9話

 どこにネクロマンサーがいるかわからないので、慎重に進まなければならなくなった。通ったことのない道でもあるし、ショップも遠いし、なかなか大変である。

 そして、夜が近づくと早めにテントを張り、将棋の特訓だ。コキノレミスは筋がよく、覚えるのも早い。プロ棋士に会わせれば、弟子にしたいと言うかもしれない。

 ただ、この子の目的は将棋が強くなることではない。あくまで、手段なのだ。

「コキノレミスは、将来何になりたいんだ」

「えっえっ、しょうらい?」

「おとうさんみたいになりたいとか」

「うん。おとうさんみたいにつよくなりたい」

「そうか。そうだよな」

 小さい子を置いて、一人ダンジョンに向かった父。どんな目的があったのだろう。自分が初めて冒険者になった時のことを、思い出す。将棋では、挫折した。自分より強い奴は、山ほどいたのだ。けれども、戦うのは得意だった。誰よりも早く、召喚に成功した。

 言ってみれば、負けたくないから、勝てる世界を探したのだ。

 ただ、どの世界にだって上がいる。冒険者の世界でも、挫折を味わうこととなった。

「母さんのこと、聞いていいか」

「えっ、うん。みたことないよ」

「ずっとか」

「うん」

「俺もだ」

「おんなじ?」

「そう、同じだ。そろそろ寝るか」

「うん」

 実は、父さんも知らない。それは、言わないことにした。


「次の一手か」

 新たな扉のギミック。それは、局面における最善手を当てるというものだった。まあ、俺にとっては一目の問題ではあるが。

「やってみるか」

「うんっ」

 問題を見るなり、コキノレミスの動きが止まってしまった。今の彼にはまだ難しすぎたかもしれない。しかしこれぐらいの問題は解いていかないと、なかなか前に進むことはできない。

 10分ほどして。


ブブーッ


 間違えたようだ。一時間は再挑戦できない。


「うーん」

「まあ、一時間考えればわかるんじゃないかな。その間に俺はメンテをしておこう」

 駒袋から駒を取り出し、一枚ずつ召喚してみる。同じ種類の駒でも、一枚一枚個性が違ったりする。きっちり状況を確認して、自分で調整できる部分はしておくことが重要だ。特に飛車と角は、使わざるを得ない状況はかなりのピンチともいえるので、きっちり調整しておかないといけない。


ブブーッ


 メンテにいそしんでいる間に、一時間がたっていたらしい。再び間違い。よくあることだ。ヒントを与えることはできないし、やる気がある限りは見守るしかない。


ウォーン


 また……いや早いな。しかもなんか、咆哮みたいな音だった。

「えっえっ」

「お前は問題に集中しろ。俺が片付ける」

 現れたのは、狼型のモンスター、モルスだった。大きくはないけれど、動きが俊敏で力も強い。

「ちょうどいい。試させてもらおう」

 召喚していた桂馬兵を、モルスに向けさせる。そして、俺自身も剣を抜く。

 しばらくにらみ合う、モンスターと俺たち。相手も未知のものに対して警戒しているようだ。

 こちらから、仕掛ける。桂馬兵がジャンプして、モルスにとびかかる。モルスは迎撃しようと、状態をそらした。しかし、桂馬兵はモルスを飛び越え、斜め後ろに着地した。

「こっちだ!」

 そこに、俺からの一撃。さすがに動きが早く、モルスもよけようとした。しかし剣は、前足を叩いていた。向き直った桂馬兵が、さらに拳を落とす。動きが止まったところを、俺からもう一撃。

 勝った。桂馬兵も無傷だ。

 冒険者カードを取り出し、モルスに向ける。カードにはレンズがついていて、写真を撮ることができるのだ。どういう理屈かわからないが、撮った対象が生きているかどうかも判別できるらしい。これを本部に送ると、討伐ポイントが加算される。


ピコーン


 そして、響き渡る気持ちのいい音。


「三度目の正直、か」

「うんっ」

「よし、行くか」

「うんっ」

 ここを抜ければ、また上に戻れるはずだ。今のコキノレミスの力なら、上の階ではあまり詰まらずに進める気がする。




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