いつか、がたり。

藍夏

第1話 眠り姫

眠り姫












もしあなたが死んでしまったら、あなたはあなた自身の代わりとなるものを残したいですか?


もしあなたの好きな人が死んでしまったら、あなたの好きな人の代わりとなるものが欲しいですか?



そして、あなたはそんな社会を受け入れますか?



たとえ嫌だといってもあなたは受け入れざるを得ないんですよ。私たちは諦めてくださいとしか言えません。

ふざけているかもしれないですが、それは仕方がないことなんです。

もしあなたが今そんな社会を怨みたいなんて思うのであれば、あなたは科学の発展と人間の欲望をどうぞ恨んでください。

私たちはあくまで提供しただけですから。


_無常の会_




























昔は、つまり『眠り姫』がなかった時は、人は人の死をどうやって受け入れていたのだろうか?僕らがそんな世界に生きていたならばきっ人の死を受け入れることはできないところか、悲しみにむしばまれつづけたであろう。だが、現在は『眠り姫』のおかげで人々は身近な人の死による悲しみを少しずつ癒すことができるのだ。科学の発展は素晴らしいものだ。そう思っている。僕らは所謂感情の生き物だ。悲しいほどに感情で全てが狂うのだ。どうしようもない。歴史上の物語だって恋愛感情で大抵が狂ったと世界史の先生が笑いながらこの前言っていた。あながち間違ってはないのだろう、とか僕は思う。なにかしらの事件も感情が大抵関わってくる。確かによく考えると人の死は老衰以外は大抵は感情のせいだろう、と考えることもできる。だから、人間が感情を内部でコントロールできないのであれば、外的要因をつくってコントロールしようとすることは自然の摂理としておかしくないであろう。まぁ僕にはよくわからないのが事実だが。

逆もしかり。科学は理性ではコントロールできない。科学をコントロールできるのは感情だけ。

これは全て僕の詭弁だ。いや、これは、にいなから言われたことだ。

「ゆうは、なんでそう思うの?確かに科学と感情に関するゆうの考えは理解できなくもないよ。なんかその考えは確かに詭弁に近いけど、そんな考え、私は好き。でも、私は『眠り姫』は納得できないかなぁ。自分の意識が宿っていないとしても自分の代わりとなる存在が残ってしまうことって、悲しくない?本当の自分が忘れられそうで怖い。ゆうは怖くないの?私は怖い。私以外の人がゆうみたいに考えていると思うと、さらに怖い。なんか、自分が社会不適合者だとしても自分は自分しか知らないから、周りがすごく怖いんだろうなって思う。」

そう言って体を恐怖で震わせるようにしつつも、僕と目を合わせて軽く歯を見せて笑った。

「僕は昔と変わらず、今も弱いままだからなぁ。」

そう言うと、

「そっか、そうか。ゆうはそのままだね。」

そう意味深なことを言って笑った。

にいなは僕の幼馴染だ。幼い頃からなぜか一緒で気づいたら高校も一緒だった。昔はずっとボブであったのに、今はセミロングの髪の毛をハーフアップにしている。体育がある日などはポニーテールのようだ。肌は白く、華奢な体つきをしている。彼女は病弱で学校を休むこともしばしばあって、たとえ来てたとしても授業以外のときは大抵保健室にいる。だからということもあって、にいなは大抵一人だ。でも、それでも、にいなは凛としている。にいなにはにいなの世界があるのがハッキリとわかる。その世界は素晴らしく見える。

