第26話 火曜日の九条鈴羽
今回は鈴羽視点です。
4月に入社した新入社員がそろそろ仕事にも慣れてくる7月下旬。
会社の近くにある居酒屋を貸しきって恒例となった新入社員懇親会が行われていた。
私は正直言って全く興味がない。
何故なら今年は秘書課に新規の配属がなかったから。
昨年は杏奈ちゃん達が入ってきて中々に賑やかだったけど、幸いというか1年間退職者も出なければ結婚や出産で休む課員もいなくて、そういった理由で今年は配属がなかった。
「あれぇ?九条先輩〜何だかつまんなさそうですね〜」
「梓!当たり前じゃないの、九条先輩は早く帰って皐月君に甘えたいのよっ!」
「ああ〜なるほどなるほど」
「あのね、あなた達の中での私は何なのよ?」
「え?会社と別人?ねぇ?杏奈ちゃん」
「うん。九条先輩、皐月君の前だとすっごい女の子してるんだもん」
ワイワイがやがやと騒がしい居酒屋の二階の端の方でビールを飲んでいた私のところにお馴染みの2人がやってきた。
どちらもちょっと酔っているようで若干呂律が怪しい。
2人が言うようにそりゃまぁ、皐月君の前だと仕事モードじゃないから……だって皐月君て優しいし……何ていうか、あの目で見つめられるとダメなのよね。
もう、こう、さつきく〜ん!って感じで。
「あ〜あ、九条先輩が恋する乙女状態になっちゃった」
「先輩!先輩!帰ってきてくださいっ!九条先輩!」
「……え?あ、ああ、ごめんなさい。つい……」
杏奈ちゃんに揺すられて私は、はっと正気に帰る。
危ない危ない、つい……
やれやれと肩をすくめた2人はグラス片手に賑やかな輪の中へと戻っていく。
そういえば2人は懇親会が終わったらリョータくんが迎えに来てくれるって言ってたっけ。
皐月君……迎えに来てくれるかな?
私はスマホを取り出してポチポチと皐月君にLINEを送った。
『うん、大丈夫。終わる前に連絡くれたら迎えにいくね』
送ってすぐに既読がついて返事が来る。
うふふっ皐月君、優しいっ!
そうしてスマホをにまにまと触っていると誰かに声をかけられた。
顔を上げると、2人の男の子がビール片手に私を見ていた。
確か……営業部の新入社員だったかしら?興味がないから名前は覚えてないけど。
「秘書課の九条さんですよね?」
「ええ、そうだけど」
「うわぁ!近くで見るとマジで綺麗っすね!流石本社の華っすね!」
「おいっ!何、失礼なこと言ってんだよ!すみません、こいつバカなもんで」
「別にいいじゃんかよ!減るもんでもないしさ」
最近の若い子って、普通こんな感じなのかしら?皐月君が変に落ち着いてるからこれが普通なのかしら?
その後も2人があれやこれやと話しかけてくるのを私は適当に聞き流していた。
「ところで九条さんて付き合ってる人いるんですか?」
「お前!当たり前だろ?こんだけ綺麗な人だぞ!いないわけないだろ!ねぇ九条さん?」
「ええ、まぁ」
「な?って言うかぶっちゃけどんな人なんすか?年上っすか?やっぱどっかの会社の社長とかっすか?」
はぁ、なんか面倒くさくなってきたわ……早く帰って皐月君にぎゅうってしてもらいたい……
「彼氏さんと上手くいかなかったらいつでも言ってくださいね!いや、ほんとマジで俺いつもフリーなんで」
「あ、俺も全然大丈夫っすよ!こう見えて中々やるんすよ!俺!」
「誰もお前の腕前なんて聞いてねぇよ」
「何ならお試しでもいいっすよ」
「ウルサイ」
「「え?」」
「煩いって言ったの。聞こえなかったかしら?」
いい加減イライラしてきた私はジロっと2人を見てはっきりと言ってやると2人は口ごもりじりじりと下がっていった。
はぁ……多分また会社で噂になるんだろうなぁ。
ま、別にいいかな。皐月君がいるし。
私はもう帰る気で皐月君にお迎えを頼む。
『すぐ行くね』
返事を確認して私はさっさとこの場を退散する。
今日はいっぱいいっぱい甘えさせてもらおっと。
居酒屋を出たところで私はそう考えて頬を緩ませた。
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