第15話 VRの部屋

意を決し、 “ 暗黒な出入り口 ” に身を投じた秀太。

だが、入ったはいいが、やけに狭い。

体全体が何かに包まれている感じもした。しかも、動くのに余計な力がいる。

例えるなら、高密度の粘液の中で手足を動かそうとしている感覚。

ズブズブと体が沈んでしまいそうに思えた時、足の先が床に着いた感じが・・・

その途端、秀太の体勢は仰向けの状態になった。

( もう・・・どうなってんだよ・・・ )

目の前の状況にも変化があったようだ。

凄く暗いが、視界いっぱいに大きな鉄の扉のような映像(?)が現れていた。

( ・・・・・? )

しばらくすると、図案化された靴の足跡にしか見えないマークの表示も現れ、

点滅している。

( 蹴れ、って事なのかな? )

気になっていた足の痛みは、以前より辛くはなくなってきていて、どうにか

我慢はできる。 ただ、一抹の不安はあった。

目の前にあるのは頑丈そうな鉄の扉。

足だって無事には・・・ そう思いかけた時、ある事に気付いた。

( そうか・・・VRだ! )

そうと分かれば遠慮は要らない。  両膝を曲げ、扉を蹴破る体勢をとる。

粘っこい体感の中、思いっきり両足を伸ばしたが・・・             やはり、手応え(足)は無かった。

その直後、細かくも大きな振動が秀太の体にまで伝わってきた。

それとほぼ同時に、無数の気泡が視界を遮ったが、すぐに彼方へ飛んでいった。

( ・・・仰向けだったっけ。 )

起き上がると、目の前にあった靴の裏側型表示が消えた。

替わりに、進行方向(?)を示す矢印。

だが、どう見ても暗い海底にしか見えない光景が目の前に拡がっていた。

その光景が「夜の海底」と分かったのは理由があった。

行動に目安が付けやすいように設定された、“ 親切な照明 ” 。

つまり、光源があった事になる。

( ・・・潜水艦だ。 )

そこから3隻、眩い光の点が見えた。

( 何級なんだろう? )

何分、距離が離れている。しかも、眩い光の発生源なので型式が分かりづらい。

もっと近くまで寄って見ようと、体の向きを変えた。  すると・・・

3隻の潜水艦は、何かを射出し、その場を後にしようとした。

「・・・ちょっと、待てって!」  思わず声を出してしまった秀太。

反対に自分の方へ近づいてくる、缶詰のような物体。

( アイテム・・・か? )と、手を差し伸べようとした、その時。

瞬時に出来た煙玉の中に、鈍く光った閃光。

同時に体まで伝わってくる、激しい振動。

ズズン、ズズンと数十秒間、計6発の爆発だった。

海底の砂やヘドロが舞い上がり、視界が遮られてしまったが・・・。

“ 親切な照明 ” が去ったので、すぐに暗闇と化し、区別がつかなくなっていた。

( よく出来てんなぁ・・・このVR・・・。 )

目の前の表示は、進行方向に向けられているらしい矢印のマークのみ。

HP等の、ステータス数値の表示は一切無かった。

しばらく呆然としていた秀太だったが、ある大事な事に気付いた。

( この部屋・・・どうやって出ればいいんだ? )


その頃、犬小屋型のPC端末の部屋に立つ、何者かの姿。

秀太が飲み干した、いちごミルクの紙パックを握りつぶす、か細い手。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る