿りゆう型の波紋状にぶつけてゆく。ないに大量のはくいろえんが衝撃波とともに波紋状にひろがってゆき黒褐色の煙霧をしようりつせしめる。充分なる硝酸尿素は確保できなかったが攻撃用の〈くぎ〉の衝撃は甚大だったようだ。肝心要のレクサスは外殻が巨億の〈くぎ〉の衝撃で襤ぼろぼろにされ窓がらこつぱいにされた。衝撃波とえんの衝突が内部までふきとばしたことによりしやりようが片方の車輪を枢軸に転覆される。

 わたしはせきをおこした。

 さんらんたる正午前の事件に報道各局は造次てんぱいもなく中継をはつじんした。正午零時のニュース番組のために報道陣がかすみせきコモンゲートまえの事件現場にさんそうしてくる。いわく〈今日午前十一時五十一分頃文部科学省の設置されているかすみせきコモンゲートまえにて爆発がおきました 爆発発生時に道路を走行していた斉藤文部科学相の専用しやりようが爆発にまきこまれててんとうしたようです 文部科学相の安否は不明ですが御覧のとおりしやりようはいまだ炎上しており内部にとじこめられているという情報もあります 消防警察そうほうにより事故処理と現場検証がおこなわれておりますが爆弾には大量の〈くぎ〉がふくまれていたらしく大臣専用しやりようも原型をとどめておりません じようの状況からきゆうきよ記者会見した事務次官は確信犯的過激派のテロではないかという見解をしめしております――〉じんかいめつした霞ヶ関コモンゲートまえにて現場検証がつづくなかひとりの鑑識がなにがしかを発見する。〈なんだこりゃ〉といって凝視するとひびれた外殻のなかのしやしんだった。

 少年がわらっている。

 両隣でろうと老婆がわらっていた。

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