第9話原因

「全部で金貨4000枚だ。どうする?白金貨にしておくか?」


 地竜を倒し、テツはアドルフとギルマスに事後処理を頼み、その数日後。ギルドマスターの部屋に呼ばれたテツはギルマスにそう言われる。


 一緒についてきたアドルフはあまりの金額に開いた口が塞がらずただ茫然としている。


「成程。で、金貨とか白金貨ってなんですか?」


 この世界のお金を知らないテツの発言に今度はギルマスが驚き呆然とした。


「なるほど、流れ人か。それなら仕方ないか」


 テツが軽く自分の今迄の経緯を話すとギルマスは納得し説明してくれた。


 この世界のお金は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨がある。

 鉄貨一枚で屋台の串焼き一本を買えるらしいので、テツの予想では鉄貨から100円、1000円、1万円と上がっていくので、金貨4000枚は4億円だ。


 いきなり大金を手にしてテツは漸くそれがとんでもないことだと分かる。


「因みにこれはテツ一人のお金だ。討伐に参加した私も金貨1000枚、そして逃げずに武器を調達したアドルフも金貨50枚が与えられる」


 思わぬ収穫からアドルフはガッツポーズをする。確かに今回はテツ一人の力ではないのでそれは構わない。


 だけど、と口を開こうとしたテツの気持ちを予想してか、ギルマスが先に言葉を発する。


「今回皆の金額が違うのは我々がパーティーではないからだ。その為活躍した順番にその金額を与えると決めた。これはギルドマスター決定だから拒否権は与えない」


 一緒に倒したのだから金額は均等に、と言おうとしたテツは先にそれを封じられ、その表情をみたギルマスはしたり顔でニヤリと笑う。


 流石組織のトップという所か。しっかり人の気持ちを理解し、その上で権力を上手く使い話している。


「ああ、因みにギルドではお金の預かりもしている。ここのギルドで預けても、世界中どのギルドでもお金は下ろせるので安心してくれ」


 テツは悩んだがお金は全てアイテムボックスにしまうことにした。いつどこでいい食材に巡り合えるかわからないから、お金は常備しておきたいという考えからだ。


「ま、ま、待ってくれ!確かに地竜の素材は高価だ!だが合計金貨50050枚は流石に高過ぎないか?」


 ここで正気に戻ったアドルフが待ったをかける。


「確かにアドルフの言いたいことは分かる。だが今回の報酬はこれが正しい。理由としては、まず地竜の素材だ。頭部の鱗三枚、そして頭部の損傷を除けばほぼ無傷な状態だった。Aランクモンスター、それもかなり貴重な地竜の素材がそれほど綺麗な状態で手に入ることなど歴史上見てもないことなんだよ。だからこその金額だ」


 聞けば地竜と言うのは鱗は武器に内臓の全てが薬品や研究に使われる為、今回の素材を上級貴族や王族までもが欲しがっているという。


「なにより今回の出現場所はこの街の中心だった。本来こんな場所に現れることなどないし、現れたら街は全壊、住人は皆殺しにされていてもおかしくない。それを誰一人死ぬことなく、建物も一軒たりとも壊れることなく倒したんだ。これは偉業と言ってもいい。ならばギルドとしてその対価はしっかり払う義務がある」


 もう少し言うならば、そんな偉業を成し遂げた者に小金を渡してはギルドの看板に傷がつく。


 ギルマスはそう言い話を締めくくる。


 テツはこの世界を知らないので、話を何となく聞いているだけだった。彼の頭の中にはそんな事よりも早くこの話し合いを終わらし地竜を調理したいという欲求があるだけだ。


 その話に納得したのか、アドルフはソファーに深く腰をかけなおし深くため息をつく。確かに今回の件は異例だった。偉業だった。その事を改めて考え隣に座る男の今後起こるであろう大変な未来を考えてのため息である。


「報酬の話は分かった。で?肝心な話はここからだろ?」


 アドルフの言葉にギルマスは顔をしかめ頷く。


「ああ、クライブのパーティーの事だが、恐らく死んだ。そして奴が使用した羊皮紙、通称スクロールに描かれていたのは禁術の『召喚魔法』だろう」

「……は?嘘だろ?あれは確か王族のみが閲覧できる『禁書庫』にしか情報は書かれていないはずだ!ただの冒険者が知っているはずがない!」

「そうか、そこまでは私も知らなかった。流石アドルフだな。先日すぐに王都のギルマスに聞いたところ「それは滅びた200年前に禁じた禁術で、知っている者は皆殺されたはずだ」と言っていたな」


 アドルフとテツはお互い知っている禁術の情報交換をし、テツはその内容から何となく『召喚魔法』の全容が見えてきた。


 『召喚魔法』とは魔法陣という物を使い、遠くに存在する魔物を瞬時にその場に呼び寄せられる魔法だそうだ。つまり魔物を好きな場所に瞬間移動させることが出来る。


 それだけで恐ろしい事だが、その魔法の一番恐ろしい所は『召喚する際召喚者及びその周囲の人間を殺してしまう』事だ。理由としては魔法陣とは術者の魔力を吸って発動する。だがこの魔法陣はそれだけでは足らずにその周囲の人間の魔力を吸いつくして発動するようだ。


「魔力が無くなった人間は死ぬ。今回被害者が三人だけで済んだことは不幸中の幸いと言えるだろう」


 とギルマスは言う。


「何であいつらがそんな物を……」

「そこなんだが、確かアドルフがあいつらに裏切られた際商人も一緒にいたと言っていたな?」

「ああ、確かにギルドから受注したクエストだから間違いないぞ」

「ああ、こちらでも調べた。だがその商人はこのギルドでクエスト完了の手続きをした後姿をくらませている事が分かった。ギルド総員で探したから間違いないだろう」


 とギルマスは言い話を締めくくる。


 部屋には沈黙と重い空気が漂い、誰も言葉を発しなかった。


 が、テツがその沈黙を意外な言葉で破る。


「なぁ、それよりあの地竜の肉はちゃんともらえるんだろうな?」

「「は?」」


 流石のテツだって事の重要さは何となく分かっている。人が死んだんだ。その事に何も感じないわけがない。


 だがそんなのは警察の、今回ならギルドの仕事だろう。テツが騒ぐことではないと判断した上での発言だ。


「あ、ああ。確かにその権利は一番にテツにあるが」

「おいおい。よくこの状況でそんな事が考えられるな」


 二人は予想外な言葉に少し引いていた。


「そんな事!?そんな事と言ったかアドルフ!地竜だぞ!?龍だぞ!?最高級の肉が目の前にあるんだぞ!?料理人の血が騒ぐんだ!」


 突然声を荒げるテツに二人は呆然とするほかなかった。


「いいか?もしかしたらその肉があれば今まで掴めなかったあの蜃気楼の正体が分かるかもしれないんだ!料理の最果て、究極の料理の手掛かりが!伸ばしても伸ばしても掴めなかったあの蜃気楼……。調理法なのか、食材なのか。もしかしたらそのどちらも足らなかったのかもしれない。地球じゃ届かなかった!あの蜃気楼……。旨味の最果てが……」


 突然立ち上がりまるで舞台役者のように天に向かい手を伸ばすテツに、二人は最早彼が何を言ってるのか理解不能だ。


「そうだ!ギルドだ!なぁギルマス、クエストってのは誰でも発注できるんだよな?」

「あ、ああ。もちろんだ」

「だったらこれから言う食材をできる限る早くそろえて欲しい」


 幸い金には困ってないテツは、その後テツはこの街で手に入る食材を聞き、そしてギルドを通してそれを入手することが出来た。

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