Ⅱ-3 バーズ・イン・パラダイス・イン・パラダイス


 二、三時間ばかり飛ぶと、カゲロウ達を乗せた飛行機はリウキウエリアの空港に着陸した。リョコウバトに景色を見せてもらったためか、フウチョウ達は着陸の時は、特に離陸の時のように緊張する様子もなかった。


 空港からスパリゾートジャパリアンズまではバスに乗っての移動だった。30分ほど揺られると、ホテルの正面入り口の前にバスは止まり、カゲロウ達もそこに降り立った。

中に入ると、吹き抜け構造になっているロビーに、巨大な噴水がそびえ立っていた。その上には、特大のシャンデリアがぶら下がっている。左右の壁にはロビーを一望できるガラス張りのエレベーターが、上へ下へと忙しなく動いている。


「すっげー……」


カゲロウは、ただ一言、年甲斐もなく、少年のような感想を漏らした。


「ほら、カゲロウくん。まずチェックインしようよ」


和が、フロントの前に立ってカゲロウを呼んだ。


「ああ……そうだな」



カゲロウが福引で当てたペアチケットは、カタカケとカンザシの二人が使い、カゲロウと和は、和が持っていた旅行券を使いつつ自腹を切った。福引で当てたチケットは当然二人部屋で使うことが前提だったので、カゲロウは電話で予約をする時に、フウチョウ達を部屋に二人きりにしておけない事情を説明していた。すると、ホテル側の機転で、コネクトドアのついた二人部屋を二つ、隣合わせの状態で用意してくれることになり、事実上の四人部屋を確保することができたのだった。


部屋は、目の前に海が見え、シングルベッドが二つ置かれ、一般家庭にもあるくらいの大きさのテーブルが真ん中にドンと置かれている、広々とした部屋だった。


「すごーい!これでも最上級じゃないなんて……」


和は感嘆の声を上げながら、ベッドに飛び込んだ。


「んん〜、ベッドもふかふか!気持ちいい〜」


ベッドの上でゴロゴロ転がる和を見て、カタカケとカンザシはカゲロウの服の裾を引っ張った。


「カゲロウ、ワレワレのヘヤのカギもアけて」

「アけて」

「はいはい」


カゲロウは、コネクトドアの鍵を開けて、隣の部屋への通路を開通させた。それを確認するや否や、フウチョウ達はベッドに向かって猛スピードで飛んで行き、ベッドに飛び込んだ。それから、ベッドの上で転がり始めた。どうやら、和の真似をしているようだった。


「おめーらにはデカすぎんじゃねえか?そのベッド」


フウチョウ達の小さな身体には、ホテルの広々としたシングルベッドは一人で使うには大きすぎるように、カゲロウは感じた。


「ワレワレのおかげでここにいるのをワスレたか?」

「クチだしはしないでもらおう」

「へいへい。まぁ楽しいんならいいけど、はしゃぎ過ぎて物壊すんじゃねーぞ。弁償だからな」


カゲロウはそう言うと、和のいる自分の部屋の方へ戻った。和は早速キャリーケースを開けて、何やら準備をしている。


「何してんだ?」


カゲロウが訊いた。


「決まってるでしょ?泳ぎに行くの」

「もう行くのか?もうちょっと休んでからでもいいだろ」

「だーめ。明るいうちに行かなきゃ損!」

「あ、そ。じゃ、行ってら」

「カゲロウくんも準備してよ」

「え?俺も行くの?」

「当たり前でしょ?何しに来たの?」

「いや、俺は……」


カゲロウは、自分が何故ここにいるのかについてふと、考えた。福引でペアチケットを当てたのは自分だ。でも、一緒に行く相手が思い当たらなかった。一緒に行く相手がいないのなら、カタカケとカンザシが、自分達が行くと言い出したので、それは許可できないと言った。そんな時に、和が、カゲロウが自腹でついて行けばいいと提案してきた。そして、代金を少し肩代わりしてやる代わりに、自分も連れて行けと言ってきた。そして、自分と、カタカケとカンザシ、そして和の四人で、ここに来た。自分はカタカケとカンザシと旅行に出るのは初めてだ。旅先で何か面倒ごとを起こさないように注意を払わなくてはならない……とまで考えたところで、和が溜息をついた。


