Day 15

ゆかりちゃんがお店を出て行った後、私はゆかりちゃんの話を聞いている間にすっかり冷めてしまったコーヒーを、茉莉ちゃんに淹れなおしてもらった。

外の雨は一層強くなっている。

「なんか、意外だったな・・・。ゆかりちゃんと、あのー、花楓ちゃん? が幼馴染っていうのは」

「そうだね・・・」

ゆかりちゃんと、あの彼女さん・・・、花楓かえでちゃんは、同じ高校に通う幼馴染だという。正反対な2人だったけれども、お互いにないものを補い合うかのように、小さい頃からずっと仲良しでずっと一緒にいたんだって。

「でもさ、なんで急に・・・、花楓ちゃんはゆかりちゃんに冷たくなったんだろ?」

「さあ・・・」

茉莉ちゃんがため息交じりに言う通り、ゆかりちゃん曰く、花楓ちゃんは高校に入ってある日を境に急にゆかりちゃんに冷たく応じるようになった。

高校に入って、花楓ちゃんがわりと派手で明るいグループに入ったのがきっかけかもしれない、とゆかりちゃんは言うけど・・・。

それ以来、ゆかりちゃんも声がかけづらくなって、今では学校でも全然話していないみたい。

「女の子の友情って、難しいからね!」

「うーん・・・」

「日菜はー?」

「・・・え、なにが?」

「ゆき音ちゃん。最近お店にも来てないし、ボランティアにも来れてないんでしょ?」

「あ、ああ・・・。ゆき音も忙しいみたい」

私がいつも通りに言うと、なぜか茉莉ちゃんは「ふうん?」と意味ありげな笑顔を浮かべて、急に頭をぐしゃぐしゃと撫でてきた。

私はびっくりしすぎて固まってしまう。

「寂しいんでしょー?可愛いなあ、日菜は!」


いや、別に・・・寂しいわけでは・・・なくもない。


そう思っていたら偶然ゆき音からメールが入り、その後私たちは途中で夕飯やお風呂を挟みながらも会話し続けた。久しぶりに長く話し込めたことがうれしくて、茉莉ちゃんが

「嬉しそうじゃんか」

と、ニヤニヤしながらお風呂上がりのアイスを差し出してきたのも気に留めず、私はゆき音に、ゆかりちゃんと花楓ちゃんのことや、最近の彩恵ちゃんの様子などを教える。

そうしていたら、いつの間にか時計の針が深夜を指していたので、私とゆき音は慌ててお互い自分の部屋のベットに戻った。

女の子は何時になっても友達とおしゃべりが続けられるのだから、寝不足になりがちだ。


「日菜ちゃん・・・、どうしたの?目が真っ赤」

私が昨夜のゆき音とのおしゃべりで、目が赤くなっていたことに気が付いたのは、桜が丘病院で一華さんに会った時。

一華さんはいつも通り挨拶をする私に、明らかに怪訝そうな表情をしている。

「そんなに、ですか?」

「うん。ちゃんと寝てる?もしかして・・・、何か辛いことでもあって泣いてた?」

「いや!それはないです!」

慌てて誤解を解くと、「それならいいんだけど・・・」と一華さんは言う。

一華さんはなんだか落ち着かない様子だ。

いつも以上に忙しいのかな。季節の変わり目で風邪をひきやすい季節だし・・・、いや、そうじゃなくても一華さんはいつも忙しいよね。

そういえば、一華さんに進路相談なんてことをしようかなと思ってたけど・・・。迷惑かな。

いや、でも・・・。

「日菜ちゃん、やっぱり何かあったでしょう?私で良ければ、話を聞くから・・・」

「えっ。あ、違う!違います!その・・・、一華さんに、進路相談・・・、をしたくて」

「・・・進路相談?」

「あ、全然目指してる方向は医療系じゃないんですけど、一華さん、いつも自分を持っててカッコイイなって思ってて。ぜひ、一華さんからアドバイスもらいたいなって・・・思ってました」

思い切って言ったけどなんだか恥ずかしくなってきて、全身の体温が上がるのを感じた。

どうしよう、今絶対顔赤くなってる。

一方で、一華さんは驚いた顔で固まっていた。

「・・・すみません、一華さんお忙しいのに。今のは全然、気にしないで」

「ぜひ」

「えっ」

私の言葉を止めるように一華さんの口から出た言葉に、私が今度は驚く番だった。私は思わず聞き返してしまう。

「いいんですか?」

「うん。逆に、私でいいの・・・?」

「いいです!!じゃなくて・・・、ぜひ!」

「あらぁ、責任重大ねえ」

気恥ずかしい空気が流れていたところにやって来たのは、木原さんだった。木原さんはいつから話を聞いていたのか、嬉しそうに微笑みながら一華さんの肩を掴んで言う。

「人生の先輩、ちゃーんと日菜ちゃんにアドバイスしてあげてね」

「もちろん。責任を持って」

「え、いやいや、そんな・・・」

私が恥ずかしさと嬉しさで笑顔になるのを止められないでいた時。

「一華先生!」

真っ青な顔で1人の看護師さんが走って来た。看護師さんは息を切らしながら一華さんの前まで来て叫ぶ。

「彩恵ちゃんが・・・!」

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