4話

 ダンジョンの朝は早い。

 ダンジョン内は密閉空間だが、ちゃんと照明がある。朝になると灯り、夜になると消える。明るいうちは、あまり強いモンスターは現れない。ポイントを稼ぎたい者はわざと夜に活動するが、前に進みたい者や、俺みたいに冒険以外の生業をする者は、できるだけ明るい時間を有効利用する。

「ちょっと冒険者カード見せてみろ」

「はいっ」

 冒険者はダンジョンに入るときに、液晶画面付きの冒険者カードを渡される。ここには冒険者の情報が書き込まれていく。例えば俺は、職業は【指導棋士】、23歳、今月の討伐ポイントは20、未還元ポイントは75、累計ポイントは1570。他にも倒したモンスターや獲得したお宝の履歴、到達最下層など、様々なことが記録されている。

「ポイントはゼロ……まあ、何も倒してなさそうだから当然か。10歳。職業未定。これでよく許可されたな」

「てんすうたりてるからっていわれた」

「まじか。体力2。技術2。走力……27?!」

 ある一定の能力がないと、ダンジョンに入ることが許可されない。体力や技術の数値は、少なくとも6はないときついと思う。ただ、これらの数値、今の今まで20が上限と思っていた。

「まさかお前、全部逃げ延びてきたのか」

「うんっ。でもはじめてかべがあったから」

「あそこでつまったわけか。なんかすごいな」

 ある種の天才なのかもしれない。が、残念ながらそれだけではダンジョンを攻略できない。将棋だけ強くてもだめなように。

「そういえば」

「ん、なんだ」

「この『きりょくぽいんと』って、ひょっとしてしょうぎの?」

「ああ、それか。そうそう、指導棋士だけのポイントだ。昨日お前に指導したから、5ポイント増えたぞ。まあ、これは物とは交換できないんだけど」

「じゃあ、いつつかうの」

「本当に大事な時に。まあ、使わないに越したことはないんだけど」

 最近は仕事も少なかったので、あまり棋力ポイントがたまっていない。この階層ならば大丈夫だろうが、ちょっと心配ではある。

「ぼくもいつか、しどうきしやってみたい」

「おっ、目標が高くなったな。楽な仕事じゃないが、やりがいもある。父さん見つけて、それでもまたやる気あったら目指してみな」

「うんっ」

 かつて、同じことは言った冒険者は何人かいる。けれども、実際になった人のことは聞かない。その理由で最も多いのが、命を落とす、だ。

 コキノレミスも、一人になったら生き延びることは難しいだろう。けれども契約から先のことは、俺の関知することではない。ない、のだけれど。

「出発するぞ」

「うんっ」


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