ハリウッドばりのアクションをした俺は、妹から再び逃亡したのでした

 夏休み初日。

 俺は見知らぬ地で迷子になっていた。


 知らぬ道に知らぬ建物。

 そんな中でとぼとぼ歩いている。

 こうなったのは朝にあったマリーとの逃亡劇からだった。



 ◇



「逃がさないよ、お兄ちゃん!」

「来るなああああああ!」


 打ち上げから帰宅して家に着いたマリーは、すぐ様俺にスタンガンを浴びせようとしてきた。


 ここで寝かされたらマズイと俺の第六感が知らせる。


 俺は玄関から逃亡した。

 しかしマリーが直ぐに追いついてくる。


「お兄ちゃん、戻ったら夏休みはマリーとずっと一緒だよ?」

「誰か助けてえええええええ!」


 必死に、全力で。

 前に走る。


 捕まれば今年の夏休みは監禁地獄。

 灰色どころか真っ黒な夏になってしまう。

 それだけは絶対に避けたい。


 走りながら逃げ場所を探す。

 路地裏で巻くか?

 だめだ、巻ける気がしない。


 何処かに隠れるか?

 それもだめだ、マリーの嗅覚からは逃れられない。

 それよりもあの嗅覚のせいで逃げ切る事が不可能だ。


 一か八か。

 賭けるしかない。


「うおおおおおおおお!」


 目に見えた歩道橋を一気に駆け上がる。

 太ももに乳酸が溜まって脚が悲鳴を上げている。


 しかしここで止まらない。

 ――止まれば最期だから。


 歩道橋の頂上に到着した俺は下を見る。

 下は幹線道路があり、大型から小型の車両が勢いよく走っている。


 狙うは大型トラック。

 その上に飛び乗ってさようなら。

 それが俺の作戦だ。


 背後からマリーがこちらに走ってきている。

 急いで乗れそうな車両を探すも、いい感じのものが無い。

 このままでは捕まってしまう。


 すると求めていた乗りやすそうなトラックが目に入ってきた。


「行くしか……無い!」

「!」


 アイキャンフライ。

 数秒の浮遊後、トラックの背中に着地した。


 勢いの行動で上手くいく保証は無かったが、無事に乗れた事に胸を撫で下ろす。


 歩道橋からどんどん離れ、マリーが小さく見える。

 あのマリーから目の前で逃亡に成功した。


「やった……やったぞ!」


 朝から疲労でいっぱいの身体を、トラックの上で広げる。

 空を見上げると、綺麗な青空が広がっていた。

 とても清々しい気分だ。


「安心したら眠くなってきた……」


 達成感も相まって睡魔が姿を現した。

 もう少し距離を置きたいので、俺はトラックの上で仮眠をとったのだった。



 ◇



「マジでここ何処だよ?」


 トラックに揺られて数十分。

 適当な信号で停止したタイミングで背から降りた。


 知らない街でスマホも現金も持たずにいるのは少し心配だ。


 ましてや遠く離れた住宅街。

 戻って取りに行く事も出来ない。


 不安に駆られながらも、近くにある公園のベンチに腰掛けた。


「これからどうしよう……」


 お金も無え。

 スマホも無え。

 車もそれほど走って無え。


 そんな歌を歌っていたら、一人の少女が俺に近づいてきた。


「お兄ちゃん、どうしたの?」


 銀髪おさげの愛らしいその子は、目の前で立って話しかけてくる。


 こんな幼い子が、一人で公園にいるのは如何なものだと思う。

 この街は犯罪が少なかったりするのだろうか。


「お兄ちゃんはね、怖い人から逃げてきたんだよ」

「怖い人?」

「そうだよ、監禁癖がある怖いお姉さんから」

「かんきん?」


 知らない言葉に難しい顔をしている。

 その仕草がとても可愛らしく、とても癒される。


 しかしこの状況を親御さんや知り合いに見られたら面倒だ。

 俺はベンチから立ち上がり、その子に別れを告げる。


「ごめん、お兄ちゃん行かなきゃ」

「迷子なんでしょ?」

「でも君に迷惑かけられないから」

「お姉ちゃんが『困った人がいたら助けなさい』って言ってたよ?」


 まあ何ていい子なんでしょう。

 この子は将来いいお嫁さんになるな。

 俺が保証しよう。


「私のお家すぐそこだから来て!」

「え、悪いよ」

「お姉ちゃんもいるから!」


 こんな小さな子に気を遣わせてしまっている。

 これ以上迷惑を掛けられないが、行く当てもない。


 ここは付いて行ってお姉さんとやらに事情を話そう。


「わかった、お願いしようかな」

「やったー!」


 小さい身体でぴょんぴょん跳ねる光景に頬が緩む。

 ロリコンに目覚めてしまいそうだ。


「こっちだよ!」


 とても小さな手が、俺の指を掴んで引っ張る。

 俺を引っ張るその子は、とても楽しそうな顔をしていた。


 可愛い案内人に連れられて数分、目的の一軒家に到着した。


 周りの建物よりもその家は少し古い。

 何というか今にも壊れそうだ。

 こんな所に人が住んでいる事に驚いてしまう。


 すると一緒にいた女の子が奥に入って行った。

 俺もそれに付いて行き、中に入れてもらう。


「お姉ちゃんただいまー!」

「早かったね、舞花まいか

「お客さん連れてきた!」

「ええ、私こんな格好だよ?」


 奥に入って行ったその子は、噂のお姉さんと話している。

 お姉さんの方は、人様に見せられない状態の様だ。


 少しすると奥から先程の子、舞花ちゃんが戻ってくる。

 それと同時に着替えたであろうお姉さんが姿を見せた。


「初めまして、俺はその子に助けてもらった者です」

「あれ、君は……」

「……え」


 目の前にいたのは、銀髪先輩こと――優曇華先輩だった。

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