シルクの爆弾発言

 類は友を呼ぶんだなと確認したところで――、


「えっと、翔太は魔法に興味があったのよね?」


「そうだな。大体の人が人生で一度は思うことだと思うけど」


 ラノベや漫画などで、魔法は定番中の定番だ。


 翔太が小、中学生の頃。

「もしかしたら俺、魔法使えるんじゃ⋯⋯!」と思って、魔法の呪文を唱えたりしたこともある。今思えば恥ずかしい黒歴史だ。


「へぇ、一般市民が魔法を使えるわけじゃない魔界と似てるわね」


「え!? ちょっとまって。魔界の人って、全員魔法が使えるんじゃないのか?」


 驚きが顔と声に表れる。魔界といえば魔女。魔女といえば魔法。魔法が使えるのが魔界だと思っていた。


「てっきり、魔法が頻繁に使われているのかと⋯⋯」


「まぁ驚かれるのも無理はないわね。でも本当のことなのよ」


「んじゃあなんでシルクは魔法が使えるんだ?」


「私の立場が偉いからに決まってるじゃない」


「立場が偉いって。それはいくらなんでも⋯⋯あ、そうだった。シルクは名前に、クイーンズってついてるんだった」


「気付くのが遅いかしら⋯⋯」


 自分でも気付くのが遅かったことにびっくりする翔太。シルクはクイーン。なのだろうか。

 海外の貴族でいえば、母親となるホワイト・クイーンの子供ということで、貴族の一員のはずだ。


「立場は偉いのは分かったけど、なんで魔界では偉い人しか魔法が使えないんだ?」


「それは魔界で起こったことに関するわ。詳しく説明するから、一字一句漏らさず覚えなさい」


「それはちょっと無理だけどできる限り覚えるね!?」


 シルクの言動にツッコミを入れつつ、話を聞く。

 シルクは魔界の根本的な説明をしてくれたのだが、これまた無駄に長かったためまとめると。


 ――――――――――――――――――


 零、魔界に初めて魔法が使える双子の少女が産まれ、その子の名前を『ホワイト・クイーン』と『ブラック・クイーン』して国の女王にした。


 一、それから魔法が広まり、昔は魔法が一般人にも頻繁に使われていた。


 二、それゆえに、魔法を乱用して犯罪を犯す人が増えた。魔法を悪用する人が増えすぎて、警察だけでは取り締まれなくなる。


 三、解決策として、一般市民は魔法を使えないようにした。


 四、一般市民の中でも魔法適性が優秀なものは使えるままにして、魔界の重要役職につくことになった。


 五、ホワイト・クイーンは地球に興味をもち、自分が行く代わりに六人のクイーンズを造る。六人のクイーンズに、それぞれ使命を与えて地球に放った。


 ――――――――――――――――――


「というわけなのよ。魔法の力は偉大すぎる。魔法のことで争いが起きれば、元凶である魔法を撤去するしかなかった。理解頂けたかしら?」


「なるほどな⋯⋯サラッと最初のほうに出た、『ブラック・クイーン』ってのが初耳なんだけど。クイーンズはズがついて、なんでクイーンはズがつかないんだ? あとホワイトとブラックは双子的な設定?」


「設定とかよくわからないけれど、二人は双子で、二人とも女王なのよ」


「ふむふむ。そんでクイーンズの使命ってのが気になるんだけど。それってなんなんだ?」


「⋯⋯まぁ、まだ知らなくてもいいわ」


 シルクは「子供はまだ知らなくていい」と、いうように跳ね除けた。

 だがこれは知っておかなければならないと、翔太の勘が知らせる。とても嫌な予感がするのだ。


「契約したんだし、それくらい教えてもらってもいいんじゃないか?」


「ぐぬぬ⋯⋯」


 そしてシルクは渋々答える。


「この世界の⋯⋯その、えっと。――核兵器をなくすのよ」


 翔太は時が止まった感覚を味わい、感覚が戻ってきて叫ぶ――。


「規模デカくない!?」


 シルクが爆弾に関する爆弾発言をしたことによって、翔太の思考が爆発寸前だった。


 ――――――――――――――――――


 人間が造った兵器の中で、最も強力である武器。


 ――核兵器。


 核兵器をもつ国と、もたない国がある。そしてこの国。日本は核所有国だ。


 核兵器をもつということは、相手の国が戦争をもちかけてきた時。核兵器を落とすぞと脅すことができる。核兵器をもつ国に戦争をもちかけるなんて、無謀というかなんというか。


 核の威力は凄まじい。そして恐ろしい。


 落とせばどれだけの被害者が出るだろう。一都市丸々消滅する武器。そんな物をもっているこの国は、非核化に向けて連日報道されている。


 翔太自身、非核化に賛成だったため、「やる」か「やらないか」だったら「やる」と答えるだろうが――、


「人助けしませんかって、規模がでかすぎじゃない!? 核兵器がなくなれば一つ問題がなくなるし、人助けっちゃ人助けかもだけど⋯⋯俺的にはもう少し小規模な人助けだと思ってたんだけどなぁ⋯⋯」


