二度目

「なんだ、また来たの?飽きないねぇ。いいよ、小遣い稼ぎに丁度良い。」

 足が呪われたかのように、忍の元へ行こうとし、それに逆らえない。

 それを知ってか知らずか忍はそう貴方を手招いた。


「呪詛返しって知ってるかい?知らなくても覚えておいた方がいい。」

 唇に人差し指を添えて、息を使って静かにしろと表された。

 忍の姿は以前と違って、獣のような耳と尻尾がある。

 それは貴方にしか見えていない。

 貴方はそれを口に出さないでおく。

 また、この首を掴まれたら困るだろうから。


「天切る地切る八方切る天に八違ひ地に十の文字秘音一も十々二も十々三も十々四も十々五も十々六も十々吹きて放つさんびらり。」

 忍は口早にそれを貴方に聞かせた。

 そして二つの炎を一つに消した。

 闇夜を照らすは後二つ。


「もし、あんたが此処に来ることを拒むなら、それを唱えてもいい。」

 忍はそう言いながら、貴方の頬に片手を添えた。

「まぁ、あんたなら唱えるまでもなく、その指を止めりゃいい。」

 今の貴方の表情を、忍は見てはいない。

 貴方の声も、聞いてはいない。

 知らない。

 互いに、知らないままに。


 烏が鳴いた。

 忍は影と共に姿を消す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る