6話

 複数の足音が聞こえてくる。冒険者たちのものだろう。怒号や悲鳴も聞こえてくる。

「伏せておけ」

「う、うん」

 だんだん音が大きくなってくる。この部屋に入ってきたのだ。そして、別の音も。

「数が多い。何てもの連れてきてくれたんだ」

「もんすたー?」

「ああ。それもかなり強いはずだ」

 断末魔が続き、そして、音が聞こえなくなった。ただ、まだ空気は冷たい。決して姿を見てはいけない。そういう奴らがいるはずだ。

「コキノレミスも覚えておけ。下層にいくほど強力なモンスターがいる。危なくなったら脱出魔法で浅いところまで戻るが、一部のゴースト系モンスターはついてきてしまう」

「えっえっ」

「実体のない者ほど人間の魔法に反応しやすいらしい。しかも、魔法の通路が開くと周囲のゴーストたちも入り込むことがある。もし移動してきた層に弱い冒険者がいたら、とても太刀打ちできない。一網打尽だ」

「じゃあそのごーすと、ずっといる?」

「いや、ゴーストは光の下では徐々に弱る。下層部とは違い、放っておけば死ぬ」

「へー」

「死ぬ間際がわかれば、ちょっちょっと出て倒せばいい稼ぎになるんだが。何体いるかわからんしなあ」

 そんなわけで、待つしかない。まあ、どのみち今戦うとまずい理由もあるししょうがない。

「こえはだいじょうぶ?」

「ああ。ゴーストには耳がない。というか身体がないからな。人間の魂に反応しているだけだ。で、このテントは魂を隠す機能付きだ。高かったんだぞ」

「すごいっ」

「道具は大事だ。皆装備に金をかける傾向があるが、まずは逃げ場確保が大事」

「わかったっ」

 二時間ほどたった。嫌な空気はなくなった。外に出てみると、死体が四つ。

「よく見ておけ。俺たちもいつこうなるかわからない」

「……うん」

 まだ若い奴もいる。一応本部に連絡を入れたので、回収はしてもらえるだろう。ただ、ゴーストの攻撃は魂を直接傷つける。蘇生は難しくなるし、生き返っても別人格になっていることもある。

 コキノレミスは、目をそらさなかった。こうして、少しずつ冒険者になっていくのである。


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