第5話 たるたるづくし

 うえっげほっげほっがはっ!! 口の中にモナカの皮がぱさぱさしているのと、タルタルソースが混ざり合って、ハーモニーを奏でやがる!


 これほどまでに意味不明な味がするモナカは産まれて初めての体験だ!


 口の中を洗い流すためにも俺は湯飲み茶碗を左手で取って、ぐいっとその中身を飲み干す。


「ぶふうううーーー! これ、お茶じゃねえ! タルタルソースじゃねえかっ!! 喉につっかえるわ、ボケがぁぁぁ!」


 なんと、湯飲み茶碗の中にはホカホカでちょうどよい温度のタルタルソースが注がれていたのである。俺はタルタルソースをタルタルソースで洗い流すという苦行を味わされたわけである。


「フォッフォッフォ。喜んでもらえてさいわいなのでおじゃる。どれ、お替りも用意しておくのでおじゃる」


「何、言ってやがんだ! 俺はタルタルソースは大好きだが、お茶の代わりにタルタルソースを飲むようなことはさすがに初めてだわっ!」


 しかし、俺の叫び声を無視して、車いすの男:阿倍野清明は嬉しそうな顔つきで、右手でひじ掛けに付けられているパネルをポチポチと操作し、真っ黒な机の上に新たな、湯飲みとモナカを現出させるのである。


 くっ……。これはこいつなりのおもてなしなんだろうが、俺にとってはただの苦痛である。


「なあ……。モナカはやめて、せめて海老フライエビ・フリャーとかを出してくれないか?」


「フォッフォッフォ。それはうっかりしていたのでおじゃる。では、モナカはやめて、海老フライエビ・フリャーを準備させてもらうのでおじゃる」


 阿倍野清明がそう言うと、またもやひじ掛けに取り付けられたパネルをポチポチと操作する。するとだ。皿の上に乗っていたモナカはシュンッ! という形容しがたい音を鳴らしたあとに消え去り、ブンッ! と言う羽虫が耳元で飛んだかのような音と共に海老フライエビ・フリャーが2尾、現れる。


「おお……。本当に海老フライエビ・フリャーが出てきた……。あんた、なんかすごくないか?」


 うーん。どこからどう見ても、至って普通の海老フライエビ・フリャーである。特筆するとすれば、長さ20センチメートル、直径2センチメートルとかなり大きな海老フライエビ・フリャーである。


 俺はその美味そうな海老フライエビ・フリャーを見て、思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。そして、右手で海老フライエビ・フリャーの中ほどを掴み、そのさきっぽを無警戒に上の歯と下の歯で噛んでしまったのであった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る