六.ムセンと通貨



「美味い」

「本当ですねっ、初めて食べましたっ」


 俺達は店でサンドイッチを頬張っていた。

 ふぅ……満腹になり落ち着いた。とりあえずこれからの事をどうするか考えようか。


「あんたはどうするんだ? パイロットさん」

「ふぇ? パイロットさんって誰ですか?」

「あんた以外今ここに人はいない」

「わ、私の事ですか!? 私パイロットさんじゃありません! 【ムセン】です! あ! そういえば名乗っていませんでした………ごめんなさい……私の名は【ムセン・アイコム】です。宜しくお願いします」


 アイコムの無線? 俺の使っている無線と同じだ、警備員に無線は必要だし。うん、すごくどうでもいいな。


「すごくどうでもいい」

「ぇえっ!? そんなっ!?」


 また考えてる事を声に出してしまった。


「私は………どうすればいいのかわかりません……できれば………元いた世界に帰りたいです……」

「色々な惑星を旅する仕事とか言ってたけど一人でか?」

「いえ、大きな宇宙船で何人かのチームで動く事が多かったです。私はその中で怪我や病気の治療をしたり薬を配合したりチームの食事の栄養を管理する仕事をしていました。それで未開の惑星を探査したり……他の星の資源調査したりするんです」


 凄いな、地球より遥かに文明の進んでる世界だ。


「だったらこの世界に驚く事はないだろう。色々な星に行ってたんだろうし」

「いえ、他文明を発見したのは初めてなんです……私の星から行ける範囲の惑星には生命の存在すらありませんでしたから……」

「なるほどな」


 宇宙航海、夢のある話だ。


「だったら仲間に迎えに来てもらったらどうだ? 連絡手段くらいあるだろ?」

「………それが……連絡が取れないんです……試してはいるのですが……緊急用通信機が通じないのは初めてです……何かあったのかも……」


 そうか、ムセンも死んでこの世界に喚ばれたんだから仲間達も何かしらの危機にあっているのかもしれないな。それかこの世界がすごく遠い場所にあるか。そもそもこういう異世界転生とやらの世界って宇宙のどっかにあるもんなのか?


「最期の記憶はないのか?」

「………航海中に何かの光に包まれたのは微かに覚えています……そして気がついたらこの世界に……」


 たぶん宇宙船が事故にでもあったんだろう。そしてムセンだけがこの世界に喚ばれたと。


「でもっ! 信じません! 皆……きっと生きてますっ! きっと何かあって私も……この世界に飛ばされただけです!」


 どっちだろうと同じ事だ。結局の所、これからどうしたいのかに帰結する。


「……どうにかして……仲間に連絡をとります、そしてこの星が何処の銀河にある星か調べて……元の星に帰ります」

「そうか、頑張れよ。じゃあ店主さん会計で」

「はーい毎度」

「ぇえっ!? ちょっと待って下さいぃ! イシハラさん!」

「どうした?」

「ぁ……あの、えっと……い、一緒に……いてもらえませんか……?」

「何で?」

「ひ……一人じゃどうしたらいいのかわからなくて……」

「成るようにしか成らない。お姉さん、これしかないんだけどここの通貨単位教えてもらえないか?」

「えっ! あらやだよお姉さんだなんて! そういえば変わった格好してるけどあんた達異界の人かい?」

「ええ」

「そうかい、大変だねぇ。うちの『パンズ』も異界の人がこの世界に持ち込んだレシピを参考にしてるんだ、立地が悪いせいか不況なんだけどねぇ……でも異界から来た人は皆うちに来て『パンズ』を食べていくんだよ」


 きっとどの世界にも似たような料理があるんだろう。オフクロソウルフードだもんなサンドイッチ。


「それで通貨だったね、銅貨、銀貨、金貨。大体はこの三つだよ。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚さ。それ以下と以上の通貨もあるけど使わないしあまり出回ってないね。この国では銅貨一枚で【100ベルーフ】って呼んでるよ」


 ふむ、なるほど。

 【ベルーフ】とかいうこの先当分出てこなさそうな超わかりにくい呼び名の貨幣単位を安易に日本円に当てはめるのは危険だな。

 この世界の貨幣価値がまだわからない。大体こういう世界は領主とか商工会がその街の価格相場を決めるんだっけ?

 もしかしたらこの街だけの価格かもしれないし。一回地球の通貨の事は忘れよう、この世界の通貨価値を一から勉強しなければなるまい、すげぇめんどい。


 まずは街で相場を調べてみようか、これから仕事したり買い物するにあたって「異界人だから」なんて理由で足下見られたり詐欺られたんじゃ困るからな。


 手持ちはこれで銅貨3枚と銀貨1枚、つまりは10300ベルーフ。

 夕飯はどっかで調達、宿は野宿。自然があれだけあるんだから寝る場所や食える草くらいあるだろ。夜勤が早めに終わって終電が無いから冬の公園で寝て時間潰しなんて警備員にはザラにある、帰るの面倒だからそのままもう一泊なんて事も。


 うむ、余裕でいけるな。そうしまっしょい。


「ありがとうお姉さん、ご馳走さま」

「あぁ、また来とくれよ」

「ぅえええん! 無視しないでください待ってくださいイシハラさぁんっ!!」










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