自由人と呼ばれるクイーンズ

 一方その頃。


「はぁー、またかあさんからお説教だ。『早く契約者を見つけて人助けしなさい』なんてさ。わかってるっての。デメリット緩くしてくれたら契約者探すのにさぁ」


 ここはとあるマンションの一室。


「しかもお説教のせいで今日作るはずだったガトーショコラ作れないしさ?」


 口調は荒いが趣味はお菓子作り。


「もうやってられないっすよぉ!」


 一人で宅飲みしながら語る女。


 ――ゴールド・クイーンズ。またの名をルイという。


 クイーンズの中でゆういつ一度も契約をおこなっていない者であり、早く契約者を探せといわれている人物だ。


 ルイはクイーンズの中で二番目に高い魔法適性をもっており、異例魔法が創りやすいというメリットがある。

 ちなみに一番高い魔法適性をもっているのはシルクである。「当たり前かしら」とドヤ顔をしていそうだ。


 そんな高い魔法適性をもちながら、ルイは契約者をつくらない。


 ルイに回るはずのミッションはシルクがやったり、ルイ一人で行ったりしている。


 ルイは契約者をつくらず自由奔放に生きている。

 自由人すぎて困っているのが現状だ。


 そんな自由人ルイは、枝豆を食べてビールを一口飲む。

 おつまみとして作った串なし焼き鳥を食べ、ビールを三口飲んだ。


「くぅー!」


 こんな調子で飲み続け、机には空のビール缶が二本置いてある。

 いつもは一本だけにしているのに今日は三本目だ。どうやら相当お説教が効いたらしい。


「ルイだってわがってんだよぉー。わかってるけどさ? なんで男としか契約できねぇんだってはなし! そのデメリットさえなくしてくれれば契約できるのにさぁ」


 ルイのデメリットは少し特殊だ。

 契約に関する文はこう書かれている。


 ――――――――――――――――――


「『ゴールド・クイーンズ』と契約する際のメリット&デメリット&決まり事」


 メリット

・物を操る魔法をかけるとき、その物が金属だと魔法がかかりやすい。

・光や電気に関する魔法の威力が高い。

・異例魔法を創りやすい。


 デメリット

・契約者は異性でなければならない。

・死なない限り、三年間契約を切ることができない。

・回復魔法が使えない。


 決まり事

・契約者はゴールド・クイーンズに対して、できるだけ振り回されないようにする。

・契約者はゴールド・クイーンズに対して、できるだけ尽くす。

・ゴールド・クイーンズは早く契約者を見つけるようにする。


 ――――――――――――――――――


 シルクよりデメリットが少なく、決まり事は多い。

 最後の決まり事が絶賛守られていないのは許されるところなのか微妙なところである。


 ワインにお説教をされたということは、ワインは焦っているということだろう。


「しかも明日も来いって。どんだけお説教聞かなきゃダメなんだ? あー異例魔法でやっちゃったことがバレたとか。それについてのお説教かな」


 異例魔法とは、『魔法書に載っていない魔法だが、イメージしたらできてしまった魔法』である。


 字ズラだけだと創作魔法ともいえるだろう。だが異例魔法という。


 そしてルイは異例魔法を創りやすいようになっている。

 これはメリットであるが、ルイは異例魔法に関してワインから怒られることが多い。


 何故ならば異例魔法で悪さをしてしまうからだ。


 悪さ、悪ふざけともいえる行動の影響はまばらだが、最近大きく影響を与えることをしてしまった。


「ずーっと日が当たらない村に、ずーっと日を当てたらって気になるじゃんか。想像したらできちゃったんだもんしょうがない」


 そう。一日中日の当たらない村に、一日日を当てたのだ。


 これによって村は大騒ぎ。

「神が救ってくださった」だとか、「これで未来は安泰」だとか。

 その一日は村中でお祭りになり、ルイはそれを見届け、罪悪感を感じながらも魔法を解除した。


「野良猫に餌やるなって言葉の意味がなんとなくわかっただけでもよかったのかなぁ。⋯⋯いや悪いとは思ってるけど」


 次の日が来るといつも通りの暗い村に逆戻り。

 村の人々は「神は天邪鬼」だとか、「神は我らを見捨てた」だとか。

 全て「神の気まぐれだった」ということでおさまった。


 そのことをお説教されると思っていたが全く違った。

 ということは明日これについてお説教があるのだろう。


 ルイは呑気にそう思いながら、三本目のビールを空にした。


「まぁ契約してないルイはニートみたいなもんだし? さすがに契約しないとシルクになんて言われるかわかんねーからなぁ」


 机に突っ伏しながら短い髪を弄ぶ。

 そのまま眠気が襲い、五分後には気持ちよさそうに寝息を立てていた。


 夢の中では魔法を自由に使っている。

 現実世界でやっていることとさほど変わらないが、夢に出てくるほど好きということだろう。


 余程楽しいのか、時より「へへっ」っと笑っている。


 これから急展開の人生が待っているとも知らずに――、

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る