「私がいなかったら、カゲロウくんったら今頃、せっかくのお休みなのに、頭の中完全に仕事モードになっちゃうんだろうなぁ」


和が、ベッドに仰向けに倒れながら言った。


「あの子達ね、ああ見えても、カゲロウくんに今も色々迷惑かけちゃってないかなって、結構気にしてるんだよ。ただ、ちょっと不器用なだけでさ」


和は医務員だ。カゲロウが以前倒れた時に、彼に応急処置を施し、病院までの搬送を手伝ったのも、実は彼女だった。そして、その後の事の顛末についても知っていた。だから、フウチョウ達にとって、和は、カゲロウに相談しにくいようなことも相談できる存在だった。


「私もあの子達についてはまだわかんないところいっぱいあるけど。でも、そんな風に考えてるんだから、間違いなく良い子たちだし、頭も悪くないよ。だから、あの子達と一緒でも、仕事じゃない時くらいは、もっと肩の力抜いても、いいんじゃないかな」


和は、カゲロウの方に寝返りを打ちながら、そう言った。

それを聞いて、カゲロウは一つ、溜息をついた。確かにその通りだ。自分はフレンズと接するのが好きでこの仕事をしているし、フレンズ達ともフランクに接している。でも、やはりフレンズといる時というのは、飼育員である自分にとっては仕事であり、責任を伴うと言う考えが、カゲロウの心の何処かにはあった。特に、カタカケとカンザシに関しては、まだ付き合い方がよく分からないところも多い。知らずのうちに、二の足を踏んでいる自分がいたのかもしれない。

でもそれはカタカケとカンザシも、そうなのかもしれない。和の話を聞いて、カゲロウはそう思った。

今日は仕事で来ているわけではない。たまたま、カタカケとカンザシも一緒にいるだけだ。それならば、たまには仕事を忘れて、普通に二人と遊んでみるのも悪くないかもしれない。それで何かわかることがあったら、儲けものだ。


「そうかもな」


カゲロウはそう言うと立ち上がって、キャリーケースに手をかけた。それと同時に、隣の部屋からカタカケとカンザシが、ひょっこりと顔を出した。


「カゲロウ、ウミにイきたい」

「イきたい」

「おう、わかったわかった。待ってろ」


カゲロウは、キャリーケースの中に入ったビーチバッグを取り出しながら、そう言った。



 カゲロウは、更衣室で素早く着替えを済ませると、ビーチで拠点を確保すべく動いた。時期が時期なので、多くの観光客で賑わっていたが、丁度海の家と案内所の近くに空いているスペースがあった。カゲロウはパラソルとビーチチェアをレンタルして、セッティングを行ない、和に自分の居場所を記したLINEを送った。

間も無くして、和がフウチョウ達を連れて、カゲロウが確保した場所にやってきた。


「お待たせ」


和は、涼しげな白い帽子を被り、腰にはこれまた涼しげな淡い青色のパレオを巻いていた。そして、健康的な色の肌に、華奢ではあるものの、しっかりと出るところは出ている身体の上には、純白のビキニが輝いている。カゲロウは、その姿に思わず頬を赤らめた。


「あ、カゲロウくん赤くなってる」

「いや、これはおめーらが来るまでの間作業してたからで……」

「やはりオスだな」

「スケべ」

「えっち」

「スケッチ」

「ワンタッチ」

「んなのどこで覚えたんだよおめーらは」


ふと、カゲロウは、フウチョウ達が普段と全く変わらない姿であるような気がした。そう言えば、この二人は水着を持っていただろうか?いや、持っているわけがない。何故ならフレンズ、元はただの野生動物だからだ。

