水織さんは何でも知っている~地獄耳の憂鬱~

皇 将

第1話 自己紹介

 桜の花も散って葉桜が目立つようになったこの時期。入学して学校の環境にも慣れて、なんとなく勝手がわかってきた今日この頃です。教師や生徒の雰囲気などがわかってきて、そろそろ勉強も部活も本格始動といった所。


 私の名前は『杉崎すぎさき 水織みおり』。ここ花崎高等学校に通う、自分で言うのもアレですが、外見も普通なら性格も普通、どこにでもいるごく普通の女子高生。…のはずなんですが……。

 実は私には、他の人たちとは違う、ちょっとした能力があるのです。それは……


─────

 ザシュッ

「ナイッシュウゥ!」

「くそー。体育の授業で本気を出さなくてもいいじゃねーかー」

「へっへーん」

─────


 今のは、男子の体育の授業という事で体育館でバスケットをしていて、3ポイントシュートが決まった音です。入れた人の声からすると、2年の松田先輩でしょう。次期バスケット部部長と言われている、運動神経バツグンの人です。噂では、なかなかモテてるようですよ。


 もちろん私は体育館には居なくて、今は数学の授業を教室で受けている真っ最中。ちなみに因数分解を教えられています。そんな状態ですから、教室からは体育館の中を見る事は不可能です。当然、教室と体育館はかなり離れていますしね。


 それ以外にも、


─────

「お? いいモク吸ってンじゃねぇか。一本くれよ」

「やだよ。コイツ高かったンだから」

─────


 校舎の裏の日陰で、煙草を吸ってる生徒たちが居るようです。声から察するに、多分いつもの吉本と木崎だと思われます。

 つい数日前に、生徒指導の教師にこっぴどく怒られたと言うのに、懲りずにまた吸ってるのでしょう。救いようがありませんね。


 もちろん教室から校舎裏は、廊下を挟んでその向こう側にあるので、死角になっているのでどうやっても見る事は出来ません。






 こんな風に、学校内で起こっている事の音は、ほぼ全て聞く事が出来るのが、私のちょっとした能力なのです。まあ、私本人にしてみれば、ただただ厄介極まりない物ですが。


 ですが、それを利用して色々と情報を集め、適宜良い所に流す、そういう事もやっています。情報って、『適切な相手に確実に渡して』初めて価値が出る、私はそう実感しています。


 知りたくもない事まで音や声で知ってしまえる、そんな私の日常です。話せる事だけですが、ちょっとだけお話しますね。


 相談や情報を求めに来る人たちには、情報料として、前金でミルクティー、成功報酬でお昼ご飯を求めています。あなたもそれでどうでしょう? ちょっとくらいの贅沢はいいでしょ?

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