03:Agitato

Agitato——Prima Capitolo

好きだから頭に来る。


好きだから妬ましくなる。


好きだから嫌いになる。


そんな事を繰り返している。


けど、一番嫌いなのは自分自身だ。



「おい!聞いてんのか!クソッ!!」


 雅樹マサキは一方的に切られた通話にブチキレれていた。


「またサボりなんだろ?コージの奴」


 雅樹の様子を見て佑太ユータが呆れながら言う。


「また女遊びだよアイツ……。ここ半年、バンド練習にまともに参加してないだろ……」


 舌打ちをしながら自分のバッグにスマホを放り込む。


「期待もしてない。そろそろこのバンドも潮時なんだよ」


 佑太はドラムスティックをクルクルと回しながら天井を見上げていた。

 バンドを組んで既に10年経とうとしている。

 高校1年の夏、仲の良かった友人4人で参加した夏フェスで、4人全員が虜になったバンドがあった。

 それは自分たちが生まれる前に結成された、アメリカのスリーピースパンクロックバンド。

 名前しか知らなかったそのバンドのライブを一目見た瞬間、全身を稲妻が走ったかの様な衝撃を受けた。

 かっこよかった。

 とにかく憧れた。

 二学期が始まると同時に、4人はバンドを組んだ。

 軽音楽部などなかった高校で、どの部活にも所属していなかった4人は勝手に楽器を学校に持ち込み、空き教室で練習した。

 初めの頃は教師に見つかり、教室から追い出され、こっぴどく怒られたが、練習を重ね、次第に上手くなるにつれ、学校側も黙認してくれるようになった。

 ほとんど使われる事のない旧校舎の一室が、彼ら非公認軽音部の部室になった。

 秋には文化部発表会なる、なんちゃって文化祭の様なものが毎年催されるのだが、結成して2ヶ月と経たない彼らは、生徒指導の主任の教師と教頭、校長の三人に、文化部発表会でライブをやらせてくれと直談判した。

 4人の勢いに押し切られる形で許可が下り、全校生徒の前で演奏した事は、高校の伝説になっているらしい。

 今振り返ると、ライブ内容は酷いものだったが、ノリのいい一部の生徒のお陰で、プレイヤーの自分たちとオーディエンスが繋がる高揚感を始めて味わった大切な思い出である。


「高校の時は楽しかったよな……」


 佑太がポツリと漏らす。


「あ?あぁ、あの頃はエネルギーに溢れてたからな。全員、音楽に真剣だったし」


 雅樹は煙草に火を点け、深く吸い込んだ。


「大人になっちまったんだよ、悪い意味でな」


 煙と共に苦々しく吐き出した雅樹の言葉に、佑太も頷く。


「雅樹……、俺はバンド続けたいと思ってる。お前もそうなら、二人で別のバンド作らないか?」


 佑太の提案に雅樹は頭を掻く。


「そうだな……。コージはもうバンドに興味ないし、ヒカルはソロデビューの話が来てるんだろ?そろそろ、前に進まないか?」


 既に4人の気持ちはバラバラだった。

 ライブハウスでは一定の客を寄せられるが、その数も減り始めている。

 一部からは「賞味期限切れ」だと噂されている事も知っている。

 ヴォーカルのヒカルは、ある大手レコード会社からソロでのデビューを打診されているらしい。

 雅樹と佑太にとって、それが素直に喜べないのも事実だ。

 何より、輝を妬ましく思っている自分たちに腹が立った。

 何が楽しくてバンドを組んだのか。

 そんな事すら忘れてしまった。


「俺達は、とっくに終わっちまってるのかもな……」


 4人の予定で予約した貸しスタジオの廊下で、2人は煙草の煙をくゆらせるだけだった。

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