和はすぐに、様子を察した。


「あ、この子達の水着なら大丈夫。私が買っておいたから」

「いつの間に……それでもケープは脱がねえのか、この暑い時に」

「着てないと落ち着かないみたい」

「あ、そ」


カゲロウがそう言うと、カタカケとカンザシが、部屋にいた時と同じようにまた、カゲロウの服の裾を引っ張った。


「ん?どうした?」

「カゲロウ、ウミにキたらみんな、ナニをするんだ?」

「あ?なんだおめーら、知らねえで海に行きたいっつったのか?」

「シらないからイきたいとイった」

「カゲロウにオシえてホしい」


フウチョウ達は、なんだかいつもよりも少しばかり興奮したような様子で、カゲロウの顔を見つめていた。それを見て、カゲロウは少し嬉しい気分になった。


「よーし。おめーらが知りてえならもちろん教えてやるぞ。海ってのはな、色んな遊びができる場所なんだ。例えば……」

「ちょっと待った」


カゲロウがビーチバッグからビーチボールを取り出そうとしたのを、和が止めた。


「なんだよ?」

「海水浴に来たらまずするのは準備体操、常識でしょう?」

「んな硬ぇ事言うなよ、せっかくアイツらもやる気なのに調子狂うじゃんか」

「だーめ。医務員として、身体の健康と安全の為に見過ごすわけにはいきません」

「おめーの方こそ休みの時くらい仕事忘れろよ……」


カゲロウはそう言ったものの、体操をしない限りは、和が遊ぶ事を許してくれなさそうなので、仕方なく、みんなで準備体操をすることにした。

それから、今後こそカゲロウはビーチボールを取り出した。


「それはなんだ?」


フウチョウ達が、不思議そうに、まだ膨らんでいないビーチボールを見つめた。


「これはな、ビーチボールだ」

「ボール?マルくないぞ」

「まぁ見てろ、こうやるんだよ」


カゲロウはそう言うと、ビーチボールに口から空気を吹き込んだ。ビーチボールは結構な大きさだ。膨らますのには結構な空気がいる。カゲロウは何度も何度も、息を吹き込んだ。やがて、初めはペシャンコだったビーチボールは、見事な球体に変身した。それを見て、フウチョウ達は思わず声を漏らした。カゲロウは、ちょっと誇らしい気分になった。


「どうだ、すげーだろ」


カゲロウは、息を切らしながらフウチョウ達に言った。フウチョウ達は首を勢いよく縦に振った。


「スゴい」

「ワレワレもやりたい」

「え?せっかく膨らませたのにまだしぼませなきゃなんねーの?んな勿体ねえ」

「やりたい」

「ダメダメ、これは膨らませて初めて遊べるようになるもんなんだから。また今度な」

「やりたい」

「いや、だからさ……」

「やらせてあげたら?私、ここまで物に興味津々なカンちゃんとカケちゃん見たの初めてだよ」


和が、口を挟んだ。確かに、そうかもしれないと、カゲロウは思った。

カゲロウは、仕方なく空気を半分くらい抜いた。そして、フウチョウ達に、半分萎んだボールを手渡した。

まず、カタカケが、息を吹き込む。だが、全くボールは膨らまない。


「あー違う違う、もっと大きく息を吸って、一気にやんだよ」

「ワタシがやる」


カンザシが、カタカケからボールを受け取った。でも、やっぱりボールは膨らまなかった。それどころか、萎んでいる。


「あーそれも違う……口つける前に吸って、そのまま止めて一気にこう……」

「ワカりにくい」

「カゲロウやって」

「おめーらなぁ……」


結局、ボールはカゲロウがもう一度膨らませなければならなくなり、再びボールが空気で満たされる頃には、カゲロウはクタクタになっていた。


「ちょっと……飲み物買ってくるわ……」


カゲロウは、息も絶え絶えにそう言うと、ビーチバッグから財布を取り出した。


「あ、じゃあ私コーラね」


和が、カゲロウに言った。


「誰もお前の分も買うって言ってねーぞ」

「でも自分の分だけ買うっても言ってないじゃない」

「お前までこいつらみたいにいちいち突っついてくるなよ」

「私のお陰でここにいるのだゾ、口出しはしないでもらおうカ?」

「へいへい、わーったわーった、旅行券どうもありがとうございました」


旅行券を譲ってもらったとはいえ、実質的には、和に旅費を肩代わりしてもらっているようなものだ。彼女に下手に逆らう訳にはいかない。カゲロウはそう思い、仕方なく、和の分の飲み物も買う事にした。が、そうなるともちろん、それだけで済むわけがない。


「カゲロウ、ワレワレもホしい」

「アイスコーヒー」

「ブラックはなしだからな」

「もちろん」

「サトウいり」

「マシマシ」

「へいへい」


カゲロウは、財布の中を見た。来月いっぱいは、仕事終わりの一杯を発泡酒で我慢しなければと思った。


 カゲロウは、缶ビールとコーラ、そして、砂糖入りのアイスコーヒーを二杯買って戻ってきた。カゲロウが戻って来るのを待っている間、和は、フウチョウ達にサンオイルを塗って貰っているところだった。