「なんかさ、病気だから仕方ないけど、辛いよね。ゆうみたいに健康だったら良かったなんて、私、思っちゃうの。ゆうに私、嫉妬しちゃうぞ。」

とかいっておどけるので僕は、

「本当に嫉妬しちゃったら怖いなぁ。」

とか言って僕も軽くおどけると、にいなはクスクス笑って、

「嫉妬してやるぅ。」

とか言う。本当に言動は馬鹿みたいだが、彼女は普通に頭がいいので、流石だなって思う。

「てかさ、にいなって頭いいくせに言動が馬鹿みたいだよな。」

そう言って茶化すと

「……え?そういうゆうもじゃん。」

そう言ってさらに茶番を繰り返す。


僕はにいなとこんな茶番を繰り返す時間が好きだ。だが、一つ確認する。僕はにいなが好きだ。それが恋愛感情なのか否かはわからない。だが、それはどうでもいいことだ。だって僕はにいなとそういう関係になるつもりはないからだ。にいなは言動的に甘いところがあって一般的に言われるぶりっ子という感じであるが、にいなは僕らの生きる世界を見ていない、そんな感じだ。超越しているというわけでも、なにかしらに取り憑かれているというわけでもない。ただ僕が手の中に入れてはいけない、僕の中に取り入れてしまうと、にいながにいなではいられなくなるのではないか、そう思ってしまうような子だ。

それは辛いことでもあるし、僕もよく数年こんな感情に耐えてきたなぁなんて思う。にいなのことを好きだと認識したのは中学生のころであろうか。クラスメイトからにいなといるところを茶化されて、好きだろとか言われて、認識してしまった。こんなことで好きになるなんて、僕もダメだなぁとこ思ってしまった。そしてにいなに何となく聞いてみた。その日の夕方。にいなが迎えを待っている保健室。

「ねぇ、にいなって、恋ってなんだと思う?」

そう聞くと、にいなはハッとした表情になったと思うと、ニヤニヤしだして、

「さては、ゆうに好きな人が出来たのかな?」

とか言い出した。

「違うよ。」

「えぇ、つまんないの。」

そう言って軽く頬を膨らませる。夕方であったことを本当に感謝したい。夕日が僕らを包んでくれた。そのおかげで頬が赤らんでもわかりにくい。そう思ったのはにいなの頬が少し赤く見えたからだ。多分夕日なのだろう。へらへらしていたから。そうするとにいなはふと窓の外を見て、言葉を出した。

「今の私に恋なんてわからない。……だってさ、私たち、まだ、中学生じゃん?わかるはずがないよ。例え今恋をして、私たちに出来ることはある?確かにショッピングや遊園地などには行けるよ。でも、限度がある。モラルがあるからね。しかも、そんな欲求はまだ未発達。そんな気がする。ただただ好きっていう感情には蝕まれるけれど、一緒になりたいっていう感情は薄い。悲しいよね。矛盾っぽいけど、そんなものなのかな?個人差とか言われてもわかんない。……てかさ、ゆう、なんで頷いてばっかりなの?ほんと、私に話させてばっかりで!!ゆうもなんか話してよ!」

そうおどけてぷくぅっと頬を膨らませた。

「僕にもわからないよ。ただ、さっきの奴らに言われて何となく恋ってなんだろうって思って。」

そう言うと、にいなは顔を下向けたと思ったらクスクス笑いだした。そうして顔をあげて、

「お子ちゃまだなぁ、ゆうは。ほんとに、好奇心旺盛でなによりだよ。」

そう言って笑った。

「仮に僕に好きな人ができたら、そんな人って『眠り姫』を使って残したいと思うような相手なのかな?」

そう少し話題を変えた。すると、にいなは少し黙って、

「ゆうは、好きな人の代わりを欲するの?」

と聞いてきた。

「いや、そういう意味じゃないんだ。僕は寂しいじゃないか。好きな人が消えた傷を背負っていくなんて、僕にはできないと思う。」

すると、にいなは優しく微笑んで、

「耐えられないよ。ゆうが言っているのは普通だよ。当たり前。死んでしまっても悲しくない人は好きなはずがないよ。でも、ご本人は死んでるんだよ。どう足掻いたって生き返らない。しかも、その人が死んだ後は代わりとして『眠り姫』が使われる。つまり、その時、君が愛してるのは、その機械の『眠り姫』ということになる。違うかな。」

