【コラボ掌編小説】続きスワップ byいよ

いよ

ダイヴァー Ep.1

目が覚めた


「………………」


(なんだ。ここ…)


見慣れない景色にあたりを見回した。

水の中だ。

水の中…?


「!?!?!!??」


慌てて水を飲んでしまった。

口からこぼれた気泡が昇っていく。


そこで気付いた。

苦しくないのだ。

それどころか呼吸ができる。

空気中にいるように息を吸える。

空気はないのに。

吐く行きは気泡になって昇っていく。

その空気はどこから来たのだろうか。


(なんだ?どうなっているんだ?)


何が起きているかはわからないが、やけに思考回路がはっきりしている自分に少し戸惑いながら、僕はひとまず上を目指した。


重力は感じる。

僕は両腕で水をかいた。


重みと引き換えに体は上に昇っていく。

ひとかき、またひとかき。

水面を目指す。地上を目指す。


30分程だっただろうか。

まだ水面にはたどり着かない。

そしてもう、腕は動かない。


僕は水をかくのを止めた。


「………………」


(あれ…?)


体は少しずつ浮き上がって、昇っている。


ゆっくりゆっくり昇っている。

不思議な感覚だった。


僕はその感覚に身を任せ、水面を目指した。


ふと、辺りを見渡す。

そういえば僕と水以外には何もない、

岩も、魚も。他の生き物も。


光はあった。

月光のような明かりが僕の吐く気泡に弾けている。


そういえば、眠る前は何をしていただろうか。


確か…デートで海水浴に行って。帰りの電車にゆられながら、そこで眠ったような。


「………………」


(デート…?誰と?)


閃きを脳の隅から隅まで走らせるが、思い出せない。


(まぁ、いいか。)


今、何が起きてるのかすらわからないのにそんなことを考えるのは馬鹿らしく感じた。


「…………………」


どれくらいだっただろうか。


僕が吐く気泡の音が不意に濁った。


(あっ…)


水面だ。


「ぷはっ…」


とりあいず呼吸はできた。


「どうなってんだ…」


久しぶりに自分の声を聞いた気がした。


あたりを見渡すが陸地は見えないが

50メートルほど先の水面にピンク色のなにかが見えた。


僕はそれに向かって泳ぎだした。


「うきわ…か、やけにしっかりしてるな。」


それはピンクと白で交互に塗られた少し大きめの浮き輪だった。

僕はそれにつかまった。


「なんか、落ち着くな…」


なぜかほっとしている僕がいた。

そのまましばらく何も考えず、浮き輪を抱いたまま星空を見上げていた。


やけに空が近い気がした。


月も大きいような…



その時だった、突然遠くの水面が盛り上がった。

まるで山でも生えてくるかのように。


その中からおおきなクジラが姿を表した。


ただのクジラではないことはひと目でわかった。

真っ白でとてつもなく大きい。


クジラはその巨体を半分水面に出したまま僕に近づいてきた。


逃げようと思ったが体は金縛りを受けたようにうごかない。

クジラは僕の隣まで来て動きを止めた。


その目は確かに僕を見ている。

背中に乗れ。

と言われた気がした。

僕は浮き輪を持ったままクジラの背中によじ登った。



次の瞬間。


クジラはそらを飛んだ。

地球が丸く見えるほど。


しかし、僕の目に写ったのは青一色の球体だった。

まるで水の惑星だ。


いや、そもそもあれは地球なのだろうか。


クジラは大きく鳴いた。


惑星が震えた。

星が落ちてきた。


そして星とともにクジラも落ちていった。


一直線に。


水面が迫ってきた。

それでも勢いは止まらない。


水中を一直線に落ちていく。



ただひたすらに落ちていく。


水中を抜けた。









気がつくと、僕は電車に揺られていた。


隣で君が眠っている。

僕は空気が入ったままの浮き輪を抱えていた。


周りの客が迷惑そうに僕たちを見ていた。


(なんだったんだろ、あれ。)


僕は慌てて浮き輪をしぼめた、ピンクと白が交互に塗られた、少し大きめの浮き輪を。


その音で君が目を冷ました。


「あ、おはよ。」


「ん〜…あっ!お、おはよ。」


君は少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。

そしてふいに


「白いクジラがいたの。」


と言った。

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