第Ⅲ章 3話

「えぇ、まぁ間違ってはないですよ」


「... はぁ、」


私の前で涼しげな顔を見せるヤクモが、亜米利谷のスパイだったなんて。突っ込みたいことが多すぎる。

「まぁ、私の場合少し特殊でしたけどね。」

「特殊...?」

「亜米利谷では、機械の技術が進んでいたでしょう。私みたいな生身の人間にスパイさせなくても、機械を使って情報を盗んじゃえばいいんですよ。」


自軍の司令室での情報を盗られた可能性...

私は、情報盗撮を非常に気にしている身だ。

だから、情報は全て手書き。機械は決して使わない。そして、味方同士の通話には暗号を入り混ぜている。それを踏まえれば機械の盗聴はないと見てとれるはずなのに、情報を盗まれたのだ。


和室と呼ばれる部屋で、優雅に緑茶を飲む彼は、どうやら五年前にここでスパイをしていたらしい。近頃、亜米利谷に出向きスパイ行動をしている、と噂程度に聞くが、まさか元私達の敵だったなんて。丸眼鏡の奥でにこりと笑う、瞳の見えない顔がどうも馴れない。


「情報盗聴といっても、機械に取り付けるだけではないですからね」

「... 盗聴機、とか?」

「えぇ、小型なものであれば、何処にでもつけられますから。」


盗聴機となれば、やっぱりこの施設にスパイというものがいるという訳か...

「ヤクモは、アンドロイドじゃないのに、亜米利谷からスパイ命令を受けてたの?」

「... 亜米利谷にも、人間はいますよ。スパイ行動は、アンドロイドよりも人間の方が効果的だと考えたのでしょう。ただ、さらに技術が進歩した今では、アンドロイドも今頃、この施設のどこかにいるでしょうねぇ。」

呑気な顔をして、恐ろしいことを言ってくる。

アンドロイドが、自爆でもしたら大騒動だ。


「私は、機械音に疎いですけど、レンは耳が良いのでもしかしたらどこかで聞いたかも知れませんよ。一度伺ってみてはどうでしょう。」

「... 分かった。ありがとう。」

「いーえ、おきになさらず。」


一礼し、フスマを閉める。


アンドロイド... 盗聴機


どう動いても、状況は厳しいだろう。



せめて、総統だけでも守らなければ...

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