「確かにな、でも、僕はにいなみたいに強くないから無理だなぁ……」

そう言うと、にいなは微笑んで、

「ゆうなら私の『眠り姫』を使われてもいいかな。」

とか言って笑った。多分にいなは僕のことを意識している訳では無い。にいなはあまりにも純粋すぎた。僕が苦しむくらいに。

「まぁ、ゆうは『眠り姫』の心配しなくてもいいよ。だって先に死ぬのは私の方だもん。」

そう言って笑った。僕はその後、どうしたかは覚えてない。多分またくだらない茶番を繰り広げていたのだろう。












どこかで恋が生まれるのならば、その近くで恋が生まれてもおかしくない。












僕らの人生は狂うためにあると言っても過言ではない気がする。












にいなとは別のクラスだ。僕はたまに保健室に寄る程度でそこまでずっといる訳でもない。大抵教室で本を読んだり人と喋ったりしている。

今日も友達と話していた。

「おまえ、また、ゲーム買ったとか言ってたよな?」

「まぁね、僕はゲーマーだからね。」

「俺、今日何も無いから放課後遊びに行ってもいい?」

「いいよ。」

そう言った直後に

「待ってぇ!!!」

そう言って、大河さんが手を振った。

「ゆうくん!うち、放課後話したいことがあるんだけど、いい?」

「ごめん、遊ぶ約束したから今度でいい?」

適当に謝ると、その友達が気まずそうに、

「俺、今度でいいから、行ってきたら?」

そう言われたのでしぶしぶ

「いいよ。」

と答えた。大河さんは高校入ってから二年間連続で同じクラスだった。ただそれ以外に深くは関わっていない。だから本音としてはあんまり二人きりになるのは嫌なのだが仕方ない。


放課後、大河さんは僕の席の前まで来て、笑って、

「パフェ、新作できたっぽいから、一緒食べいかない?」

そう言った。

「ほかの友達は?」

「そんなのどーでもいいっしょ?うちが友だちといようがいまいがゆうくんには関係ないっしょ?」

そう言った。夏の暑さのための汗でただでさえイライラしてるのにこいつときたら……でも我慢して笑って頷いた。

「そっかぁ、そうだね。」

そう言うと、にぃっと笑った。

大河さんはショートで確かバスケ部だったような。小麦色の肌で所謂パリピという類なのか?まぁ深くは考えないでいよう。人に対してこれ以上嫌気を感じたくない。


その喫茶店につくと、大河さんは僕を引きずってお店の人に

「日向夏の新作のパフェ一つと……」

「コーヒー一つ」

「くださーい」

僕はちらっと目に入ったコーヒーを答えた。

「ゆうくんは、なんか、食べないのー?」

そう聞かれたので

「いや、そんなお腹すいてないしな。」

そう言った。そして大河さんはずんずんと進んで、窓側の人の少ない席に座った。そして何回か呼吸をして言った。

「ゆうくん、うち、ゆうくんのこと好きみたい。付き合って。」

そう言って俯いた。はっきり言ってよくわからない状況下にいる。よく知らない人に誘われたかと思うと、なぜか告白される展開。呆然としていると、

「ねぇ、どうなの?つきあってくれんの?」

そう急かされた。だから僕はきちんと返した。

「ごめんね。僕は大河さんの気持ちに答えられない。」

そう言った。そう言うと、大河さんは、さらに俯いて、小さい声で

「本当に駄目なの?」

そう聞いた。罪悪感に駆られつつも僕は続けた。

「中途半端な気持ちで僕は付き合えない。僕は大河さんに対して恋愛感情を全く抱いていない。許してくれ。」


しばらくして来たコーヒーは想像通り苦かった。遠くにあるメニューに目を凝らすと紅茶の文字があった。すごい後悔した。コーヒーを飲み干して僕は立ち上がり大河さんに言った。

