第6話

 さて、猫をかぶって過ごしたおかげで、3月2日当日を無事迎えることができました。

 それでも油断なく許可された時間までおとなしくしている。

 ともすると表情筋が緩んでしまうのを警戒しながら、外出許可の時間まで待機。

 なんたって「昔から知ってる人の葬儀」に行くのだ。ニヤニヤしていては怪しまれる。

 寝巻きから普段着に着替え、「あれ?どうしたんだろ?」という幾つかの事情を知らない視線を無視して、いざ外出!

 JR(になったばかりの)信濃町駅に突進!

 だけど、場所がわからない。青山葬儀場なんて学生が知ってるわけもない。病室で地図なんて見ることできなかったし。

(繰り返しますが、これは平成元年の出来事です。スマホもGoogleマップも無い時代です)


「砂時計の砂粒は、この際ダイヤモンドより貴重だ。」

 読んだばかりの銀河英雄伝説のセリフが脳裏に浮かぶ。

 貧乏学生はタクシーを呼び止めた。

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