犯人を見た俺は、その正体が信じられないのでした

「ど……どうして」

わたしに会いたいんだよね?」


 照明に照らされたこの場所は恐らく花ちゃんの部屋だ。


 動物の縫いぐるみや可愛らしい小物が部屋を

 他にも様々な家具があって部屋が賑わっている。


 ――しかしその全てが怖いくらいに真っ白だった。


 この部屋にある者全てが純白だ。

 他の色は存在していない。

 その色以外認めないと、言いたげな部屋になっていた。


 とても不気味に感じた。


 そんな白い空間の中心に固定された俺は、目の前の状況を理解出来なかった。


 真っ白なワンピースをを着た花ちゃんは、満面の笑みで俺を見てくる。


 会いたいと言われて嬉しかったのか、花ちゃんは普段より上機嫌に見えた。


「ねえ藤麻君、私の事が心配だったんだよね。それって私の事を気にしていたって事だよね。更に言えばそれって私を意識しているって事だよね。要するに私の事が好きって事だよね?」


 高揚している花ちゃんはすらすらと言葉を紡いでいく。

 その姿は何処と無くマリーに似ていた。


 ――それがとても恐ろしかった。


「ほ、本当に花ちゃんなのか……?」

「藤麻君、私の顔忘れちゃった?」


 見間違えるものか。

 初めて俺に告白してくれた子だ。

 間違うはずがない。


 しかし今は全く違う人に映っている。


 口調が普段と百八十度違う。

 控えめで可愛らしい口調が、今は堂々と自身に溢れている様に感じる。


 纏っている雰囲気の質も違う。

 普段よりも圧力がある。


 まるで別の人格の様に思えた。


「も、目的は?」

「もちろん、藤麻君だよ」


 俺に熱い視線を向けてくる花ちゃんは酷く口元を歪めている。


「これからこの部屋を藤麻君色に染められると思うと――身体が疼いちゃうよ」

「俺色って……」


 その言葉に不安を掻き立てられる。

 何をされるのか分からない。


 心臓がこれまでにない程に激しく鼓動する。

 その激しさから身体中にその音が反響している。


 周りの音は一切聞こえなくなり、俺の脳は不安一色に染め上がる。

 身体が小刻みに震えて止まらない。


 そんな中、花ちゃんはいびつな笑顔のまま話を続けてきた。


「藤麻君って好きな色とかある?」

「い……色?」


 その質問に疑問を抱く。

 そのまま受け取っていいのか、それとも何か裏があるのか。


 恐らく裏はあるだろう。

 しかしそれを当てたところで、この状況で何か出来るわけではない。

 大人しく質問に答えるしか無かった。


「き……金かな」

「――へえ、そうなんだ」


 本当は好きな色とかは無い。

 だから唐突に思いついた色を花ちゃんに伝える。


 何故金色なのかは自分でも分からないが、不思議とその色に今は安心している自分がいた。


 俺の返答に笑顔だった花ちゃんが一瞬面白くない顔を見せた。

 しかしすぐに笑顔に戻る。


「流石マリーちゃんだね」

「ま、マリー?」

「ふふ、何でもないよ。それじゃあ模様替え始めよっか」


 すると何処からともなく、カッターを取り出した。

 その手捌きがマリーととてもよく似ていた。


 チチチと音を鳴らして刃を伸ばしてゆく。

 最大まで伸ばした所で花ちゃんは静止した。


「この真っ白で寂しい部屋を、私の大好きな『色』に染めようね?」


 純白のワンピースを身に纏い、白いカッターを持った花ちゃんは――真っ黒な瞳でそう告げた。






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