「あ、おかえり」


和が、カゲロウに気付いて声をかけた。カゲロウは思わず目を逸らしながら、コーラを和が寝そべっている横に置いた。


「なんでそんな変な方向向いてるの」

「なんでって、見られて平気なのかおめーは」

「サンオイル塗るくらいみんなやってるし、それに私は別に大したことないし」

「んなわけねーだろ」


カゲロウはそう言った瞬間思わず、自分の口を覆った。そして、勢いよく缶ビールの栓を開けて飲み干した。


「ん?何か言った?」

「うるせーな、早く済ましちまえよ」

「今丁度終わったところ」


和は、そう言いながらコーラの蓋を開けて、一口飲んだ。


「美味しい」


そう言って、和は微笑んだ。


「カゲロウ、ワレワレのコーヒーは」


和の身体にサンオイルを塗り終えたカタカケとカンザシが、カゲロウに駆け寄ってきた。


「あぁ……ほらよ」


カゲロウは、缶ビールを持っている利き手と反対の手に持っていた、アイスコーヒーの入っている、ストローつきのプラスチックカップを二人に渡した。

受け取るや否や、二人は即座にストローに口を付けて、勢いよく中のコーヒーを吸い込んだ。カゲロウを待つ間、和の身体にオイルを塗る作業をしていたのが、いい運動になったようだった。


「オイしい」

「ツメたい」


二人は満足そうにそう言うと、二人揃ってカゲロウを見上げた。


「ありがとう」


カゲロウは、びっくりした。二人に何かお礼を言って貰ったのは、今が初めてだった気がしたからだ。

突然の事にカゲロウは少し戸惑ってはいたが、やはり、感謝されるのは気分が良いものだと思った。そして、カゲロウはさっき膨らませたビーチボールを手に取った。


「よっしゃ。じゃ、準備も整ったところで、遊ぶか!」


 それから四人は、ビーチバレーを楽しんだ。と言っても、本格的なものではなく、ボールを落とさないようにラリーを続けるだけのごく単純なものだ。でも、単純な遊び故に、みんな、難しい事を抜きにして楽しめる。

カタカケとカンザシは、元が鳥である故の反射神経の鋭さと素早い動きで、難なく落下点に移動し、器用に頭でボールを打ち返す。そして、二人とも小さな身体の割にはボールの打ち返しにはパワーがあり、結構な速度でボールが飛んでくるので、カゲロウも和も、受け止めるのに少し苦労する場面が何度かあった。

フウチョウ達は、ビーチバレーという遊びを気に入り、カゲロウ達もそれに応えるべく、何度もゲームを繰り返した。だが、次第にカゲロウと和の身体には疲労が溜まっていき、フウチョウ達の繰り出すボールに対処しきれなくなっていった。

 ある時、カンザシの打ち返したボールが、勢いづくあまり、そのまま海の方へ飛んで行ってしまった。更に、一瞬風が強くなり、ボールは風に乗ってさらに遠くに飛ばされてしまったうえ、それを追いかけていた和の帽子も、一緒に海に飛ばされてしまった。

カゲロウは、帽子とボールを回収する為に、海の方へと向かった。カタカケとカンザシも、一緒についてきて探すことにした。

人混みをかき分けて進んでいくと、遊泳可能なエリアと、立ち入り禁止のエリアを仕切るが浮かんでいるのが見えた。そして、丁度そのすぐ先に、ボールと和の帽子が浮かんでいるのが見えた。


「あーっ、あんなところに……」


カゲロウがそう言うと、カタカケとカンザシは飛んで取りに行こうとした。が、空の上からとは言え、一応立ち入り禁止の区域なので、カゲロウはそれを止めようとした。その時、浮の向こうから勢いよく飛沫が上がり、ボールがカゲロウの方に、見事な放物線を描いて飛んできた。

カタカケとカンザシは、飛沫に驚いてカゲロウの後ろに隠れるようにして戻ってきた。カゲロウは、何事かと思い思わず目を丸くして、二、三度大きく瞬きをした。すると、先ほど飛沫が上がった場所と同じ辺りの水面から、フレンズが一人、姿を現した。


「こんにちはー、そちらのボール、お宅のって事でよろしい?」


フレンズは、大きく手を振りながら、そう言った。


「あ、えぇ。そうです。あの、ついでにそこの横にある白い帽子も取ってくれると助かるんすけど……」

「え?ああ、これ!はいはい、すぐ持って行きますねー」


そう言うとそのフレンズは和の帽子を手に取ると、なるべく海水に浸からないようにしながら、カゲロウの元に運んできた。


「はい!どーぞ!」

「どうもありがとうございます」


カゲロウは、帽子を受け取ると軽く頭を下げて、お礼を言った。


「いえいえ、仕事ですので、お構いなく!私、当海水浴場でライフセーバーをさせて頂いてます!オキゴンドウです!」

「そうでしたか。いや、ホント、そこにいてくれて助かりました」

「もし誰かが間違ってあの浮の先に入っちゃったり、さっきみたいに物が飛んできた時にはすぐに対処できるように、いつもあの近くを泳いで見回りをしてるんです。その甲斐がありました!」


