第18話

 ――ああ、ここは病院かな?


知らない天井では無く、何度か冒険者として活動しているとお世話になる医療施設である。


 ギルドに所属する事の利点の一つであり、税金対策に無謀な冒険をして負傷しながらもSNSに冒険の成果を誇る結果と支払う税金の負担が減ったことを示すスクショとボコボコに膨れ上がり前歯を何本か無くしたそこそこに有名な冒険者の自撮りを上げていたなぁと思い出す。


草とコメントしたが、やっぱり笑えんわなと実際に病院に入ると思う。


独特の消毒液の様な匂いと階を分けて隠されてはいるもののトイレ等で病室を出ると片足を無くした人だったり髪が燃えおちていたりする人と通りがかったりすると闇を感じざるを得ない。


かくいう俺も呪いの所為か何度も身に浴びた聖水の沁みる感覚と片目の所為か眼帯が違和感であった。


失明はしていないし五体満足ではある。


神の呪いに抗い打ち勝った感覚はやはり正しかったのだろう。


・・・オラ、打ち勝ったっつってんだろうが。顔面酸で焼け爛れた奴がトイレの隣にたってギョッとした顔で見てきやがって、神の呪いとお前の顔面はどっこいだろうが。


寧ろ俺の方が顔面ゾンビに隣たたれてギョッとしたまであるぞ、ふざけんな。


割高になるが回復薬や治療薬で部位欠損や精神異常は治るから助かる。


俺はそこまでの品は錬金出来ないし今回のはそこまで高位のクラスの回復薬を使う程の事もなかったこともあったのか俺の五感もちゃんとあり、病室に置いてあったカレンダーを確認するに一日しか経過してはいないので未だに花見のシーズンを逃してはいない事に安堵する。


これで花見にあの三人を誘いなおしてパーティーを組むことを提案するのにも苦労しなくて済みそうだ。


前に呪いが暴走した時には五感も消失していたから半ば狂いそうになった。


味覚も嗅覚もあるので飯も花も楽しめるのは正に幸運というほかないだろう。


両親には勿論知らせていない。


何故か?過去に無茶して滅茶苦茶怒られたからである。


しかも理由が借金をしてしまい金を返す為だったからだ。


――ああ。


そういえばあの時はホントギリギリだったな――。





―――――――――――――――――――――――



「・・・クソ、クソッ!」



思わず悪態を突いて自分の感情を発露する。


そうしても何も変わらないのは知ってはいたがそうでもしないととてもではないがやってはいられないからだ、根本的な原因はこの悪神の恩寵の呪いなのだが、直接的な原因は仲間だと思っていたパーティーメンバーから吐き捨てる様に言われた言葉だった。



「お前は俺達に隠し事をしてたんだろう?俺達だって信じたくなかったさ・・・けど、実際に俺達はお前といなければ普通にレベルが上がったんだ!!呪いの事だって、黙っていただろう!?お前の持ち物が消えるだけ?違うだろ!!みんなで苦労して倒したモンスターは消えるから、受けた依頼は達成できない!違約金だって発生する!消耗した武器や武具の手入れだって金がかかる!」


「おまけにレベルが上がらない!?その為だけにダンジョンに入る奴だっているんだぞ!!お前は俺達仲間を何だと思ってるんだ!!・・・これまでの時間も、金も全部お前の所為で無駄だ!無駄になった!!負債は払ってもらうぞ!!・・・何だよ、お前【デメリット】なんだろ!!」



【デメリット】、何度も呼ばれて来たそれは、一種の差別用語だ。


この神秘の蔓延る世界で、不名誉なスキル、呪い、ステータスなんかを持つ者はそれなりの数がいるが、その中でもただ何のメリットもなくただデメリットだけを持つとしか言えず、自分だけでなく他人にさえ及ぼす程のデメリットを持つものはそう呼ばれる事がおおい。


ただ存在するだけで周囲に不幸を招き、過去にそんな者達が凶悪な犯罪等に加担してきたことから世間に対する風当たりは酷く冷たい・・・環境がそんな犯罪者を作ったかどうかは、別として。


俺は明確に今までそういわれた事はなかったが、成程俺の呪いはダンジョンの中では最悪と言っていいものだろう、だが俺にとっては悪意をもって行ったことではないし生まれつきで、知らなかった。


だが知らないという事は免罪符にはなり得ない。


叫ばれた場所も悪かった。


場所はギルドの広間、冒険者が配当なんかで揉めるのはよくある話しだが事【デメリット】に関しては別だ、不利益だったりする話には日本人は目ざとい、冒険者なら特に。


結果として俺は諦めと憤り、そして失望の眼をパーティー申請の取りやめとそれに関する賠償を求める話をギルドの受付嬢に詰め寄り、いかに俺が悪辣非道であったか、自分達がどんな被害にあったかを誇張して話をする元仲間に向けた。


俺に呪いがある事は確かで、ギルドに登録したステータスにもそう載っている以上、強くは出れず、またこれ以上公にすると俺がギルドに居られなくなる可能性まであったので、賠償を払う事になった。


金がいる、仲間がいない、糞みたいな呪いとステータスしか残っていない俺は、必死に頭を絞り、出来得る限り準備をして初級のダンジョンの中でも討伐による稼ぎが大きいが危険度があるダンジョンに目を付けた。


賠償をする、つまりこれから手に入るものは自分の物ではない、という事を利用する事で呪いを避ける事が出来ると知ったのもこの時だった、これは不幸中の幸いだった、それがなければ俺は真っ当に稼ぐ事等無理だっただろうから。


呪いが発動しない条件がある、抜け道の事について知れたのは大きかった。


クエストも利用して錬金術のサブも取る事を考えたのもこの時だった。


自作する事で劣化するが、市販よりは安くアイテムを作る事ができるのは今後の大きな指針にもなったからだ。


――兎も角、俺は自作したアイテムと安価な武器と防具でダンジョンに向かった。







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