 困ってる人を助けるとか、そのくらいの人助けだと思っていた。それ以上だと、事故になる直前の人を助けるとか。大きく見積もってもそのくらいだと思っていた。核兵器をなくすなんて誰が考えるだろうか。


 翔太の頭になかった国単位の大規模で、影響力抜群のミッション。


 契約する前。具体的になにをするのか聞かなかった翔太の落ち度でもあるだろうが、新手の詐欺でもあるだろう。


「小規模な人助けもやるっちゃやるわよ。でも達成しなければいけないのは、核兵器をなくすこと」


「小規模な人助けもするんだ。⋯⋯というか、どうやって核兵器をなくすんだ? 魔法を使えばなんでもできる、ってわけにはいかないだろ」


「いや、魔法で何とかするのよ。作戦は翔太と考えて、協力してミッションクリアを目指す。まぁミッションを遂行しているときに、魔法を使っているのがバレたらおしまいだけど」


「あれだね、魔法でゴリ押しってやつか。バレたらいろんな意味で死んじゃうからね」


 魔法がこの世界においてどれだけの影響をもたらしていいのか、よくわかっていない翔太。だが、少なくともバレなければいいらしい。


 直接関与せず根回しを繰り返して核兵器をなくす。なるべくリスクが低いやり方でするだろう。


 あまり実感が湧かない翔太だが、疑問だけは次々に湧いてくる。


「あ、共犯者の人間は俺含めて六人いるってことだよな? あとシルクと同じクイーンズも、シルク含めて六人」


「あながち間違いではないわ。でもちょっと違うわね」


「⋯⋯と言いますと?」


 シルクが言うことはろくなことがない。

 学習した翔太は、どんと受け止める気持ちで言葉を待つ。


「シルクは魔法適性が高いため、リスクの高い核兵器を無くすミッションが用意されているわ。でも他のクイーンズは別のミッションを行うのよ。つまり共犯者ではなく、同業者が私たち含めて十二人いるってわけよ」


「俺達だけ死ぬ確率が高くなるんですね⋯⋯」


「翔太だけね」


「そうなのね!?」


「シルクは不老不死なのよ」


 てへっと舌を出して言ってくるあたり、シルクは自分の可愛さを分かっている。シルクは不老不死なので死なない。死ぬとしたら翔太だけ。


 不老不死とサラッと言ったが、どういう原理で不老不死になっているのか。造られたシルクは不老不死。他のクイーンズも不老不死なのだろうか。


「まぁ、シルクが契約する前にいわなかったのは悪いと思ってるわ。命に関わることだものね」


 ちょっと反省した顔でシルクは言う。コロコロ表情が変わるんだなと思いつつ、確かに契約する前に言ってくれよと思う翔太。


「命に関わることだよ。結構重要」


「それは素直にごめんなさいなのよ。あ、あと死んじゃったら、また契約者を探さないといけなくてめんどくさいから、なんとしてでも阻止するわ!」


「おお。まさかのツンデレ!?」


 少し赤面しながらガッツポーズで阻止宣言。決して悲しいからではないというように、めんどくさいからと前置を忘れない。


 ――シルクはどうやらツンデレらしい。


「その『つんでれ』って何か分からないけれど。翔太の気味悪い興奮からすると、心地のいい単語ではなさそうね。⋯⋯変態言葉?」


「変態言葉ってなんだよ! ⋯⋯ツンデレっていうのはなぁ」


 無駄に長く。自分のツンデレ好きを力弁しながら、ツンデレを説明したので割愛。


 シルクの言う変態言葉とは、下ネタ含むネト語のことを指すらしい。ネト語という単語も知らなかったので、ついでに説明する翔太。


 シルクの知らない言葉が出る度に、翔太はこれから力弁しながら説明することになるだろう。


「なるほど、理解したわ。でもシルク自身ツンデレではないと思うの。決して違うのよ」


「自分でツンデレだと自覚してないのもツンデレの特徴であり、いい所なんだよ」


 解せない表情のシルクをよそに、翔太は話をずらす。


「あのぉ、魔法が使ってみたいんですが、契約した当日でもできますかね」


「魔法が使いたいのね。残念だけれど、契約の挨拶を母様にいいに行かないと使えないわ。魔法を体験したいっていうなら、翔太に魔法をかけてもいいわよ?」


 ニヤニヤしながら翔太に魔法をかける気満々のシルク。ラジオ体操よりセンスのないあの踊りをさせられる気がしてならないため、断ろうと思った瞬間。


「透明化魔法なんてどう?」


「と、透明化⋯⋯!」


 透明人間になれると知って、まんまと釣られてしまった翔太だった。

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