第31話 反撃 (2)

夜の海に沈んでゆく車両運搬船。 散り散りに離れてゆく救命艇。

その様子をヘリコプターから見る、アル・カリの科学調査班。

一見、海ホタルのように見えたその現象も彼らは目の当たりにしていた。

いずれも3回点滅してそれきり、という奇妙な発光現象。

だが、今の彼らにとって、もはやどうでもいい事だった。


船底近くの部分に開けられた穴と、こじ開けられたハッチの相乗効果で

車両運搬船は完全に海中へ没していった。

結果的に( にがしてあげて )やった形となった、数々のナックルボール。

結局は、こじ開けられたハッチから全て逃げ出せたらしい。

しかし、船内の格納庫はとても狭く見え、さながら棺桶の中を連想させた。


「この失態、どう責任取るつもりだあーーっ!?」

詰る、LPGタンカー偽装艦艦長。 萎縮する、科学調査班班長。

そこへ、操舵室に響く艦内放送のような声。

『車両運搬船が沈没したそうだな・・・?』

「!!」  「・・・総統閣下!! 申し訳ございません!!」

『謝っている暇があったら、すぐ回収に向かえ。』

「ははっ!! ただちに!!」

『それと・・・ あの怪物が動き出していた場合・・・ “見えない光の矢”で

鎮圧を図れ。 多少キズがついても構わん。』


海面に大量の気泡が発生。

その原因は、コンテナの収納口を切断した時と同じ方法によるものだった。

結局は、縛られた鎖を断ち切り、手の届く格納庫横を切断して車両運搬船から

脱出したのだった。

海底に立ってみると、他の船は頭上はるか上にあった。( 暗視映像 )

この辺の海域は急激に深くなっているらしい。

右往左往している秀太の目の前に、またもひらがなの表示が。


    ・しまに じょうりく して・


そして、矢印も表示された。

「何か考えがあるの?」

返答のメッセージは表示されなかった。

「・・・はいはい、行けばいいんだよね。」


夜の海底を矢印通り進んで行くと、上方向の表示に変わった。

目の前にそびえ立つ岸壁。

全くの垂直ではないが、ボルダリングのようによじ登って行く秀太。

ザバアッと、狭い岩浜に上陸した時、取り残されていたナックルボールの

いくつかが、洗い流されるように海へ落ちていった。


周囲を見渡す秀太。 

遠く離れてはいるが、大型客船とLPGタンカーの姿を確認できた。

秀太の見ている映像をPCで見ている少女。

さらに、犬小屋型のPCのもう片側の画面の方に回り、画面を撫で回す。


LPGタンカー偽装艦も、カラスの怪物の姿を確認した。

「ふん、わざわざ撃たれに再上陸してくれたか!」

『艦長、やはり、あの怪物の電波で我々の “虫ども” が活性化するようです。』

「怪物め・・・ “ 虫ども ”の存在に気付いているようだな。」

『チャージ完了まで、あと10分・・・』

「発射準備開始。」

LPGタンカーの球状タンクから、生えるように出現した物体。

砲身なのか、それが円形に沿った配置で、計8門。

『艦長、チャージ完了いたしますと、100%の出力で・・・』

「何発撃てる?」

『8門の一斉射撃で3発・・・です。』



「えっ? どういう事?」

秀太はLPGタンカー偽装艦を注視して見ていたが、画面にインサートされた

ひらがな7文字の意味が、一瞬理解できなかった。


       ・もぐもぐ たいむ・


VRの部屋から搾り出される秀太。  戻ってみると・・・

いつの間にか迫り出されていた、テーブルとイスの役目であろう突起スペース。

そこに、何かを置こうとしている少女。

秀太には、世間一般でよく見られるありふれた光景しか想像できなかった。














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