第15話



「ここが【妖精の花園】その深部にある【女王の妖藍生命樹ティターニア・ウル・ゲノムツリー】です」


「「うっわぁ~~!!」」


「すっげぇ・・・!」


「ここが花見会場・・・?」



というか、良かったのだろうか?明らかにここの人達と思われる人や他のパーティの人達が花見をしていたと思われる普通の桜等がある場所――ダンジョン内にあるという事を除く――をスルーしてこんな明らかに神秘の内包量が多い女王の妖藍生命樹ティターニア・ウル・ゲノムツリーと呼ばれるらしい宝と言っても差支えがないモノの近くへと俺達部外者を入れてしまって・・・。



「ああ、そうっす、ね?」


「そうっすね、って・・・」



俺がやや呆れた口調でそう零せば、案内役の彼は途端に狼狽した様子で言い訳を弁解するようにそれでいて投げやり気味に何故か俺にキレる様にまくし立てた。



「だ、だってすっげぇおっかなかったんっすよ!?あんな副団長滅多に見ないんす!レッドカラーの姉さんならしょっちゅう切れてるから見慣れてるし放っておくっすけど副団長っすよ!しかもさっき見間違えじゃなけりゃ言霊使ってたし!!逆にアンタ達にこっちが聞きたいんすよ!何やったんすかって!!ていうかさっき言ったし!!」


「そりゃこっちのセリフ・・・ってレッドカラーって誰だよ」


「言霊?それって」


「ああ、皆原さんそれは――」



いつの間にかこっちに来ていた皆原さんの声にさっきの話だがと続けようとするも尚興奮していた案内役の男がしまいには頭を抱えて蹲る。



「しかも今時期絶対あの【妖精女王ティターニア】が――」



瞬間、冒険者として培ってきた本能的な感覚が、足元から湧き上がる。


基本的にして絶対なその感覚は間違いなく――命の危機。



「【悪神の恩――カルス・ニh】」


そうして回避行動をとろうとした俺を地面から生えてきた木々の枝に体ごと木の内部に埋め込まれる様にして拘束される。


分かたれた枝が一つに戻りそしてまた俺を飲み込もうとしたところで今回の元凶ともいえる新崎の声がした。


「そこまでにして貰えるかしら?――妖精女王ティターニアそれと、貴方達も――ね?」



とっさの事で反応が出来ずにいた春樹を除き案内役の男は腰に携えていた短剣を構え皆原さんは黒い鴉に近いモノを呼び出して掌に火の玉を顕現させている。


春樹を背にして、どこから取り出したのか大槌を手にしながら強張った声で市川さんが話し出した。



「――それは、そっち次第、だよね?」



確かめる様に一つ一つ区切りながら話し続ける市川さんに自分の事は棚に上げて素直に感心した。


何故ならば――。



「何かごちゃごちゃいってるけれど、レーカよね?ここにコレ、連れてきたの」



コレ、の所で移動された大樹の様な枝の塊が眼前で俺の体を揺らした。


人差し指が目にはいるのではないかという近さと何よりもその圧倒的な存在感に汗が滝の様に流れる。



――そう、余りのレベルの違いの差、というものに。


推し測る事の出来ない程のどうしようもない重圧。


生物としての規格そのものの違いを感じさせるその生命力と言える圧力に全身の体が強張り恐怖すら感じる。


それは自らに向けられた敵意そのものと無邪気さ故の残酷さが色濃く表れる言動故かこの場で何かしらの選択を間違えればゴミの如く処分されるだろうと確信できる妖しさと冷たさと本の少しの怒りと憤りを感じさせる桜色交じりの藍色をした双眸が俺の眼球を至近距離で覗き込んできたという理解できぬその行動の全て故か。


やがて僅かに様々な感情を宿していた瞳が良く見慣れた嫌悪感に染まったのを見てようやく俺は自分が呼吸をする事を忘れていた事に気が付いた。



「っ―――――っかぁはっ――」


「やだわ、本当に気持ち悪い。そんなに汚らしいモノを憑かせてここにいるなんて!ああ!もう!吐き出す息さえ嫌になっちゃう!ちょっとレーカ!!本当にはな――」


「――話は直ぐするって言ったのだけれど」


「――っは?」



本当に唐突だった。


体を拘束されていた木々が枝葉が俺を覆い包んだかと思えばその全てが刻まれ塵に帰した所で俺は首を片手で持たれ、その全てに反応が出来なかった俺や春樹は勿論市川さんや皆原さんは茫然とするよりなかった。


そして静寂は妖精女王のおもちゃを取り上げられた子供が駄々を捏ねる様な抗議するかのような声音の気やすさ交じりの声と皆原さんのその明るい声音に反比例するような何処か驚愕さを含んだ冷たい声が場を裂いた。



「あーーっ!何するのよさ!レーカ!折角私が今のうちに・・・」


「い、今――気のせいじゃなければ、なんだけど・・・」


「まさか行き成り殺そうとするとは・・・直ぐに説明するっていったじゃない」



生きて・・・いる?確かめる様に首を擦る。


今確かに俺は生死の境を彷徨う境界線上にいた。


だから直ぐに片づけて直ぐに話を聞こうとしたんじゃない!とかいう声と短期が過ぎるし余りに盲目で視野が狭いとか何とかいいながら話し合う声が頭上で飛び交う。


そうこうしてる内に三人がそれぞれ俺に近寄って思い思いに安否の声を掛けながら俺の体を辛うじて話が出来るぐらいの位置まで下げ、守るように囲んで守ってくれた。


俺は肩に置かれた春樹の手を掴みながらも立ち上がり前に庇う様にして立っていた中級冒険者である二人を申し訳なさを感じつつも体を動かし前へと出し至極当然の疑問を吐き出した。



「色々聞きたい事はあるがまず一つ・・・なんで俺は殺されかけた?」



まるで襤褸雑巾の様な姿になってしまった俺の姿。


木々に挟まれた後や覆われた影響かそこから助け出された?時かは分からぬがダメージこそ負っていないものの薄汚れた格好になった姿は正にそうと表現できるだろう。


そしてそれは俺自身を殺す為の行為故そうなった。


何故?俺はただここにお花見をしに来ただけの――。



「そのアンタの変なのっぽい神なのか悪魔なのかどうかも分からないドブ臭い恩寵の所為かしら」


「・・・まぁ、その・・・加護、というか呪い・・・っていうか?その・・・妖精女王は特に過去の所為でそういう害がありそうなの嫌ってて・・・」


「昔の男の話題だした?ねぇ?今その話必要?ねえ?ねぇ、レーカ、ねぇ???」



まーーーーーたこの【悪神の恩寵カルス・ニヒツ】の所為かー。


ってあれ?これ俺が悪いパターン?


いやいやいや、幾ら何でもそれは、うんだって殺されかけたしうん。


・・・チャラ、っていう事に出来ないっすかねぇ(震え声)


そうして俺は何とかこの場を何とか有耶無耶にできれば無罪か両方悪かった的な感じに収める為にペラを回し始めるのであった・・・。




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