オキゴンドウは、誇らしげに微笑みながら言った。


「ところで、お客さんと一緒にいるそちらの二人も、フレンズですよね?」


オキゴンドウは、カゲロウの後ろに隠れているフウチョウ達を見て訊いた。


「えぇ、そうなんすよ。仕事で面倒を見てて、今日は休みを利用して、同期と一緒に、ここに」

「へー、って事は、もしかして飼育員さん?」

「そうっすね」

「そうなんですね!私もここでお仕事するようになるまでは、飼育員さんにお世話になりました!仁茂にもさんって方なんですけど、ご存じだったりします?」

「仁茂?もしかして、仁茂にも英明ひであき?」

「あ!そうですそうです!ご存じなんですか!」

「大学の同期っすよ。そっか、アイツの担当だったのかぁ」


思わぬところで友人の名前が出てきたので、カゲロウはつい、オキゴンドウと盛り上がってしまった。


「あー俺、白毛カゲロウって言います。今度アイツに会ったら、よろしく言っといてください」

「白毛さんですね、わかりました!後ろのお二人は?」


オキゴンドウは、まだカゲロウの後ろに隠れているカタカケとカンザシに訊いた。


「ほら、あいさつ。この人、俺の友達の友達なんだ」


カゲロウがそう言うのを聞いて、二人は少し警戒が解けたのか、ゆっくりとカゲロウの前に出て、オキゴンドウの方を見た。


「ワタシ、カタカケフウチョウ」

「ワタシ、カンザシフウチョウ」


二人がそう言うと、オキゴンドウはにっこりと微笑んで、握手を求めた。

でも、二人は、それがどういう意味なのか、よくわからなかった。


「ほら、握手しな。手を握るんだ」


カゲロウに言われるまま、二人はオキゴンドウと握手を交わした。


「よろしくね。何て呼んだらいいかな」


オキゴンドウは、カタカケとカンザシに訊いた。


「ワタシは、カンちゃんってヨばれている」

「ワタシは、カケちゃん」

「そっか、じゃあ、私もそう呼んでもいいかな?」

「うん」

「いいぞ」

「ありがと!私の事は……ゴンちゃんでいいや!」


カゲロウは、オキゴンドウが自分の呼び名を名乗ったのを聞いて思わず噴き出した。海のけものなのに、まるで犬のような呼び名だったからだ。

でも、カタカケとカンザシは、その呼び名を気に入ったようだった。


「ゴンちゃん」

「なに?」

「カゲロウのトモダチのトモダチなのか?」

「そうだよ」

「ゴンちゃん」

「なに?」

「ゴンちゃんがカゲロウのトモダチのトモダチなら、ワレワレもゴンちゃんのトモダチ?」

「そうだね!」


オキゴンドウが笑顔でそう答えるのを聞いて、フウチョウ達も嬉しかったようだ。フウチョウ達は、オキゴンドウの周りで飛び回りながら、踊り始めた。

カゲロウは、二人がこのような行動をするのを見るのは初めてだったので、驚いた。勿論、驚いたのはオキゴンドウも同じだ。


「すごーい!素敵な踊り!ね、今のなーに?」


オキゴンドウが、フウチョウ達に訊いた。


「キュウアイのダンス」

「スきなアイテにミせる」

「ワレワレ、ゴンちゃんのこと、スき」

「スき」

「そうなんだ!ありがとう、私も、カンちゃんとカケちゃんのこと好きだよ!」


すっかり仲良くなったフウチョウ達とオキゴンドウを見て、カゲロウは微笑んだ。そして、オキゴンドウはフウチョウ達と仲良く手を繋いで、ビーチに向かって引き返し始めた。カゲロウも、その後について行った。


――――――――――――――――――――――――――――――

【クジラ目 ハクジラ亜目 マイルカ科 オキゴンドウ属】

【オキゴンドウ                 】


シャチのようにイルカや小型のクジラを食べることもあるので、シャチモドキとも呼ばれている。他のハクジラたちとは違って、獲物の肉を器用に引き裂ける歯が生えているので、延縄ひきなわにかかったマグロの肉や内臓だけを器用に食べていなくなってしまうこともある。

そうした事で漁師からは嫌われているけれど、人間には懐きやすく、水族館ではイルカたちに混ざってショーに参加して、色んなパフォーマンスをすることもできるんだ。












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