第19話 佐藤由紀子の思い
彼女は「ごめんなさい。」と言った。
僕は首を横に振った。
彼女は話を続けた。
「私、一度は死ぬことも考えたの。
でも、、、。
私が死んだら、あの子の死が無駄になってしまうとも思ったわ。
私は決めたのよ。
産みたいと願う人の力になるってね。
そのためには力が必要だった。
私は、まずは産婦人科医になるために必死に勉強した。
研修医時代は堕胎手術もやらされたわ。
でも、落ち込んでる暇があったら勉強したわ。
まずは誰よりも優秀な産婦人科医になろうと思ったのよ。
研修が終わってすぐに父の病院、ええ、ここよ。
この病院で産婦人科医になったの。
いずれ私が院長になるためにね。
父はその時すでに65歳になろうとしていたし、近いうちに院長の椅子が私のものになることは約束されたようなものだったから。
院長になった私が初めにしたことは、この病院では堕胎手術を行わないと決めたことよ。
先程も言ったように母体を危険にさらす可能性がある場合を除いてね。
次に私がしたことは、親に妊娠継続を反対されて行き場のなくなった妊婦を守り、希望通り出産させること。
もちろん、これには沢山の課題があった。
まず未成者が出産する際には書類上、親権者の捺印が必要なんだけど、反対している親から判子は貰えないわよね。
だから大体の場合、私の方で書類を偽造するの。
これは法律上は罪に問われることだけど、妊婦の意思を無視して堕胎手術を行う殺人の方がよほど重罪だと思うわ。
そして、行き場を無くした妊婦が安心して生活できる場所を提供するのも私の使命よ。
私は自分名義でマンションの2フロア全20室を購入したわ。
現在、そこには9人の妊婦さんと8組の親子が暮らしてるわ。
全て出産を周囲から反対されて逃げてきた人々よ。
もちろん、家賃なんて取らない。
必要な物は無償で給付するわ。」
僕は1つの疑問を口にした。
「資金はどうしているんですか?」
すると彼女は言った。
「あなたにとっては、ここからが本題よ。」
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