「お代は全て僕が払う。本当に今回はごめん。」

大河さんはのろのろとパフェを食べる。顔が死んでいた。

「ゆうくん。うちはずっとゆうくんを愛してる。それは忘れないで。」

「でも僕は大河さんを愛してない。」

そう言うと、大河さんは今までの笑顔から想像出来ないほど睨んで言葉を放った。

「それでも、だよ。」

僕は恐怖でおかしくなりそうだった。

足早にお店を去った。夕方みたいだ。


怖くなってにいなに電話した。なぜか頭に浮かんだのがにいなだった。すぐに繋がった。

「ゆう、どうしたの?」

「夜、ごめんな。少し話してもいいか?」

「もちろん。どうしたの?」

「大河さんって知ってる?」

少し黙った後、にいなは言った。

「ちひろちゃんのこと?」

「大河さんってちひろ……そうそう!!大河ちひろだ!!」

おもいだした。そうだった。

「あいつに告られたんだけど、どうしよ。」

そう言うと笑って

「付き合わないの?」

そう言ったので僕は

「付き合わないよ。」

そう言った。

「あのさ、それで断ったらすごい睨まれた。そして、めっちゃ脅された。もしかして、これ、メンヘラってやつ?」

そう聞くと、しばらく黙っていたが、そのままつづけた。

「気をつけて。私に出来ることはするから。」

「うん。ありがと。」

そう笑った。

「あのさ、もし、僕が殺されても、にいなは『眠り姫』を使わないで欲しい。」

にいなには絶対本音がバレたくない。だから頼んだ。

「そうそう殺されるとか……」

そう言って苦笑した後ににいなは続けた。

「意外だね。」

そのあと、僕らは適当に笑って、電話を切った。


次の日の朝、母親に起こされた。

「ゆう!あんた彼女でも出来たの?てっきりあんたが話す女子はにいなちゃんだけだとおもっていたんだけどねぇ。さっきね、大河さんって子が……」

すごく目が覚めた。母親はニヤニヤしていた。

「どういうことだ?僕に彼女はいないけど。」

そう言うと、母親は驚いて、

「あら、そうなの?てっきりあんたの彼女ちゃんかと思っちゃった。あのね、大河さんがゆうを迎えに来るって電話してきて……」

冷や汗がでてくる。

「僕、大河さんに電話番号教えたことない……」

そう言うと母親は不思議そうに首を傾けて、

「怖いねぇ。」

とか言ってリビングに向かった。

朝御飯は喉を上手く通らなかった。だから僕は残して直ぐに家を出た。母親は心配そうに見てきたが、

「大河さんは私が説得しておくから、いってらっしゃい。」

そう言った。朝がこんなに苦しいなんて。夏の朝は爽やかなはずなのに。ただただ蝉の鳴き声に蝕まれる。苦しい。なんでこんな恐怖を味わわなければならないのか。

「ゆーうくん、なーんで先に行くのかなー?」

振り返ったら、大河さんがいた。

「なんでうちが振られなきゃいけないわけー?信じらんなーい!」

無視した。答えるだけ無駄だと思った。怖い。ただ怖かった。冷や汗が止まらない。

「ねぇー、ゆうくん!うちの話きいてんの?寂しいんだけど!!!」

そう言って後ろから抱きしめられた。はじめてのハグがこれっていうのがさらに嫌気がさす。大河さんを振り払って、言った。

「おまえな、僕は大河さんのこと好きじゃないって言ってんだろ?」

ついつい口が荒ぶった。するとニヤニヤして、

「やっと、話してくれたー!ほんとに、しあわせー!!」

そう言って追いかけてくる。大河さんはまるでゾンビのようだった。昔、ゲームでゾンビから逃げて騒いでいたが、あの時とは違う恐怖感が襲う。

「ねぇーゆうくーん、逃げないでよー!うち、ゆうくんのこと好きなだけなのにー!」



目の前に横断歩道が見えた。点滅してたが走った。いける。今なら。遠くでにいなの声が聞こえたような。言葉は認識できなかった。
























衝撃。





首か?

いや、腰椎か?

いや、わからない。




痛み?

あるかな?

暑いな。

熱いな。












衝撃。



あったかな?

目の前に、景色?

あるかな?

ないかな?

青?

赤?

黒?

白?

何があるんだろう。

見えない。

いや、見えている。


認識できない。










大河さん、なんか喚いてる?

知らない。














にいな?いるのかな?

にいな、最期に会いたかった。























衝撃。

止まない。

定期的に。

いつ、痛みは?

わからない。

痛い。


辛い。














遠くでゆうが見えた。足が勝手に動いた。叫んだ。軽く当たっただけなのに。意識が遠のくのがわかる。あの病気のせい。さよなら。近くでちひろちゃんが叫んでた。











「ゆうくーん!おまえの好きなにいなちゃんはおまえのせいで死ーにまーしたああああーーー!!!」



















































Hello


Japanese


こんにちは


ロードします


どなたを選択しますか?


佐々木悠


ローディング

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る